ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

デジタル負債とは?AI導入が本格化する中で重要視される概念かも?

デジタル負債

デジタル負債という用語をご存じでしょうか。

この用語、AIに関する情報を扱う中で、最近、見かけるようになった用語です。

意味がピンと来なかったので調べてみたのですが、どうも、この単語は「AI普及を推進する側によってつくりだされた用語」という面がありそうです。

ただ、より良い仕事をする上で重要な示唆も含まれているように思いますので、ここで取り上げさせて頂こうと思います。


私が調べた限り、デジタル負債(デジタル・デット、Digital Debt)という用語は、マイクロソフト社が作り出した用語(造語)です。

マイクロソフト社が31ヶ国31000人を調査して発表したレポートによると、現代の労働者は、「電子メールや通知、会議などの用事に対応する為に莫大な時間と労力を費やしている」のだそうです。

これを同社はデジタル負債と呼んでいるのです。

そして、同社は、「現代の労働者は、このデジタル負債を処理する為に時間が取られ、重要な仕事(創造的な作業)に十分な時間が取れていない」と指摘しています。

すなわち、同社は、「労働者は、時間やエネルギーを、より創造的な作業に充てるべきだ」という問題提起をしている訳です。

具体的な数字としては、「64%の人は自分の仕事をする時間や労力を確保する為に苦労している」のだそうです。

また、「68%の人が十分に作業中に集中する時間が取れていない」のだそうです。

これらのデータを元に、同社は、「AIを活用する事で、このデジタル負債の問題に対応する事ができ、結果、人間の働き手は創造的な仕事に集中できるようになる」とAI導入の意義をアピールしています。


ちなみに、(同社のビジネスツールである)Microsoft 365上での時間の使われ方としては、「コミュニケーション(会議、電子メール、チャット)に57%の時間が使われ、創造的な作業(コミュニケーション以外の作業)に使われている時間は43%に過ぎない」のだそうです。

このような調査データが出せるのは、仕事中に使われる製品を提供している同社のレポートならでは、と言えるかもしれません。


更に、同社のレポートでは、

・70%以上の人がAIに仕事を任せたいと考えている

・ビジネスリーダーはAIの活用によって人員削減よりも生産性向上を望んでいる

といった調査結果も紹介しています。

これらの数字によって、「AIは労働者の敵ではない」とアピールしている訳です。


個人的には、AIが労働者の敵になるのか味方になるのか、という点については、簡単に結論が出せるようなものではないと考えています。

導入される職場によっても結論は大きく変わるでしょう。

ただ、AIの導入が本格化する中で、「AIの導入で何が改善できるのか」という点については、今後、よりしっかりと考えていく事になる可能性は高いように思います。

そのような中で、この「デジタル負債」という考え方(と問題提起)には意味があるように思います。

ですから、私自身、「このデジタル負債という概念が、今後、どのように注目されていくのか」という事には関心があります。

ただ、です。

この「デジタル負債」という用語については、個人的には、あまり良いネーミングではないように思います。

目を引く用語であるのは間違いないので、そういう意味では素晴らしいネーミングであるように思いますが、「デジタル負債」という用語を始めてみた時、私自身は、それが何を意味するのか、良く解りませんでした。

恐らく、私以外の多くの日本人にとっても、「デジタル負債」という言葉から、先にご紹介したような意味を推測するのは困難なのではないでしょうか。

ですから、個人的には、よりピンと来る用語に修正された上で、この概念が注目される事を期待したい、と考えています。


※ご紹介した内容は、マイクロソフト社「Work Trend Index Annual Report Will AI Fix Work?(2023年)」より。
https://www.microsoft.com/en-us/worklab/work-trend-index/will-ai-fix-work