AIの能力向上に伴い、今後、「ビジネスの現場でも、電子メールや電話は使われなくなっていくのではないか」と考えています。
もう少し正確に言うと、
「相手を信用できなくなるので、電子メールや電話はビジネス上のコミュニケーションツールとして機能しなくなっていく可能性があるのではないか」
と考えています。
随分前から、個人ではLINE(ライン)のような新しいコミュニケーションツールが良く使われるようになりました。
企業でも、同様の流れはあり、コロナ渦でのテレワークによって、その流れは加速したようにも思います。
とはいえ、未だ、ビジネスの現場では、電子メールでのやり取りは多く残っています。
また、大事な時には、電話でのやり取りが好まれるケースも多いように思います。
ただ、以前から予想されていた事ではあるのですが、「電子メールも電話も、相手が本物か信用できない」という事が、AIの能力向上により現実になろうとしています。
まず、電子メールについては、「そのメールを送ってきた相手は、本当に自分の知っている人か?」と、毎回、疑わないといけなくなりつつあります。
特に、昨年頃から、その労力が馬鹿にならなくなってきています。
その理由は言うまでもなくAIの能力向上です。
AIの能力向上によって、詐欺メールを作る労力は極めて低くなりました。
現在、攻撃者は、大量の詐欺メール(それも巧妙なもの)を簡単に作成して送る事が出来ます。
そして、ある報道によると、AIによって作られた詐欺メールで騙されてしまう人の割合は11%との事です(調査によって、割合の数字は様々です)。
電子メールを使った詐欺については、かなり攻撃者側に有利な状況になっていると言えるでしょう。
なお、電子メールの仕組みに詳しくない方の為に補足しますと、電子メールの差出人を詐称する(ある人のフリをして、他の人がメールを出す)のは、かなり簡単です。
もちろん、差出人が本物かどうかをチェックする仕組みもあるにはあるのですが、残念ながら完全なものではありません。
また、その仕組みが備わっていない相手との電子メールのやり取りを全て拒否するのも、ビジネスの世界では現実的ではないように思います。
電話についても、同じような事が言えます。
AIによって、「誰かのフリをして電話をかける」という事が可能になりました。
実際、AIで合成した上役の声で詐欺の電話があった、という事が報道されています。
幸い、電話の場合には発信者番号というチェック方法があるのですが、残念ながら、相手の番号がチェックできない環境もあります。
また、ビジネスの場合には、登録されていない電話番号からの着信を全て拒否したりするのも、なかなか難しいように思います。
この為、「かかってきた電話も、受け取ったメールも信用できない」という事が、今後、より当たり前になっていくのではないか、と予想されるのです。
結果、ゼロになる事はないと思いますが、「(社内間だけではなく)社外とのやり取りについても、電話やメール以外のコミュニケーションツールが、より重視されていく可能性があるのではないか」と予想されるのです。
では、どのようなコミュニケーションに移行していく事になるのか。
やはり、間違いのない相手から送られてきている事が保証されているコミュニケーションツール、という事になるのでしょう。
現在のところ、LINE(ライン)のようなチャット式のコミュニケーションツールは、何らかのかたちで本人認証を通った相手からのメッセージしか届かない、と考えられています。
ですから、そのようなツールの活用が広がっていくのかもしれません。
ただ、そのようなツールへの移行が進んだ場合、攻撃者は、それらツール側への攻撃をより強める事でしょう。
結局、いたちごっこになってしまう事は予想されます。
そして、ログイン情報が狙われたり、端末の乗っ取りが試みられたり、といった事が怖いのはもちろんですが、それ以上に怖いのがコミュニケーションサービス提供側のサーバー側へのハッキングではないでしょうか。
サーバーがコミュニケーション内容を管理(保管)しているサービスで、サーバー側で保存されているメッセージが偽造(書き換え)されたとしたら…と考えるだけでも怖くなります。
「信頼出来るコミュニケーションインフラの確保」は、かなり近い将来の大きなテーマになるかもしれません。