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英国のトリプル安という惨事は日本でも起きるかも?類似点あり!

英国 トラスノミクス UK Trussonomics

ご存じの方も多いと思いますが、英国が酷い事になっています。

インフレが発生しているのは英国だけではないので、それは置いておくにしても、金利が急上昇したり、国債の価格が暴落して、年金基金の破綻が懸念されたり、など。

国民生活にも大きな影響が出かねない惨事となっています。

しかし、この英国の惨事、日本にとっても人ごとではありません。

なぜなら、英国の今回の惨事の背景にあるものと、日本が抱えている問題には、類似点があるからです。

今日は、この点について簡単にまとめ、日本で似た問題が発生した場合の影響についても予想しておこうと思います。


最初に、今回の英国の惨事について、簡単にまとめておきたいと思います。

発端は、新しい首相として選出されたトラス氏が9月に発表した「トラスノミクス(Trussonomics)」と呼ばれる政策パッケージでした。

その内容は、価格が高騰している電気やガスの料金を凍結する為に大幅な支出(600億ポンド)を行い、同時に、大減税(450億ポンド)も行う、というものでした。

これだけを聞くと、問題のない政策であるようにも聞こえます。

実際、英国が抱える問題に対応する為の政策であった事は間違いありません。

しかし、です。

この政策パッケージが実行されると、英国の財政状態は大幅に悪化します。

大幅支出を行い、更に、収入まで減らす訳ですから。

そして、英国の場合、国にお金がある訳でもないので、このような事をしようとすると、追加で借金をしないといけません(=国債発行)。

もちろん、借金が必ずしも悪い訳ではありません。

しかし、今回の政策発表によって、英国は、

「英国という国の財政が破綻するのではないか?」

と疑われる事になります。

特に、今回の政策パッケージで発表された、価格が高騰している電気やガスの料金を凍結する為の支出は、半年分で600億ポンドと巨額でした。

これは、日本円に直すと9.5兆円ほどになります。

さすがに、これだけの金額となると、財政が悪化して、国に貸した金(=国債)が返ってこないような事態が発生するのではないか、と懸念された訳です(厳密には、そう考える人が出てくるのではないか?と、皆が考え出したのです)。

そして、英国の国債は売られる事になりました。

国債が売られると、国債の値段は下がります。

その結果、国債を活用して運用を行っていた年金基金が破綻間際にまで追いつめられる事になりました。

もちろん、その混乱に伴って、英国の通貨も売られる事になりますし、企業も無傷ではないと分析され、英国の株が売られる現象も起きました。

結果、通貨と国債と株の3つが下落し、「トリプル安」などとも報じられています。


ここまでが英国の惨事についての簡単な説明でした。

少し複雑なので、ピンと来ない方もいらっしゃると思いますが、

ここで大事な事は、

「国が大きなお金を借り、そして、使おうとした場合において、周囲が、その返済能力に疑問を持ち出すと、国民の生活が破綻するような大変な事が起きる事がある」

という事だけです。

「国が、どのくらいのお金を使おうとすると、大変な事になるのか(どのくらいの借金であれば、しても大丈夫なのか)」という事が気になる方もいらっしゃると思いますが、残念ながら、そこにはっきりとした線引きはありません。

英国首相のトラス氏も、借金が増える事は解ってはいたものの、「これくらいの金額であれば、問題にはならないだろう」と軽く考えていた可能性もあるように思います。


さて、ここで、日本の状況についても見てみましょう。

皆さまもご存じの通り、現在、日本では、ガソリンの値上がりを押さえる為に補助金を出しています。

その額、2022年12月末までの予算額ベースで3兆円超。

そして、今、次の財政支出が検討されており、その額について、一部の政治家は「30兆円」や「50兆円」といった数字を挙げています。

大幅な減税こそ検討されていませんが、トラス氏が英国でやろうとしていた事と、かなり似ていますよね。

そして、日本の借金状況は世界の先進国でも最悪の水準であり、借金は増え続けています。

このような情報を確認すると、英国の惨事が人ごとだとは思えなくなってきませんか?


では、日本は大丈夫なのでしょうか。

実は、その答えは、誰も知りません。

英国でも、周囲から、「この国は駄目かもしれない」と疑われ始めた瞬間、大変な事が起きました。

日本でも、ある時、同じような事が起きないとは限らないのです。

もちろん、「日本と英国では状況が違う」という意見を述べる人もいます。

例えば、「日本は海外に多くの資産を持つ対外純資産国であるから、多少、借金が増えても関係ない」という人もいます。

また、「国債の消化体制(誰が国債を買っているのか)が海外とは違うから問題ない」という意見の人もいます。

こういった説明には、一定の説得力はあります。

しかし、「財政破綻するかも」と本格的に疑われ始めてしまうと、実際に多くの人が動きだし、大変な影響がある事は間違いありません。

今回の英国の惨事は、それを証明したとも言えます。

ですから、「日本は絶対大丈夫」とは誰にも言えないはずなのです。

少なくとも、この原稿をお読みの方には、「お金の使い道が正しいものであったとしても、日本の財政破綻が疑われるような事があると、大変な事になるかもしれない」という事だけは知っておいて頂きたいと思います。


最後に、「日本の財政破綻が疑われた場合に、何が起きるのか」という点についても、整理しておきましょう。

これは、英国と大きくは変わらないと予想されます。

すなわち、円安や国債の価値下落が発生する事によって、物価は上昇し、金利は上昇。

そして、企業業績も悪化し、株価下落。

多くの投資家(年金基金や金融機関を含む)に損失や混乱が発生。

雇用面の影響も発生するでしょうし、人によっては、収入に影響が発生する人も出てくる事でしょう。

考えただけでも、嫌になるような事態です。

そのような事態が日本では起きないよう、強く願って、本稿を終わりにしたいと思います。