ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

初めて納得してしまった「選挙に行かない理由」をご紹介します

選挙 行かない理由

先日、ある若者と選挙について話す機会がありました。

その際、その若者から「投票に行くつもりがない」と伝えられました。

選挙は民主主義を支える重要な仕組みです。

ですから、説教をするつもりで話を続けたのですが、今回、その若者から聞いた「選挙に行かない理由」は、「そういう理由なのであれば、投票に行かないのも仕方が無いかもしれない」と思えるものでした。

そして、調べてみた所、その若者以外にも、同じ理由で投票に行かない人がいるらしい事が確認出来ました。

ちょっと衝撃だったので、ここで紹介させて頂こうと思います。


会話形式で紹介させて頂きます。

私「今度の選挙、20歳未満の人にも選挙権がありますよ。もちろん、行きますよね?」

若者「いえ。行くつもりはありません。」

私「選挙は民主主義の根幹をなす制度ですよ。」

若者「知っています。」

私「では、どうして投票に行かないのですか?」

これまでも、色々な人から、投票に行かない理由を聞いてきました。

・投票したい候補者がいない

・誰に投票したら良いか解らない

・自分の一票で何かが変わるとは思えない

・選挙制度が良く解らない

などなど。

この若者も、そのような選挙に行かない理由を挙げるのだろうな、と思って回答を待ちました。

しかし、この若者は、次のような選挙に行かない理由を挙げたのです。

若者「適切な人を選ぶ自信がありません。」

驚きました。

そもそも、選挙権を行使する上で、「選ぶ自信が必要」などと考えた事すらありませんでした。

私「そんなに難しく考えなくても、貴方が良いと思う人に一票を入れれば良いのではないですか?」

若者「ですから、誰が当選するべきなのか、私には判断できないのです。」

私「候補者は、当選した後に達成したい事などを発信しています。政治に詳しくなくても、それを見て決めたらどうでしょう。」

若者「公約が当選後に守られているとは思えません。だから、そういう内容をもとに選ぶべきだとは思えないのです。」

確かに。それを言われると痛いところではあります。

私「では、候補者の人柄などで選ぶ、というのはどうですか?」

若者「候補者を個人的に知っている訳ではないので、どの人が良いのか解りません。」

私「それでも、少しでも良い人を選ぶべきだとは思いませんか?」

若者「それは、その通りだと思います。しかし、誰が良いのか、本当に判断が出来ないのです。」

私「でも、みんながそういう考えで投票に行かないと、一部の人の意見だけで政治が動いてしまいますよ?」

若者「選べない以上、仕方が無いですね。」

私「他の人が選んだ政治家による結果を受け入れる覚悟はあるのですか?」

若者「はい」

私「なるほど。しかし、どうして、そこまで選ぶ事を拒否するのですか?」

若者「もし、自分が選んだ候補者が、後で犯罪者と解ったら嫌ですから。そんな人を当選させるのに加担したとなると、自分まで犯罪者になった気分になりそうです。」

私「…」

正直、そこまで考えていたのか、と驚きました。

しかし、選挙で選ばれた人による犯罪が報道される昨今、そういう意見を持つ事は不思議な事ではないのかもしれません。

そして、ここまで選挙に行かない理由をしっかりと考えた上で、「選挙権を行使しない」という意思決定をしているのであれば、その意志は尊重されるべきなのかもしれない、と思うようになったのです。


最後に、気になったので、一つ質問をしてみる事にしました。

私「では、貴方は、これからも選挙権を行使しないつもりですか?」

若者「いえ。世の中を良くする為に、選挙権は行使できるようになりたいと思っています。」

なるほど。選ぶ自信がないから、今は投票できない。

だから、自信がついたら投票には行く、そういう事のようです。

私「それって、いつ頃になりそうですか?」

若者「20才になる頃には。もともと、そういう予定でしたし。」

その回答を聞いて、あ、と声が出そうになりました。

選挙権の年齢が18才以上に引き下げられたのは、2016年6月の事です(公職選挙法等の一部を改正する法律が成立したのは2015年6月)。

この法律が改正された時、この若者は既に生まれています。

ですから、「20才になるまで選挙権はないよ」と言われてきたにも関わらず、ある時、急に、「18才の貴方達にも候補者を選ぶ能力があるはずだから、選挙権を行使してね」と言われた世代なのです。

仮に、選ぶ側にも長い年月をかけた準備が必要だとすれば、どうでしょう。

もしかすると、選挙権の年齢引き下げとは、「18才になったら大学受験をするつもり」で勉強してきた人に対して、「16才での大学受験を強いる」ようなものだったのかもしれません。

選挙権年齢の引き下げを決めた時、大人の側は、18才と19才の若者に権利を与えただけだと思っていたのかもしれません。

しかし、「責任を持って選挙権を行使しなければいけない」と考えている若者にとっては、「準備も出来ていないのに、義務を押しつけられた」という事になるのかもしれません。

このように考えると、「大人の側こそ、選挙権の重みを軽く考えていたのかもしれない」とすら思えてきます。

もちろん、「18才なら18才なりに考えて投票をするべきだ」という考え方もあるでしょうし、ある程度の時間の猶予はあったはずなのだから、「投票できるように、準備する事は出来たはずだ」といった意見もある事でしょう。

しかし、大人でも選挙権を行使しない人が多い中で、しっかりと考えた上で、「自分には、まだ、候補者を選ぶ能力が備わっていないから、選挙にはいかない」と考える若者を責める事は出来るのでしょうか。

それは、一つの立派な選挙に行かない理由となりえるのかもしれません。

少なくとも、その時の私は、その若者の考え方を否定する事は出来ませんでした。