この一年でAI、特に生成AIは急激に普及しました(ChatGPTが登場したのは2022年の11月です)。
AI普及の流れは今後も続くと思われますが、AIの普及が進むにつれて注目される事になるだろうと予想しているのが、「(AIに)忘れさせる権利」です。
もし、この「忘れさせる権利」にAI側が適切に対応できなかった場合、AIの普及に大きな影響が出るのではないか、とも予想しています。
今日は、この忘れさせる権利について紹介させて頂きます。
忘れさせる権利とは何か。
忘れさせる権利とは、AIに、そのAIが学習した内容を忘れさせる為の権利です。
ご存じの通り、AIは大量のデータを学習する事で機能することが出来ます。
しかし、後日、「そのAIが学習した内容の一部を無かった事にしたい」というニーズが発生する事があるのです。
全ての学習を無かった事にするのではなく、あくまで、「学習したインプットの一部だけが無かった状態にしたい」というニーズです。
このようなニーズは、様々な理由から発生します。
例えば、
・学習に使ったインプットの一部が、実は利用許諾を得ていない事が判明した
・学習させるべきではないインプットが含まれていた事が解った(例えば、差別的な内容を含んだ内容であった、など)
・学習させた時点では問題なかったが、後日、そのインプットは無かった事にしないといけなくなった(裁判などの結果、そのデータの活用が認められなくなった、など)
などが考えられます。
ピンと来ない方もいらっしゃるかもしれませんが、現在でも、ネット上に掲載されている情報については(検索エンジンやSNSなど)、
・著作権を侵害している情報がネット上に掲載されている
・差別に繋がる情報がネット上に掲載されている
・長期間、犯罪歴が検索結果に表示されてしまって生活に支障をきたす
などのトラブルが報告されています。
ですから、今後、AIの活用においても、このような問題への適切な対応は必須である、と考えられているのです。
※ちなみに、一定期間経過後にネット上に掲載されている情報を削除できる権利の事は「忘れられる権利」と呼ばれる事もあります。
そして、実は、既に「AIが学習に使ったオープンデータセットに著作権問題がある事が後から判明する」という事件は発生しています。
報道によると、そのインプットを活用していたAIモデルの公開は中止になったそうです。
では、なぜ、この忘れさせる権利へのAI側の対応に注目すべきなのか。
AIに詳しくない方は、「問題となるインプットが判明したら、そのデータを削除すれば良いだけでしょ?」と思われるかもしれません。
しかし、AIに「忘れさせる」という事は、それほど簡単な事ではないのです。
AIは大量のデータを学習しますが、通寿、その学習結果を解りやすく整理して保存している訳ではありません。
AIは複雑な処理を行った結果をデータとして保存しているのです。
この為、本棚に並んでいる本を一冊単位で消したり、長い文書の一部を黒塗りするようなイメージでは、AIから特定のインプットに関する学習結果を取り消す事は出来ないのです。
だからこそ、「AIに、いかに忘れさせる事が出来るか」という点が重要になるのです。
今後、AIのアウトプットの正確性や精度は向上するでしょうし、そのような能力向上は、AI普及において重要なポイントになっていく事でしょう。
しかし、もし、AIが学習した内容に「学習すべきではなかった情報が含まれていた」という事が解った場合、「そのAIは活用できない」という事態が引き起こされます。
そして、AIに全ての情報を一から学習させ直す事は非常に困難です(膨大な時間と費用がかかる為)。
この為、AIを活用する前提として、「既に学習した情報の一部を無かった事にする(最初から学習していなかった事にする)」という能力をAIが持っている事は、非常に重要なポイントになるのです。
だからこそ、「忘れさせる権利にAIが適切に対応できるかどうか」という点は、AIの普及において、重要な意味を持つと予想されるのです。
2024年、AIの「便利さ」や「効率性」といったポイントだけではなく、よろしければ、「忘れさせる権利」への対応能力についても注目して頂ければ、と思います。
さて、2023年の投稿は、このエントリの投稿で終了となります。
本年も当ブログのエントリをお読み頂き、有り難うございました。