ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

ブレグジット(Brexit)の国民投票から理屈の通らない選択を考える

ブレグジット 国民投票

ブレグジット(Brexit)が未だに実現せず、先も見通せない状況です。

これはイギリスの国内が、この問題がどちらに向かうにせよ、まとまりきらないからだと思われますが、日本からみると、この状況は良く解らないのではないでしょうか。

「こんな事になる位なら、最初からブレグジットなんて決めなければ良いのに」

「今からでも、EU残留を決め直せば良いのに」

単純に、そんな感想を持つ日本人も多いのではないでしょうか。

今は、現地の国会運営上の様々な問題もあるでしょうから、混乱している理由を分析するのも一筋縄ではいかないでしょう。そもそも、私はイギリスの政治の専門家でもありません。

しかし、昨今のこの騒動で、一つ思い出す事があります。

それは、ブレグジットに関する国民投票が行われる直前、知り合いのイギリス人(日本在住)が明確に放った一言です。

「国民投票では、100%、ブレグジット推進派が勝つ」

100%ですよ。驚きました。

私は、この発言と、今のイギリスの混乱がリンクするように感じます。

この記事では、彼が、なぜ、「ブレグジット推進派が100%勝つ」と言ったのか、という所から、日本でも、私達が気をつけるべき点について考えてみたいと思います。

もちろん、経営する側にとっても、理解しておくべき点です。

 

最初に、簡単にブレグジットについて確認しておきましょう。

ブレグジット(Brexit)とは、要するに、「イギリスが、EU(欧州連合)から抜ける」という話です。「英国の」といった意味の英語の「British」と、「抜ける」という意味の英語の「exit」を組み合わせた造語です。

そして、2016年にイギリスでこの是非を問う国民投票が行われ、ブレグジット推進派が勝利しました。

その結果を受けて、イギリスがEUからスムーズに抜ければ話は簡単だったのですが、その「抜け方」について話し合いが終わらず、抜ける作業が順調には進んでいない、という話です。

ちなみに、うまく抜けられなかった場合、「イギリスと他のEU加盟国との間での商売が今まで通り出来なくなり大変だ」という事が、揉めている大きな要素の一つです。

日本で言えば、「東京在住の人が神奈川の会社から通販でモノを買おう」と思ったら、「許可を得る為の書類を都庁に出しに行って、おまけに手数料まで払うハメになる」、くらいのイメージでしょうか。

そんな事になったら、今までの人の交流や商売の土台は滅茶苦茶です。今後、地域間の関係を大幅に薄めてやっていくのであれば何とかなるのでしょうが、お互い、切りたくない関係もあるでしょうし、生活するのも不便になりそうですよね。

日本にとっても人ごとではありません。日本企業も、イギリスで仕事をしていますので。そして、ヨーロッパの人たちが混乱すると、その結果、世界のほかの国の人たちも影響を受けますので。

そうした事態はさすがに不味いだろう、という事で、今、両者で穏便な抜け方を模索している訳ですね。しかし、色々と合意出来ないポイントがあり、未だ、お互いが合意出来る抜け方がまとまっていない、といったところでしょうか。

 

話を戻します。

冒頭で述べたイギリス人が「国民投票では、100%、ブレグジット推進派が勝つ」といった理由、何だと思いますか?

私は、

「他の国から、賃金の安い労働者が来て、イギリス人の仕事が奪われている」

「他の国から、安いモノが入ってきて、イギリス企業の商品が売れない」

といった理由を予想していました。

そうした理由で、イギリスが困っているから、「イギリスはEUから抜けたいんだ」と言われれば、私も納得したでしょう。当時、メディアで騒がれていた論理も、そういったものだった気がします。

ちなみに、EUに加盟していると、人の移動やモノの移動が自由なので、確かに、こういった事は起きうるのです(だからこそ、EUから下手に抜けると、先ほど上げたような問題が起きる訳ですね)。

しかし、違ったのです。

彼は、

「EUの為に、莫大な金を払わされているのが嫌だ」

と答えたのです。

当時、そのような理由でのEU反対派がいる事を私は知りませんでしたので、びっくりしました。

日本でいえば、分担金が嫌で、日本が国連から抜けるようなものでしょうか。

いや、もっと身近な話ですから、長年住んできた場所にも関わらず、急に、町内会費を払いたくなくなったから引っ越す、くらいの話でしょうか。

どちらにせよ、「それだけの理由?」と思ったのを覚えています。

日本に住む私達からすると、メディアからの情報などから、イギリスがEUを抜けるデメリットが大きい事は想像出来ていました(そして、その想像が間違いではないからこそ、今もこの問題が騒がれている訳でしょう)。

しかし、国民投票の後のイギリス国内の混乱をみると、彼の言っていた事は、ある程度、イギリス国民が持っていた意見とは合致していたようなのです。

 

さて、ここからが本題。

先ほどの発言の後、私は彼に、いくつかの質問しました。

「そんな事を言っても、EUの為に払ってきたお金は、これまで、イギリスが必要だと認めてきたから出してきたんでしょ?」

「EUに出すお金がなくなったとしても、国内で必要となる金が増えて、思ったほどEUを抜けるメリットって無いんじゃない?」

「EUから抜けるデメリットを考えたら、そのくらいのお金は我慢したら?」

日本での報道で得た知識をもとに、まっとうな検討ポイントを指摘したつもりでした。

また、ブレグジットが正しいかどうかを判断する気はなかったので、あくまで、議論の論点を挙げただけのつもりでした。

しかし、普段は議論好きで、要らない事までつっかかってくる彼でしたが、この問題については違いました。

「とにかく、EUに金を払わないのは正しいんだ」

と言い張ります。

これ以上、この話はしても仕方がないな、と思いました。

正直、私を含め、私のまわりでは、皆、「ブレグジットは国民投票で通らないだろう」とも思っていました。

 

しかし、ブレグジット、通ってしまいました。そのニュースを聞いた時、驚きと共に、彼の自信に満ちあふれて「100%」と言った顔が思い浮かびました。

ブレグジットに賛成票を入れた人の理由は、色々とあるのだろうとは思います。

しかし、一つだけ思う事は、あの時の彼の表情からすると、「理屈ではなく、ブレグジットが正しいと思いたかった」という人も多いのではないかな、という事です。

もし、理屈でブレグジットが選ばれていたのであれば、あの国民投票の時に、もっと問題点についても十分な議論が行われ、仮に同じ「EUから抜ける」という結論が出たとしても、今、ここまで揉めていないのではないでしょうか。

 

そして、このような、「キチンと考えるのを放棄してしまっていること」は、私達の身近にもたくさんあるように思えてきました。

日頃は、購入するにあたって比較するのが大好きな人でも、ある商品については、「この製品は、とにかく良いから、他の製品と比較するまでもなく、買いたい」と言ってみたり、逆に、根拠もなく、「あのメーカーの商品は壊れやすいから、買いたくない」などと行ってみたり。

こうした場合、誰かに、「貴方の選択って間違っているよね」「貴方の選択って理屈が通ってないよね」と言われても、素直に受け止められない人、いませんか?

むしろ、こうしたケースで、誰かから指摘を続けられると、その人に反感を持つことすらあったりしませんか?

これらは、企業イメージやブランド力によるものである場合が多いでしょうから、不思議なことではありません。そもそも、企業は、そういった行動を消費者に取らせるように頑張っている場合すら多い訳ですから。

消費者がそういった行動を取るのは、もちろん、自由です。ブランドイメージだけに頼って、何か好きなブランドを買ったりする事があったとしても、もちろん良いでしょう。

しかし、もし、大手メーカーの強大な力で、消費者の行動が裏でコントロールされるようなことばかりになったらどうでしょうか。

それはつまらないし、ブランドイメージを構築するのは苦手でも、実は、消費者の為に良いものを開発して発売しているメーカーが報われないな、とも思います。

そして、そういった会社が商品が売れない事で、全て潰れていくのも、少し悲しい気がします。

今回のブレグジットの是非については、もちろん、当事者が決めていけば良いことだと思います。

しかし、私たちの周りにある、「なぜか理屈を超えて選んでしまう商品やサービス」。これらについてのイメージの見直しは、私たちが出来ることです。

ブレグジットの混乱を見て、「私達も思い込みで動きすぎていることって無いのかな?」と、たまには考え直してみても良いんじゃないかな、と思う今日この頃です。