ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

価格競争の新時代?デジタル広告が新しいデフレを生み出すかも!

次世代(第二世代)のデジタル広告による価格競争とデフレ(デフレーション=物価が下がる)

実は、近い将来、

デフレ(デフレーション=物価が下がる事)の新しい波が来るかもしれない

と分析しています。

その理由として注目しているのが、「デジタル広告の進化」です。


デジタル広告の存在については、皆さまも良くご存じの事でしょう。

ネットを使うと、様々なところで、「商品やサービスを宣伝する文章や画像・動画」を目にします。

あれがデジタル広告です。

デジタル広告による収益がある事で、google社などは多くのサービスを無料で提供してきました。

しかし、ここで取り上げるデジタル広告は少し違います。

その進化形ともいえる「次世代のデジタル広告」についてです。

ここでは、現在、google社やyahoo社などが提供しているデジタル広告を「第一世代のデジタル広告」と定義し、次世代のデジタル広告を「第二世代のデジタル広告」と定義し、説明を続けます。


第一世代のデジタル広告を配信する主役はgoogle社やyahoo社などのネット企業でした。

そして、「顧客に商品やサービスをアピールする」という事を通じて、企業などから広告費用を得てきました。

しかし、第二世代のデジタル広告は少し違います。

第二世代のデジタル広告では、「モノを売る事業者(主に通販サイトを運営する小売業)」が配信の主役となります。

第二世代のデジタル広告では、まず、実際にモノを買おうとしている顧客に対して、様々な情報をプッシュします。

例えば、通販サイトで、ある商品を買おうとしている顧客に、「違う商品の情報を提示する」や「同時に買うと便利な商品の情報を提示する」など。

現在でも多くのサイトで行われている事ではありますが、その多くは、あくまで、「自社が扱うモノの売上を向上させる為」に行われています。

しかし、第二世代のデジタル広告では、それを、他企業から宣伝費を貰う事で行うのです。

通販サイトで「競合他社の商品を買おうとしている客」に対して行う宣伝は、かなり強力な販促手段となりうる事でしょう。

場合によっては、「購入しようとしている製品の悪い部分」を指摘する事で、「自社の製品を購入するように誘導する」という事すら可能かもしれません。

その上、通販サイトの場合には、顧客の情報がかなり正確に分かっているケースが少なくありません。

ですから、自社のモノを売りたい側の立場で考えると、第二世代のデジタル広告は、第一世代のデジタル広告と比べ、「広告を出す価値(魅力度)」が大きく異なるのです。


更に、第二世代のデジタル広告では、「顧客がモノを買う」という事に関するデータ自体が大きな意味を持つ事になります。

第一世代のデジタル広告でも、「顧客は、こんなキーワードでネットで調べ物をしている」といったデータは収集され、広告主側に提供されています。

しかし、第二世代のデジタル広告では、より細かい「どのような顧客が、どのような行動を行った結果、どのような商品を買っているか」といったデータまで扱われる事になります。

言うまでも無く、そのような情報はメーカーにとって非常に価値のあるものです。

この為、そのような情報が集まる通販サイトには、企業は様々なかたちでお金を出す事になります。

もっとも、ここまで来ると、デジタル広告という名前が不適切な気はしてきますが。

※厳密には、サービスを売る事業者も含まれるのですが、説明を簡単にする為に、ここでは、モノを売る事業者のみを対象として説明を続けます。


では、なぜ、この第二世代のデジタル広告がデフレに繋がるのか。

第二世代のデジタル広告の主役となる「モノを売る事業者」は、これまで、「モノを売って利益を確保する」という事業を行ってきました(または、モール型の場合には、そこに出店している企業が、そのような考え方で事業を行ってきました)。

この為、当たり前の事ですが、「仕入値(または製造原価)よりも、いかに高く売るか」という事を考えて値付けを行ってきています。

販促目的でのディスカウントなどはあるにせよ、基本的には、売値を仕入値(または製造原価)よりも高く設定する事で利益を得ています。

しかし、第二世代のデジタル広告が当たり前になると、「モノを売る事による利益は無くても構わない」という事が普通になってしまう可能性があるはずなのです。

第二世代のデジタル広告を扱う企業にとっては、「モノを売る事によって、モノを売る利益以外の利益が得られる」わけですから。

例えば、以下のような収入が得られる事になります。

・モノを販売する場を持っている事で、その場への広告収入が得られる

・モノの販売する事で得られる販売データを売って、収入が得られる


そして、実は、そのような収入に注目する動きは既に始まっています。

小売業のデジタル広告の収入は、既に大幅に上昇しているのです。

例えば、第二世代のデジタル広告における主要プレイヤーとなる可能性が高いと予想されるAmazonは、2022年に380億ドルという巨額のデジタル広告収入を得ているのです。

ですから、第二世代のデジタル広告の主役達は、既に「デジタル広告収入」の重要性を十分に認識しているはずなのです。


また、海外の株取引の現場では、「取引に関するデータ」を活用して稼ぐ事で、「株取引の手数料を無料にする(顧客は無料で株取引が出来る)」といった事が実際に起きています。

これは、販売データを収入源とする(=販売自体では利益を取らなくても良い)という考え方による代表例と言えるでしょう。

このような事と同じような事が、今後、多くの商品の販売でも起こりうる可能性がある訳です(さすがに、モノの販売金額が無料になるケースは少ないと思われますが)。

そして、そのような「モノを売る事による利益が出なくても構わない」という事が小売業で常態化した場合、モノの値段は下がる方向に動きます。

その結果、「デフレの圧力」が発生するように思うのです(冒頭では、これを「デフレの新しい波」と表現しました)。


来週公開予定の記事(後編)では、「この新しい流れに、各関係者は、どのように対応していく事になるのか?」という点について検討してみたいと思っています。


※本稿では、個人情報の収集や過度の価格競争を行う事の違法性については、原則、考慮していません。