ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

ある事業所がヨドバシの通販だけを嫌う理由から顧客満足度を考える

ヨドバシカメラ


少し前の話になりますが、ある事業所のトップから、

「ヨドバシカメラの通販を使うのを止めたよ」

という話を聞きました。

この人は、ヨドバシカメラの店舗が近くにあった事もあり、電化製品はもちろん、多くの生活用品をヨドバシカメラで買っている人でした。ファンと言っても良いと思います。

ですから、驚きました。

今日は、

この事業所が、なぜ、ヨドバシカメラの通販『だけ』を使うのを止めたのか

という事情の紹介を通じて、

顧客満足度を維持する『意外な』難しさ

について、取り上げさせて頂こうと思います。


この話を聞いた時、驚いて、こう聞き返しました。

「ヨドバシカメラと何かトラブルがあったのですか?」

そうすると、この方は、こう答えるのです。

「いや、ヨドバシカメラは素晴らしい。何の問題もない。」

謎ですよね。使うのを止めると言っている人の発言ですから。

もう少し探ってみたくなり、こう聞いてみました。

「ヨドバシカメラの店舗での買い物は続けるという事ですか?」

そうすると、この方は、予想通り、こう答えてくれました。

「もちろんだ。止めるのは、ヨドバシカメラの通販だけだ。残念だが、今後は、通販に関しては、ヨドバシの競合のB社を使う事に決めた。」

なるほど。少し解ったかもしれない、と思いました。

皆さま、この方が、ヨドバシカメラの「通販だけ」止める事にした原因、お解りですか?


なお、ご存じない方の為に、少し補足しますが、ヨドバシカメラの通販での価格が、競合のB社と比べて高いという事は基本的にはありません(この話を聞いた時点での認識)。

また、ヨドバシカメラは通販(最近は、特に配送)に力を入れています。

品揃えも単一の会社が提供している通販サービスとしては悪くないですし、配送に関しては、「ヨドバシエクストリーム」という独自サービスを提供しており、配送のレベルも高いと言われています。

実際、私もヨドバシカメラの通販は良く使っていますし、日本の会社が提供する通販サービスとして、某大手サイトの良きライバルとして成長していってくれる事を期待しています。

ですので、ヨドバシカメラの店舗販売に満足している人が、「通販だけ」満足できないというのは不自然ではあるのです。

おまけに、通販全般が嫌になったのであれば解らなくもないですが、この方は、競合のB社ならば問題ないという見解です。

こうした分析に慣れている人でも「?」と思ってしまう状況ではないでしょうか。


もちろん、この後、その理由については、この方から聞き出す事が出来ました。

そして、その「なぜ、ヨドバシカメラの通販を使うのを止めたのか」という理由は、

「届く荷物のほとんどが、煙草臭かった」

というものでした。


この方は、色々と事情があって、今では煙草の煙が大嫌いになっています。

また、この方の事業所では、社員に禁煙を強く勧めています。

そういった状況下で、「煙草臭い荷物が届く」事は、会社としても、個人としても許せるものではなかった訳です。

ここで、「ヨドバシの従業員は、煙草を吸いながら商品を扱っているのか」「ヨドバシの倉庫って空調管理も出来ていないのか」などと思われた方。甘いです。

私が事務所でヨドバシの通販で買った荷物を受け取っている限り、そういった事はありません。

恐らく、キチンとした管理・教育がされているのだと思います。

※実際の所は、私は知りません。これをご覧のヨドバシカメラ関係者の方がいらっしゃいましたら、実情をコメントやツイッターでご一報頂ければ幸いです。ヨドバシファンの本人には責任を持って伝えます。

※ただ、最近、時間指定をしても、ほとんど守られていない気はします(指定時間よりも早い方なので、大きな問題にはなっていませんが、社内的に受け取りがしやすい時間をわざわざ指定している訳ですから、多少、問題はあります)。


では、なぜ、ヨドバシカメラの荷物が煙草臭かったのか。

この方の事業所は、都内ではなく、首都圏とはいえ、ヨドバシカメラの自社配達エリアではありませんでした。

この為、ヨドバシカメラは、配送を大手Y社に委託していたのです。

ちなみに、このY社は、配送を更に他事業者に委託している事でも知られています。

恐らくですが、荷物が煙草臭かったのは、事業所を担当するY社の委託事業者に問題があったのだと思います(Y社自身に問題があった可能性もあります)。

そして、ヨドバシカメラの競合のB社は、このエリアへの配送にY社を使わず、S社を使っているようでした。

ヨドバシカメラも競合のB社も、自社の配達員が配達する訳ではなかったようですが、利用している配送業者に違いがあったのです。

そして、少なくとも、この事業所を担当するS社の配送には問題がなかったようなのです。

ですから、この方は、「ヨドバシカメラ自体には不満がない」にも関わらず、「ヨドバシカメラの通販を使うのを止める」という決断をする事になったのです。


さて、ここから学べる経営上の教訓について。

ヨドバシカメラとしては、「配送に問題があるなら、報告して欲しい」と思っていることでしょう。

また、配送を請け負ったY社自身も、「問題があるなら、クレームを言って欲しい」と思っているかもしれません。

しかし、多くのユーザーは、クレームをあげるよりも、購買する先を切り替えます。

不思議なもので、ヨドバシカメラ自身とのトラブルであれば、恐らく、この方も、ヨドバシカメラにクレームをつけ、怒ったと思います。

しかし、今回のようなケースでは、「ヨドバシカメラが悪い訳ではない」と解ってしまうが故に、ヨドバシカメラにはクレームをつけようとはしなかった模様です。

そして、「無言で」競合他社に流れてしまいました。


もうお解りだと思いますが、顧客満足度を維持する為には、自社内部だけではなく、自社が使っている「委託業者」にも目を光らせる必要がある訳です。

特に今回は、(恐らくですが)孫請け業者の品質にまでも。

そして、顧客は、不満があっても、それを自社に伝えてくれるとは限らない。無言で、競合に乗り換えてしまう。

顧客満足度を維持する事の難しさを、この事例から感じ取って頂ければ幸いです。


なお、余談ですが、私から見ると、この事例には、更に怖い結末があります。

もし、この方が、通販でB社を使ってみて、競合B社の囲い込みマーケティングの餌食になった場合、実店舗での購買についても、ヨドバシカメラではなく、B社でしか買わなくなってしまう可能性があります。

こうなると、ヨドバシカメラは、通販という1チャネルの、それも、配送に関する孫請けのせいで、自社の顧客を完全に失ってしまう事になるかもしれない訳です。

この競合B社、通販で購入すると、良く「実店舗で使えるポイントアップクーポン」のようなものが付いてきます。値段はヨドバシカメラに近いですから、ポイント分だけ、B社の方がお得と感じてしまう人は多いかもしれません。

改めて考えると、この競合B社、かなり良く考えているのかもしれません。