ビジネスコンサルティングの現場から

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日本の物価上昇は特殊って知ってました?コストプッシュインフレの怖さ!

コストプッシュインフレ デマンドプルインフレ

最近、物価の上昇を実感する機会が増えました。

これは、データでも裏付けられており、例えば、2022年6月の総務省の発表によると、生鮮食品は12.3%の価格アップ、生鮮食品以外の食料は2.7%の価格アップ、家庭用耐久財も7.4%の価格アップとなっています(全て、前年比)。

そして、この値上げの流れは、今後も続くと予想されています。

物価が上がる事を「インフレ」と呼ぶのですが、実は、このインフレ、日本だけで起きている現象ではありません。

海外でも、米国で8.6%の物価アップ、ユーロ圏で8.1%の物価アップ、英国で9.1%の物価アップなどと報道されています。

ただし、

日本とアメリカなどで起きているインフレを同じように扱ってはいけない(インフレの中身・質が違う)

という事は、意外と知られていないようです。

この為、今日は、「日本のインフレの特徴(特殊性)」について、紹介させて頂こうと思います。


最初に専門用語を使って結論を申し上げてしまうと、日本のインフレは「コストプッシュインフレ(cost push inflation)」であり、アメリカなどのインフレは「デマンドプルインフレ(demand pull inflation)」であると言われています。

では、この「コストプッシュインフレ」と「デマンドプルインフレ」は何が違うのか。

それは、「インフレが発生している原因」が違うのです。

もちろん、原因が違うという事は、インフレ発生による問題点(デメリット)も異なります。


最初に、デマンドプルインフレについて説明しておきましょう(日本のインフレはコストプッシュインフレですので、日本ではない方のインフレについての説明です)。

デマンドプルインフレとは、「供給よりも需要の方が大きい事によって発生する物価上昇(インフレ)」です。

自由経済においては、物価は需要と供給のバランスで決まります。

あるモノを欲しいと思っている人が少ないのに、そのモノが大量に売られている場合、そのモノの価格には下がる圧力がかかります。

逆に、あるモノが欲しい人(=需要)が多いにも関わらず、そのモノの売っている量(=供給)が足りない状態の場合、そのモノの価格には上がる圧力がかかります。

デマンドプルインフレは、後者が発生している状態という事になります。

では、なぜ、供給よりも需要の方が大きくなるのか。

いくつかの理由がありますが、ここでは、

「消費者の収入が増えた結果、購買力が上がった」

という理由だけを取り上げておきたいと思います。

この理由、解りやすく言ってしまえば、「消費者の給与が増えたので、これまでよりも多くのモノが買えるようになった」という事です。

アメリカでは、実際に、このような現象が発生し、その結果、インフレが発生していると考えられています。


ただし、このデマンドプルインフレについては、それほど大きな問題としては扱われません。

なぜならば物価が上がっても、それと同じ割合で収入も増えていれば、消費者の実質的な購買力は変わらないからです。

更に、物価が上がる事で、そのモノやサービスを販売している会社は、従来よりも儲かるようになり、それは、それら企業の従業員の給与が増える事にも繋がります。

そして、給与が増えた従業員の購買力が高まる事で、更に、物価が上がる、という良い循環を実現させる事も出来ます(良いインフレ)。

※ただし、今のアメリカでは、収入増よりも物価上昇の割合の方がかなり高いので、その点においては、問題と言えます。


では、日本のコストプッシュインフレとは、どのようなインフレなのか。

コストプッシュインフレは、企業の「モノを作って提供する為の費用(原材料の調達価格など)」や「サービス提供に必要なコスト」が上がる事によって、物価が上がるというものです。

企業としては、自身のコストが上がっている為に「仕方なく」値段を上げているので、自社の利益には繋がりません。

この点が、デマンドプルインフレとは大きく異なります(デマンドプルインフレでは、コストと関係なく価格が上がるので、上がった分が企業の利益となるケースが多い)。

また、コストプッシュインフレの場合、消費者の側としては、同じ収入しかないのに物価が上がる訳ですから、従来通りの消費を続ける事が難しくなります。

この為、価格を上げた商品の販売量は落ちてしまう事すらあります(価格を上げたからと言って、儲かる訳でもないのに、販売量だけ落ちてしまう)。

実際、日本では、「値上げした商品の販売量が減少しているケースは少なくない」という調査結果が出ています。

この為、コストプッシュインフレの場合、企業の収益は下がりがちです。

そして、企業の業績ダウンは、従業員の給与カットや解雇などに繋がる事もあります。

もちろん、そのような事が起きた場合、その企業の従業員の購買力は下がる事になり、結果、更にモノが売れなくなる、という悪循環にも繋がります。

ですから、コストプッシュインフレは「誰にとっても良くないインフレである」と言えます(悪いインフレ)。


同じインフレでも、「コストプッシュインフレ」と「デマンドプルインフレ」では、世の中に与える影響が大きく異なるのです。

ですから、「日本も物価が上がって大変だけど、海外でも物価が上がっているから同じだな」という理解は、少し間違っている面があるのです。

また、海外では、過度なインフレに対して、「金利を上げる」という対策を強力に推し進め、インフレの沈静化に動いている国が少なくありません。

それに対して、日本のコストプッシュインフレを自然なかたちで押さえ込む方法は見えていません(補助金や規制で強引に物価をコントロールする事は可能であり、実際、ガソリンの価格では、既に、そのような事が行われていますが、かなりの無理があります)。

この為、「インフレへの対応(コントロール)」という面でも、日本と海外では大きく状況が異なっているのです。


さて、インフレの違いについての解説が終わった所で、コストプッシュインフレが起きている日本の将来について、少し触れておきたいと思います。

本来は、日本においても、皆の給与が上がる事で、「物価が上がっても、需要が落ちない状態に移行する」という将来が望ましいと言えます。

すなわち、コストプッシュインフレからデマンドプルインフレへの移行が望まれます。

しかし、現時点では、その実現は難しいように思われます。

次に、「企業のコスト(調達価格)が安定する事で、インフレが収束する」という方向性はどうでしょうか。

日本の場合、残念ながら、その将来も確実とは言えません。

新型コロナやウクライナ情勢によるコスト増については、今後、改善を見込む事も出来るでしょう。

しかし、日本企業のコストアップ要因には「円安」があります(日本は原材料調達の多くを海外に頼っており、円安は、調達コストアップに繋がっています)。

そして、この「円安」が解消される目処はたっていません。

この為、残念ながら、日本においては、以前と同じような物価水準に戻る未来が、現在のところ、見通せないのです。


そして、もし、コストアップインフレが今後も続くとすると、日本においては、「(支出を増やさない限り)以前と同じ生活水準を維持する事が難しい」という事になってしまいます。

強いて、インフレが発生する中で、生活水準を下げない為の対策を提示するとすれば、「これまでの勤務先以外からの収入アップ(起業・副業・資産運用など)で対策する」という事になるでしょうか。

実際、そういった動きを政府も多くの企業も後押しはしています。

しかし、もちろん、そのような対策に、日本人全員が取り組み、また、成功できる訳ではないでしょう。

ですから、これからは、「何もせずに生活水準が下がる事を受け入れる人(受け入れざるを得ない人)」と「生活水準を下げない為に、様々な対策に取り組む人」に分かれていく動きが本格化していくのかもしれません。

なかなか大変な時代になりつつあるように思います。


なお、物価上昇と金利の関係(日本の金利アップへの圧力)については、こちらの記事で取り上げております。宜しければ、お読み下さい。

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