ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

ダイナミックプライシングは消費者の味方か敵か

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ダイナミックプライシングという言葉をご存じでしょうか。

基本的な概念は昔からあり、多くの企業で用いられてきた手法ではあります。

しかし、技術の進歩や消費者の動向などが変化した結果、この手法が社会に与える影響は非常に大きくなり、昨今、注目されている価格変更に関する手法です。

最近では、ビジネス誌などでも取り上げられるようにもなりましたので、目にされた事がある方も多いかもしれません。

今回は、「ダイナミックプライシングが、なぜ今、企業にとって注目されているのか」という所の確認から始め、このダイナミックプライシングが社会に与えるかもしれない悪影響について、一つの見方を紹介します。

もしかすると、ダイナミックプライシングに反対するのであれば、今しかないかもしれません。自分の権利に敏感な個人の方は、読んでおいて損はない内容だと思います。

 

ダイナミックプライシングとは

まず、「ダイナミックプライシングとは?」という意味の確認から始めましょう。

この概念を一言で言えば、「需要に応じて、価格を変動させる」というシンプルなものです。直訳では「動的価格設定」です。

「それだけ?」と思われた方。それだけです。

ただし、昨今、話題となっているダイナミックプライシングは、その価格変動の「頻度」と「幅」の両面において、昔から存在する価格変動とは比べものになりません。

ある雑誌の調査によると、あるアマゾンで販売されていた商品の事例では、24時間で4倍近くも値上がりしていたそうです。そして、米国版アマゾンでは、「価格変更が1日250万回にも及ぶ」という調査報告まであるそうです。いやはや、凄い世界ですね。

 

なぜ、ダイナミックプライシングが注目されているのか

では、なぜ、ダイナミックプライシングが注目されているのでしょうか。

一言でいえば、ダイナミックプライシングを導入する事で、「企業が儲けたいから」です。

ただし、経営を昔から見ている立場として付け加えさせて頂くと、単純に、そう割り切れないところもあります。

と言いますのは、「これまで、企業は値上げに失敗してきた」という過去があり、それを踏まえて、このダイナミックプライシングへの取り組みについて考えないと、ダイナミックプライシングを導入しようとしている企業の理解に失敗すると思うからです。

 

企業、特に、消費者向けの商売を行っている企業は、これまで長い間、コストの上昇(仕入価格の上昇、人件費などの上昇)に悩まされてきました。

しかし、ご存じの方も多いでしょうが、これまで、消費者向けの価格を上げる事が出来ずに来ました。

人件費の高騰などが多く報道されるようになり、消費者向け価格の改定に成功するようになったのは、本当に最近の事であると言えるでしょう。しかし、それでも、コーヒーチェーンが10~20円の値上げをしただけで新聞やニュースで取り上げられるほど、日本の消費者は価格に敏感です。

この結果、企業は何をしてきたか?

皆様もよくご存じの事とは思いますが、

「価格は上げずに、商品に含まれる量を減らす」

「消費者から見えづらいところのコストを落とす」

といったことをしてきました。

しかし、それも、そろそろ限界。そして、もっと良い方法はないかと模索を続けてきた。

そういった中で、海外で成功事例が多く、日本でも受け入れられそうな手法として、企業が注目しているのが、この「ダイナミックプライシング」という手法だと思うのです。

 

日本でもしばらく前から、こうした考え方を積極的に導入してきた事例はあります。

「航空券が、時期や時間帯によって、同じ路線でも大きく価格が異なる」

「売れ残り状況に応じて、ホテルや旅館の価格が大きく変わる」

こうした事例については、皆様も良くご存じでしょう。

今、注目されているのは、これまでダイナミックプライシングという言葉が一般的ではなかった商品やサービスに対しても導入され始めている、または、導入が検討されている為です。

 

ダイナミックプライシングについての消費者の印象

ダイナミックプライシングというものについて、一通り理解して頂いた所で、皆様にお尋ねします。

 

皆さまは、一消費者として、このダイナミックプライシングについて、どのようにお感じでしょうか?

 

以前、ダイナミックプライシングについて意見を聞いた限り、私のまわりでは、

「そのお陰で、閑散期に安く旅行で泊まれてラッキーだった」

「どうしても、その時期に飛行機に乗りたい人は、高いお金を出しても仕方ないんじゃない?」

といった、どちらかと言えば肯定的な意見ばかりでした。

なるほど。それも、その通りです。

 

もし、「普通の人の日常生活が影響を受けない範囲で、価格が上がる」のであれば、消費者の不満はあまり出ないでしょう。

また、価格が一部で上がった結果、逆に、価格が下がる事も増え、「自分がメリットを受けられる可能性が高い」という状況になっていくのであれば、ダイナミックプライシングの導入は、多くの人が歓迎するものになるのかもしれません。

説明がうまい企業は、「ビジネスで使う人など、お金を持っている人から取るだけなので、こうした仕組みに反対しないで下さい」といった説明をして導入するのかもしれません。

そう言われると、反対しづらい気もします。

 

ダイナミックプライシング導入の裏側

しかし、改めて考えて下さい。

この仕組み、そもそもは「企業が儲けたい」為に導入される可能性が高い訳です。

という事は、今まで以上に「安く買える」こともあるかもしれませんが、基本的には、「価格は上がる」可能性が高いと思われます。

そして、ダイナミックプライシングが、様々な商品・サービスで導入されていった後の世界をイメージしてみて下さい。

気がつくと、これまでよりも多くのお金を払わないと、毎月買っている「生活に必要なもの」が買えない時代が近づいているのかもしれません。

 

ダイナミックプライシングが引き起こす効果について、整理しましょう。

「ダイナミックプライシングによって、価格が下がる部分があり、その効果によって、これまで購入しようとしなかった人が買うようになる」、という部分の効果については、素晴らしい事だと思われます。

「誰も買わずに捨てられるかもしれなかった売れ残りの食材が、値下げで購買意欲が喚起された人によって購買される。そして、店としては、その商品の売り切りに成功する。」

「空席のまま飛ぶはずだった飛行機の座席が、価格が安いなら、という事で旅行に行く人が生まれて、埋まる。」

こういうダイナミックプライシングであれば、ほとんどの人にとって文句はないと思います。

 

しかし、気がつくと、先ほども述べた通り、「これまでと同じモノを同じように買っているだけなのに、お金が貯まらなくなった」という事も発生するはずです。そして、いつの間にか、物価が実質的には上がっているという事になるかもしれません。

今、政府は、物価を上昇させようと必死です。この為、この点が大きな問題として取り上げられる事はないでしょう。

しかし、昨今、一般の人々が気がつきにくいところで、社会保険料などが毎年上がり、手元に入ってくるお金は減少の一方です。

そして、それは、ジワリジワリと私達の購買意欲に影響している気がするのです。

これが、日本経済が良くなっている実感が持てない人の多さに繋がっている気もします。

これと同じ事が、このダイナミックプライシングによっても加速されるのではないか、という気もしてしまいます。

 

「価格の変動が悪いこと」とは言いません。

「政府が価格を安易に規制すべき」とも言いません。

たまの贅沢品を、何か事情があって買わないといけない時、価格が以前より上がっているのは許せるかもしれません。

しかし、一般の営利企業が提供する商品やサービスでも、事実上、私達は買わざるをえないものが沢山あります。

そうしたモノの価格が、ダイナミックプライシングという企業側が導入する高度な手法によって、消費者が気付きづらいかたちで上がっていくのは、どうなのでしょう。

物価上昇を狙う立場からすれば、「よくぞやった」という話かもしれません。

しかし、裏側で、もっと大きな景気後退の影を育てているような事にはならないでしょうか。

そうした事にならないよう、よくよく今のうちに考えておきたいものです。

 

※この記事が好評だった為、続編を書きました。宜しければ、お読み下さい。

www.yoshida-ri-blog.com

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