ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

「値上げした喫茶店」にて、環境変化を経営で踏まえる難しさを思う

喫茶店 値上げ細かい場所は書けませんが、最近、ある喫茶店(カフェ)が値上げをしました。個人経営の店です。

恐らく、店としては、微々たる金額という認識だったのでしょう。そして、最近の人件費の上昇傾向などを考えれば、上げ幅は相当に抑えたつもりだったのだと思います。

しかし、客としては、いつものように注文をして、値段を聞いた時に「えっ」と思う上げ幅でした。それは、この店を利用する頻度が高かったからでしょう。

恐らく、1年に一度しか行かないような店であれば、前回の注文でいくら払ったか、など覚えてもいないでしょうし、多少、メニューが値上げされていても、何とも思わなかったと思います。

 

ちょっと興味があったので、オーナー経営者に話を聞いてみました。

「仕方がなかったんですよ。仕入も人件費も上がってきていて。今まで良く頑張ってきた方だと思います。」

やはり、予想通りでした。

続けて、彼はこうも言いました。

「たぶん、しばらくは客足は落ちると思います。値上げすると、しばらくは客足が落ちるんですよ。早く元に戻ってくれると良いんですけど。」

これを聞いて、この店の将来は危ないかもしれないな、と感じました。

別に、経営者の彼が話している事自体は、それほど不思議な内容ではありません。

値上げした時に、良く聞かれる内容です。

でも、今回は、「値上げで離れた客足の一部は、二度と戻らないだろうな」と予想出来てしまいました。

 

気になったので、どの位の期間で客足が戻りそうか、聞いてみました。

「半年くらいで元に戻ると思いますよ。数年前に値上げした時も、それ位はかかったんです。やっぱり、数ヶ月は値段への抵抗がなくなるまでにかかるみたいです。」

なるほど。以前の値上げの経験で、値上げのデメリットとメリットを想定していたのですね。結構、キチンと考えている経営者だったかもしれません。

しかし、それを聞いても、こちらの予想は変わりませんでした。

実は、数年前と今では、この店を取り巻く環境が違う事を知っていたからです。

それは、競合店の存在です。数年前には無かった競合店が近くに出来ており、そちらの方が値段も安く、また、商品レベルも少し良かったのです。

 

ただ、この店は、この店に来る事が習慣化している客が一定数おり、そうした客で持っていました。そういった客は、新しい店にわざわざ行こうとは思わず、この店で満足していました。

彼らは、この店で満足しているのですから、新しい店に「リスクをとって」行く必要はなかったのです。ある意味、合理的な判断をしている人たちです。

しかし、今回の値上げの幅は大きく、常連の人たちに、これまで考えて来なかった「乗り換え」、すなわち、「他の店の商品も試してみようかな」と思わせるはずなのです。

そして、違う店の方が安くて良い事を知った客の一部は、もう、この店には戻って来ない可能性が高いでしょう。今度は、その店に行く事が習慣化してしまい、そこから動こうとはしないからです。

もっとも、「この店の値上げの幅が、常連の人たちに与えるインパクトの大きさ」についての「私の予想が正しければ」ですが。

 

もちろん、経営者の今後の努力なり、何らかのプラス要素が発生する事で、失った客足以上に客が増えるかもしれません。ですから、この店の今後の業績がどうなるかは解りません。

 

ただ、恐らくですが、冒頭の発言からは、

「以前の値上げの時と今では、状況が変わっている」

という事を、この店のオーナー経営者が理解していない事がうかがい知れました。

競合店の存在自体は知っていたと思います。

しかし、前回の値上げ時と状況が違う、という所までには結びつけられていないのでしょう。

小さな「事件」ではありましたが、改めて、自社の置かれた環境の変化を把握する難しさについて考えさせられる一件でした。