ビジネスコンサルティングの現場から

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ハームリダクションとは?悪い事と解っていても禁止しない考え方!

ハームリダクション harm reduction

世の中には、「誰かが悪い事をしていると解っていても、それを禁止しない方が良い」という考え方があるようです。

その考え方であるハームリダクションについて、今日はご紹介させて頂きます。


ハームリダクション(harm reduction=害の低減)とは、ハーム(harm=害)とリダクション(reduction=低減)という2つの用語を組み合わせた用語であり、「個人が問題行動を取っている場合であっても、その行動を禁止するのではなく、その行動に伴って生まれる問題を出来る限り少なく(小さく)する為の行動のみを行う」といった意味になります。

元々は公衆衛生上の考え方であり、個人が健康被害をもたらす行動を取っている場合でも(そのような習慣がある場合でも)、その行動自体を禁止するのではなく、それ以外の方法で、その個人の健康被害や、第三者や社会に与える悪影響を低減させる為の行動を取る、という考え方です。

具体的には、以下のような状態にある個人に対応する際のアプローチとして、このハームリダクションの考え方は用いられます。

・薬物依存
・アルコール依存
・ギャンブル依存

例からも解るように、合法だが問題のある行動の他にも、そもそも違法である行動を行っている場合にも、ハームリダクションの考え方は用いられています。

なお、ハーム・ミニマイゼーション(harm minimization=害の最小化)という用語についても、ほぼ同じ意味となります(もっとも、ハーム・ミニマイゼーションという用語は、現在、あまり使われなくなっています)。


では、なぜ、ハームリダクションでは、その個人が行っている問題行動を止めさせないのでしょうか。

いくつかの理由はありますが、まず、このハームリダクションというアプローチには、「そもそも、対象者が行っている問題行動を止めさせる事は難しい」という前提があります。

また、「禁止した場合、より問題が悪化する」という考え方も、このハームリダクションの前提になっています。

例えば、違法薬物を摂取している人に、その違法薬物を止めろと強制しても、「簡単に止めてくれる事はない」と考える訳です。

そして、「今は他人に迷惑をかけずに薬物摂取をしているのに、もし、それを禁止しようとした場合、隠れて行うようになり、より問題は深刻になる」などと考える訳です。

特に、「今よりも非衛生な環境で薬物摂取するようになる」「より危ない薬物を摂取するようになる」「他人を巻き込むようになる」などの問題が新規発生する可能性を想定する訳です。

ハームリダクションでは、そのように考える事で、「禁止するのではなく、より害が少ない状態が実現できるようにアプローチしよう」と考える訳です。


そして、このハームリダクションによるアプローチを採用した場合、例えば問題薬物を摂取している人に対しては、禁止する代わりに、

・より衛生的な環境で摂取できるようにサポートする

・摂取量を減らせるようにサポートする

・より安全な薬物に移行できるようにサポートする

・摂取に伴って問題が起きた時に対応できるような環境を用意する

・本人が止めたい場合に相談できる窓口を用意しておく

などの対応を取る事になるのです。


同様に、アルコール中毒に既になってしまっている人に対しては、「完全に酒を止めさせるよりも、周りが暖かく見守り、少しでもアルコールの量が減らせるようにサポートした方が良い」などと考えます。

すなわち、「厳しく禁止すると隠れて酒を飲むようになるので、周りがコントロールできる機会を失い、結局、より状況を悪化させてしまう」などと考える訳です。

ちなみに、「問題行動を暖かく見守った方が、その人が問題行動を自然に止める可能性がある」という考え方も、ハームリダクションの考え方の裏付けになっています。


確かに、「止めさせるのは無理」という前提に立つのであれば、このハームリダクションの考え方に一理はあるのでしょう。

そして、害を低減させる為に有効なアプローチである事は間違いないようにも思います。


ただし、近年、本来はハームリダクションのアプローチの適用について、もっと慎重に検討が行われるべきと思われるようなテーマについても、ハームリダクションの考え方が安易にアピールされているケースが増えてきているように思います。

例えば、タバコ依存の問題を議論する際に、このハームリダクションの考え方が持ち出される事が増えてきているように思います。

具体的には、喫煙者にタバコを止めさせるのは無理だから、「従来型のタバコ(紙巻きタバコ)は止めて加熱式タバコに移行させ、害を減らそう」といった文脈でハームリダクションによるアプローチが取り上げられている事があります。

しかし、この移行がハームリダクションとして正当化される為には、紙巻きタバコから加熱式タバコへの移行によって、本当に害が減る必要があります(その他、そもそも、本当に禁煙して貰う事は無理なのか?といった論点もあります)。

確かに、周囲が感じる「煙たさ」という害に関して言えば、紙巻きタバコから加熱式タバコへの移行によって害は低減されるかもしれません。

しかし、まず、吸っている本人にとって、加熱式タバコの方が本当に健康面でマシなのか。

そして、加熱式タバコが普及した場合、加熱式タバコは臭いがあまりしない分、従来よりも、副流煙に巻き込まれて健康を害したりする周囲の人の数が増えたりしないのか。

このような点が十分に検証されない限り、「紙巻きタバコから加熱式タバコへの移行がハームリダクションという考え方で正当化される」とは言えないように思うのです。


トレンドワードとして、うまく利用され始めているようにも思えるハームリダクションという用語、皆さまも、今後、使われているのをご覧になった場合には、十分に注意して頂ければ、と思います。