フューチャーデザインという考え方をご存じでしょうか。
フューチャーデザイン(Future Design、FD)とは、一言で言えば、「将来視点を現在の選択に役立てる」という考え方です。
私達は、目先の事ばかり考えて判断をしがちであり、結果、長い時間軸で考えると「間違い」とも思えるような選択をしがちです。
そこで、現在の判断(検討)を行う際に「将来の視点」による分析を取り入れる事で、「正しい判断」ができるようにする(将来失敗の回避)、というのがフューチャーデザインの考え方です。
ただ、そのような考え方は理想としては理解できるのですが、現実には、なかなか出来そうもないように思えてしまいます。
しかし、西條辰義氏(京都先端科学大学特任教授、一般社団法人フューチャー・デザイン代表理事)によれば、私達は「目先の利益を差し置いてでも、将来世代のしあわせをめざすことでしあわせを感じる」という性質を持っているのだそうです。
フューチャーデザインでは、その性質(西條氏は、この性質を「将来可能性(futurability)」と呼んでいます)を活かす社会のデザインをめざすのだそうです。
なお、西條氏は、更に解りやすい例として、「食料が十分でないときに、自らの食べ物を減らし、その分を子供に与えることで親がしあわせを感じることにうなずく人は多いだろう。これを血縁関係のない将来世代まで延ばす事は可能だろうか。」とも説明しています。
このように説明されると、確かに、フューチャーデザインという考え方を身近に感じますし、我々も取り入れられる可能性があるのではないか、とも思えてきます。
フューチャーデザインの考え方を簡単に説明できたところで、次に、フューチャーデザインを活用した検討の具体例を西條氏の著書から3つほどご紹介させて頂きます。
まず、矢巾町(岩手県)では、水道についての検討にフューチャーデザインの考え方を取り入れて検討したところ、「水質維持のためには、今、水道料金は値上げした方が良い」という結論が出て、実際に水道料金の6%の値上げに踏み切ったそうです。
また、「建設費が高いが、安全性やメンテナンス性や耐久性の観点から、ステンレス製の配水タンクを選ぶ」という決断も出来たそうです。
次に、松本市(長野県)では、新庁舎についての検討でフューチャーデザインを活用した所、将来の視点では「住民票のような書類の発行はネットで済んでしまうようになったので、(将来の)今ではそのような部門はなくなり、問題を相談する為に市役所に行くので、ワンストップで問題解決の糸口が見つかるような仕組みが出来ており、新庁舎はその仕組みにそった建物になっている」といった提案が行われたそうです。
ちなみに、現在の視点で新庁舎についての同様の検討をした場合には、「いつ市役所にいっても待ち行列がでているので、新庁舎ではもっと窓口を増やして欲しい」といった提案だったそうです。
両者を見比べると、その差に驚かされます。
また、宇治市(京都府)では、集会場の将来についての検討にフューチャーデザインを活かした結果、「住民の中で得意分野を持つ者が市から給与を支払われて子供の教育などの面倒をみるようになり、その拠点はお寺が活用されるようになるので、公民館や集会場は必要なくなる」といった将来像が提案されたそうです。
単なるハードウェアとしての集会場の将来についての検討にとどまらず、地域における教育のあり方といった点にまで踏み込んだ将来像が描かれている点が非常に印象的と思います。
※事例における括弧内の文章については、意図が変わらないように留意しつつ著者がオリジナルから修正しています。
では、どのような作業を行う事によって、このような独創的な提案が導き出されたのでしょうか。
共通しているのは、「今を生きる人が、今の視点だけではなく、将来の時点での視点で検討を行う」という事ですが、細かい進め方は決まっていないようです。
例えば、先ほど取り上げた事例の中には、「将来世代の視点で検討するグループ」と「現代の視点で検討するグループ」に分かれて検討し、後に両者間で議論するような進め方で検討された結果も含まれます。
また、グループに分けると仲違いが発生する為、同じグループが、全員で、まず、将来世代の視点で検討し、その後、現代の視点で検討し、すり合わせる、といった進め方で行われる事もあるようです。
どちらにせよ、「将来世代になりきって検討する」という事を真剣に行うのが肝のようです。
興味深いのは、「将来世代になりきる際に、現代の事について考える場合には『昔は○○だったが・・・』といった表現で検討する」のだそうで、そこまで徹底する事で、始めて、現在の利害関係にとらわれない検討が出来る模様です。
いかがでしたでしょうか。
フューチャーデザインの考え方は、なかなか興味深いように思います。
世代間で利害が反するような課題を検討する際に、今後もフューチャーデザインの考え方が活かされる事は多いのかもしれません。
皆さまの周囲にある同様の課題について検討を行う際にも、このフューチャーデザインという考え方を思い出して頂くと、新しい可能性が見つかるかもしれません。
※本エントリは、西條辰義氏の著書「フューチャー・デザイン」(日経BP社,2024年)の内容を参考にしています。この本には様々な事例や考察が含まれていますので、フューチャーデザインが気になった方は、ぜひ、ご一読下さい。