新聞報道によると、家電量販店のビックカメラやノジマがダイナミックプライシングの導入を決めたようです。
実は、このブログのダイナミックプライシングに関する記事はヒット記事でして、様々な方に読んで頂いているようです。そこで、少し責任を感じるところもあり、
「これからダイナミックプライシングを導入する企業に、ダイナミックプライシングで失敗しない為に気をつけて欲しいこと」
というテーマで記事を書いてみることにしました。
(失敗事例と言えるのではないかな?と思われる情報も紹介します)
今はダイナミックプライシングのプラス面(メリット面)ばかりを見て導入を決めている企業が多いようです。しかし、実際に導入した起業にとっては、マイナス面(デメリット面)も小さくはないようです。
この記事を参考にして頂き、これからダイナミックプライシングを導入する企業は、そうしたデメリット面を最低限に抑えて下さい。そして、それが日本の景気の為にも大事なことだと考えています。
ダイナミックプライシングの導入で企業が期待するメリット
最初に、ダイナミックプライシングを導入しようとしている企業が、ダイナミックプライシングを導入する理由について確認しておきましょう。
その理由は、
「ダイナミックプライシングによって、同じものを、より高く消費者に売る事が出来る」
「ダイナミックプライシングによって、より在庫を残さないように売る事が出来る」
といったものです。
これらが、ダイナミックプライシングを企業が導入するメリットです。
なお、ダイナミックプライシング導入を取り巻く企業側の環境については、このブログで以前に書いた記事が詳しいので、宜しければ、先にお読み下さい。
ダイナミックプライシングの導入による消費者のメリット
次は、消費者の側のメリットを確認しておきましょう。
消費者のメリットは、
「ダイナミックプライシングによって値段が下がる事があるので、同じものが、より安く買える可能性がある」
という事でしょう。
これについては問題ないと思います。
ただし、企業は、これまでも売れ残りそうな商品(在庫)を、値段を下げて売り切ろうと努力してきています。ですから、ダイナミックプライシングが導入されても、それほど状況は変わらないかもしれません。
すなわち、消費者にとっては、あまりメリットは生まれないかもしれません。
ダイナミックプライシングの導入で予想される消費者の不満
問題は、言うまでも無く、ダイナミックプライシングによって値段が上がる事による消費者への影響でしょう。
確かに、値段を上げても売れる可能性があるからこそ、ダイナミックプライシングを導入した企業は、商品の値段を上げる訳です。
そういう意味では、
「消費者が高い金額を支払ってくれる時に、高い金額で商品を売るのだから何が悪いのか?」
という企業側の言い分も聞こえてきそうな気はします。
しかし、です。
そこに落とし穴がいくつかあるように思うのです。
もっとも見逃されているのは、
「高い値段を出して買わざるを得なかった、消費者の感情(気持ち)」
でしょう。
次に例を出しますが、消費者にとって、
「その商品やサービスに、高い値段を出さざるを得なかった」
という事(事情)と、
「高い金額を払って買った、商品やサービスに満足する」
という事は違います。
それを軽視した値付けをすると、せっかくの企業イメージやブランドイメージが傷つくかもしません。
すなわち、ダイナミックプライシングの導入によって短期的に得られたもの以上に、長期的には、失うものが大きくなるかもしれません。
既に聞こえてきているダイナミックプライシングの失敗事例
あまり表には出てきていないようですが、実は、「既に失敗事例と言えるのではないか?」と思われるような一般消費者の声を聞く事が出来ています。
ダイナミックプライシングの失敗事例の一例目
社名や商品名は隠させて頂きますが、まず一例目。
あるホテルがダイナミックプライシングを導入しました。その結果、ある日の部屋の値段が大幅に上昇しました。
それでも、そのホテルが導入しているダイナミックプライシングの価格算出の仕組み自体は優秀であったようで、部屋はほぼ完売したそうです。
しかし、です。
その日に宿泊した、ある客の意見は、こういったものだったようです(少し修正しています)。
「どう考えても、値段に見合った部屋ではなかった。」
それはそうでしょうね。通常は、数分の一の金額で売っている部屋ですから。
企業側の視点では、それだけ多くの需要がある日に部屋を提供したのですから、消費者には納得して欲しいところではあります。
しかし、その客の意見は、こう続いたそうです。
「腹がたった。もう、このホテルには二度と泊まらない。」
仕方なくお金は出したが、納得はしていなかった。そして、その結果、その企業は反感を持たれてしまいました。
ダイナミックプライシングの失敗事例の二例目
そして、もう一例。
毎年、海外旅行に行っていた家族がいました。今年も、入念にプラニングを行い、旅行商品を選びました。
そして、家族会議を行い、最終的に、ある商品に決めて、旅行会社に発注しようとしました。
しかし、実は、その家族会議の間に、その商品は値上がりしてしまっていたのです。
結局、その家族は、気分が削がれてしまい、海外旅行に行くのを止めてしまいました。そして、代わりに、もっと安い国内旅行に行く事にしました。
国内旅行は、自分で手配する事にしたので、旅行会社の利用はしませんでした。
そして、その家族は、国内旅行が気に入ってしまいました。
結果、その家族は、翌年からも海外旅行ではなく国内旅行に行く事にしました。もちろん、これまで使ってきた旅行会社を使う事もありません。
このケースはダイナミックプライシングの失敗例と言えるかどうかは怪しいと思います。ですが、これに近いことはダイナミックプライシングの失敗によって起きるだろうと思いますので、ここで紹介させて頂くことにしました。
失敗を避ける為に企業に最低限守って欲しいこと
さて、この2つの例を読んで、ダイナミックプライシングを導入しようとしている企業の担当者の皆さまは何をお感じになったでしょうか。
そうしたデメリットを覚悟の上で導入されるのは構わないと思います。ここで挙げたようなマイナス面以上に、導入した企業にメリットがある可能性も勿論ありますので。
しかし、消費者の購買意欲を不用意に削ぐ事は、日本経済にとってもマイナスだと私は考えます。
ですので、ダイナミックプライシングを導入する企業に、一点だけ、私から守って欲しいと思うルールをお願いして、この記事を終わりにしたいと思います。
それは、
「消費者に対して金額(価格)を提示したならば、その金額を見た消費者が、一定期間の間だけで良いので、その金額で買える事を保証して下さい。」
という事です。
もちろん、その一定期間とは、「消費者が、その金額で買えるはず、と思っている期間」という事です。
金額を提示する際に、金額の有効期間を提示するのも良いでしょうし、消費者に商品がなくなる危険性の高さを周知するのでも良いと思います。
とにかく、
「消費者が、ある金額で買えるはず」
と思っている期待を裏切るような事は止めて欲しいと思います。
もし、これが守られないと、先ほどの例ではありませんが、
・店頭で商品を手にとって、家族に相談して、その後、レジに持って行った所、値段が既に変わっていて、不快な思いをする
・ネットで値段を確認し、家族に購入の承諾を得る努力をしている間に、その値段では買えなくなってしまい、家族を説得する労力が無駄になる
といった事が現実に起きてしまいます。
もちろん、これまでも品切れなどで、購入したいのに出来なくなった、という事は発生しています。しかし、今後、ダイナミックプライシングの導入が広がると、そういった悲劇の発生は相当な勢いで増加するでしょう。
そして、そうした経験をした消費者は、最終的には、その企業に対して良い印象を持たなくなりますし、最終的には、消費に対する意欲も無くなっていく危険性すらあるでしょう。
そういった面を甘く見ず、ぜひ、「消費者に嫌われないダイナミックプライシングの導入」、すなわち、「失敗が少しでも小さいダイナミックプライシングの導入」を企業にはお願いしたいと思います。
なお、激しい価格変動が消費者にもたらすデメリットについては、このブログの他記事でも触れています。ご関心のある方は、そちらもお読み頂ければ幸いです。