ある年配の経営者から、
「もう、ビックカメラで買い物はしない」
という話を伺いました。
「ちょっとした事が理由で年輩の顧客を逃す事になる」という良い例になると思いましたので、ここでも紹介させて頂こうと思います。
早速、その経営者がビックカメラを嫌いになった理由をご紹介しましょう。
その経営者は、職場近くに店舗がある事もあり、プライベートはもちろん、ビジネスで必要なものについてもビックカメラで購買をしていました。
しかし、最近、始めて、ビックカメラで「ネット取り置き」をして、店頭で商品を受け取ろうとしたのだそうです。
ネット取り置きというのは、最近よくある、ネットで注文をして、店頭で品物を受け取る、というアレです。
日頃は店頭で買ったり、配送を利用していたりしたのだそうですが、今回、配送料が無料にならない商品の配送料(そういう設定の商品があるのだそうです)が、ネット取り置きだと無料になるらしく、めずらしくネット取り置きを使ってみたのだそうです。
そして、発注後数日で、「店頭に商品が届いたので、取りに来て欲しい」という内容のメールが届き、店頭に出向いたのだそうです。
ここまでは良いのです。問題は、ここから。
店頭で、メールを印刷したものを店員に見せ、取り寄せた商品を受け取る段になりました。
そこで、店員に、
「スマホで受取用のバーコードを見せて下さい」
と言われたのだそうです。
しかし、その社長、スマホは持っていません(パソコンは、かなり使いこなせる人ですので、IT音痴という訳ではありません)。
店員に、
「スマホが無い場合はどうすれば良いのですか?」
と聞いたのだそうです。
しかし、店員からの返答は、
「受け取りには、スマホに表示されるバーコードが必要になります。」
という冷たい対応だったそうで。
一応、その社長、諦めずに印刷したメールを見せて、
「このメールを見せれば、受け取れると書いてある」
と説明したそうなのですが、ビックカメラの店員はまともに取り合ってくれなかったそうです。
この時点で、この社長、かなりお怒りになっていたのだと思いますが、仕方なく、同行していた部下のスマホを借りる事に。
しかし、店員が要求するバーコードを出す為には、ビックカメラの会員サイトへのログインが必要となります。
普段、スマホを使い慣れていない年配者が、ビックカメラのホームページに辿り着き、そして、IDとパスワードを入力するのは、どれほど大変だった事か。
部下の助けを借りて、ホームページにはたどり着けたのだそうですが、残念ながら、IDとパスワードは思い出せず、結局、その場でログインは出来なかったのだそうです。
※ちなみに、ビックカメラは、パスワードに関して、かなり厳しい制約をしていますので、簡単なパスワードでは会員登録が出来ない仕組みです。この為、いきなり思い出せと言われても、かなり難しい事は予想できます。
この社長がビックカメラを嫌いになってしまった理由は、もうお解りだと思います。
「スマホは使いこなせて当たり前」「自分が使っているサービスへのログインは出来て当たり前」と思っている方であれば、もしかすると、ピンと来ない方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、少しでも、年配者がこのような操作をカウンターで強いられている光景を想像できる方であれば、この社長の気持ちは理解して頂けると思います。
では、この一件、誰が悪いのか。
「受け取りにバーコードを必要とする」というオペレーションの設計自体には、大きな問題はないと思われます。
確認しましたが、この社長も、以前、印刷したバーコードを使ったコンビニ支払いなどは利用されていました。
ですから、私が思うに、一番の問題は、ビックカメラがユーザーに送ったメールの内容にあります。
メールも見せて頂きましたが、受け取りの為に来店を要請するメール(店頭に荷物が届いた事を知らせるメール)に、「スマホが必要」や「ログインが必要になる」といった一文は見当たりませんでした。
それどころか、メールの冒頭、「なお、お受け取り店舗にてこちらのメールをご提示ください。」と書かれています。
これでは、社長が「メールさえ持って行けば良いのだろう」と理解しても仕方がありません。
もしかすると、ネット注文時には何か注意書きがあったのかもしれませんが、最終的なメールの記載がこのようになっていた以上、私は、「ビックカメラが悪い」と判断しています。
次に、なぜ、このような事が起きてしまったのか。
色々と理由は考えられますが、間違いなく言える事は、ユーザーとのやり取りに関する部分についての、ビックカメラ側の配慮不足でしょう。
関連する業務やシステムを社内で開発をしていたのか、ベンダーに任せているのかは知りませんが、どちらせによ、ユーザーが関係する部分の業務設計は、ユーザーからの満足度に大きな影響があります。
ユーザーに送られるメールに関しても、相当な注意をもって設計が行われるべきです。
しかし、その部分が不十分であった、と思われます。
ビックカメラ側でチェックする体制が不十分だったのかもしれませんし、そもそも、今回の社長のような顧客の存在をイメージする事すら出来なかったのかもしれません。
もし、後者であれば、今回のような事が起きるのは当然ですし、自業自得と言えます。
もし、業務の都合でバーコードを必須としたかったのであれば、メールに、「スマホで提示出来ない場合には、バーコードを印刷して店頭に持ってきて欲しい」というような内容を書いておけば、それで良かったはずなのです。
もちろん、企業側にも顧客を選ぶ権利はあります。
ですから、「スマホを使えない顧客は要らない」とビックカメラが思うのであれば、それは一つの選択肢ではあります。
しかし、そこまで、しっかりと考えた上での業務設計であったのかどうか。
恐らく、業務をIT化しようとする中で、広範囲の顧客をイメージできない担当者が業務設計を行い、それを十分なチェックなく通してしまっただけなのではないか。
そして、そのせいで、ビックカメラは、ビジネス購買までしてくれている顧客を失う結末になってしまった。
そんな気はしています。
このエントリをお読みの他企業の方も、ぜひ、他山の石にして頂きたいと思います。
なお、この社長、比較の為に、後日、ヨドバシカメラでも同じようなネット取り寄せをしてみたのだそうです。
結果、ヨドバシカメラでは、全く問題なく、メールの提示だけで商品が受け取れたとの事でした。
おまけに、重い荷物を持ち帰る為に、無料の袋にも当たり前のように入れてくれたそうです(ビックカメラは有料だったそうです)。
以上、ある経営者がビックカメラを使うのを止めた理由でした。
ちなみに、このブログでは、以前、「ある人がヨドバシカメラ(の通販)を使うのを止めた理由」という内容のエントリを投稿しております。たまたまですが、競合二社について、似たエントリを投稿する事になってしまいました。