シャンプーなどの売り場を良く見てみると、
「本体の値段よりも、詰め替え用の値段の方が高い」
という状態になっている事があります。
この件について、ある主夫の方から質問を受け、「詰め替え用の値段の方が高くても仕方がない理由」について話した事がありましたので、その時の会話をご紹介させて頂こうと思います。
主夫「なぜ、『詰め替え用の値段の方が高い』という事がありえるのですか?」
私「身も蓋もない事を言ってしまえば、メーカーとしては、詰め替え用の値段を安くするメリットが少ないからです。」
主夫「え?でも、詰め替え用の方が、使っているプラスチックが少なかったしますよね。だから、原価は安いのでは?」
私「確かに、そうですね。しかし、その事と、実際の小売価格に明確な関係はないのですよ。」
主夫「良く解りません。」
私「では、一緒に、ちょっと考えてみましょう。」
主夫「解りました。」
私「(詰め替え用ではなく)シャンプーなどの本体については、各社の製品とも、良く割り引き販売されているのを小売店でみますよね?」
主夫「はい。」
私「あれは、小売店が自分の判断で値段を決めている事がほとんどですが、値引きが出来るように、メーカーが裏で糸を引いている事が多いのですよ。」
主夫「そうなのですね。」
私「では、なぜ、メーカーは、小売価格を下げるような事をするか解りますか?」
主夫「やはり、値段が高いと自社製品が売れないからではないですか?」
私「その通りですね。もう少し付け加えると、メーカーとしては、とにかく、他社製品を使っている人に、一度、自社製品を使ってみて欲しいのですよ。」
主夫「それは解ります。しかし、値引きをしてまで売りたいものなのですか?」
私「シャンプーなどの製品は、品質などに満足さえすれば、同じ製品を使い続ける人が多い傾向があります。しかし、その為には、まずは自社製品を一度使ってみて貰う必要があります。」
主夫「なるほど。だから、値段を下げて、ちょっと使ってみても良いかな、と思って貰おうとしている訳なのですね?」
私「そうですね。大幅な値引き商品は、小売店としても売りやすいので、良い場所に陳列して貰えたりする効果もあります。」
主夫「(詰め替え用ではない)本体の値段を値引きしている理由は解りました。もともと、とにかく買って欲しいから値引きする、という事だと理解していましたので、説明に違和感はありません。」
私「まず、ここまでは大丈夫そうですね。」
主夫「しかし、だからといって、詰め替え用の値段が高い理由にはならないはずです。」
私「その通りですね。では、メーカーには、詰め替え用の値段を下げるメリットがあるでしょうか。」
主夫「え?それは、あるでしょう。値段が安い方が売れる、値段が高いと売れない、という話が先ほど出たばかりでは?」
私「それは本体の話ですね。今回は、詰め替え用の話です。」
主夫「同じではないのですか?」
私「では、本体を買って満足し、その製品を使い続けようと思っている顧客は、本体と詰め替え用、どちらを買うでしょうか?」
主夫「普通は、詰め替え用を買いますよね。」
私「そうですね。でも、本体を買う事も出来るはずです。なぜ、詰め替え用を買うのでしょうか。」
主夫「価格が安い気がするので、詰め替え用に手が伸びてしまいますね。あと、環境への負荷も気になります。本体を追加で買うというのは、無駄な事をしている気がして、ちょっと気が引けます。」
私「その通りですね。そして、そのように考えて行動する人は、そこまで価格に敏感ではない事が多いのです。ですから、詰め替え用の値段については、高めで維持されてしまう事があるのです。」
主夫「でも、価格に敏感な人もいるはずですよね。詰め替え用が高いと、他の製品に乗り換えようとする人もいるのでは?」
私「それは、その通りです。しかし、そういう人は、同じ製品の(詰め替え用ではなく)本体を、また買うという手があります。メーカーが乗り換えを防ぎたいと考えている場合、本体は安く売っている可能性がありますので。」
主夫「確かに、先ほどの話は、そういう話でしたね。」
私「結局、本体の値段同士を比べて、他社製品に負けていなければ、価格が原因で他社に顧客を取られる事はない、という結論になってしまうのです。もっとも、他社が詰め替え用の値段が安い事を売りにしたプロモーションをかけて来た場合は別ですが。」
主夫「では、詰め替え用の値段が本体の値段よりも高い時は、本体を買えば良いという事になるのですか?」
私「理屈だけで言えば、そうなりますね。実際には、詰め替え用も安く売られている事があるので、詰め替え用を安く買う努力をする、というのが、一番良い選択だと思います。」
主夫「理屈は解りました。しかし、どうも納得しづらい気持ちが残ります。」
私「それも解ります。では、逆に、詰め替え用の値段が高くても仕方が無い、と考えるのはいかがですか?」
主夫「え?」
私「単純に原価の事を考えると、詰め替え用が本体より高いのは納得しがたいと思います。しかし、原価だけが製品の価値ではありません。」
主夫「はぁ。」
私「実は、詰め替え用には、本体にはない価値が2つあると考える事が出来ます。」
主夫「そんなものが、あるのですか?」
私「1つは、詰め替え用の方が、本体よりも場所を取らない(かさばらない)事が多い、という点です。」
主夫「確かに、そうかもしれませんね。スペースが節約できるから、高い値段を払う、という考え方ですか。」
私「そして、もう1つは、地球環境に貢献できる、という点です。地球環境の為には料金が上がっても仕方が無い、という考え方は、既に多くの分野で生まれています。例えば、電気料金には、再生可能エネルギーを利用する為の追加料金が乗せられています。」
主夫「考えてみた事もありませんでした。」
私「そういう人も多いでしょうね。しかし、実際、地球環境の事を考えて詰め替え用を買う、という人は多いはずです。であれば、追加料金を払って、地球環境に優しい製品を買う、という考え方をすれば、値段が少し高い事は納得出来るかもしれません。」
主夫「なるほど。色々な考え方が出来るものですね。」
さて、彼との会話はここまでです。
実際には、この会話から漏れている要素も多々ありますので、これが理屈の全てという訳ではありません。
しかし、あまり価格設定について深く考えた事がなかった方には、価格設定の難しさと面白さを感じて頂けたのではないでしょうか。
なお、最後の部分について少しだけ補足しておくと、地球環境の事を考えるのであれば、消費者はメーカーの行動全体についても意識を向けるべきです。
なぜならば、「地球環境の事を考えて詰め替え用を買う」という事よりも、「地球環境の事を考えて行動している企業の製品を買う」という事の方が、更に環境に優しい選択となる可能性が高いからです。