ある経営者とお話していると、面白い発言がありました。
「日本の不動産は国有財産だ」
とおっしゃるのです。
土地の相続登記が義務化されるという報道もあり、不動産の権利関係に注目が集まっている中、少し深い部分もあるように感じましたので、ご紹介します。
ある日、目の前の経営者から、こんな発言が出ました。
社長「日本は私有財産制じゃないって知ってたか?」
いきなりの衝撃発言です。
私の知らない間に、日本国憲法は変わってしまったのでしょうか。
過激な論争をする気はなかったのですが、一応、真面目にお返しします。
私「お言葉ですが、日本は私有財産を認めていると思うのですが」
もちろん、反論が返ってきます。
社長「なんで、そう思うんだ?」
こちらも返します。
私「日本国憲法で、財産権は認められています」
さらに続けます。
私「そもそも、社長の会社経営は、私有財産制が前提では?」
なじみがない方の為に、少し用語を補足します。
私有財産制というのは、簡単に言ってしまえば、「権利をもつ個人や法人が、対象の財産を自由に入手したり手放したりする事が出来る制度」のことです。
通常、皆さんが、ものを買ったり売ったりして、「これは、私のものだ」と主張したり、「これを貴方に売ってあげる」などと自由に言えるのは、この制度が前提になっています。資本主義の前提とも言われます。
さて、話を元に戻します。
社長からは、こう返ってきました。
社長「俺もそう思ってたんだよ。でも、違うらしい。」
どうも、何かがあったようです。こちらも、真面目に取り合わないといけない気がしてきました。
私「何かあったんですね。どうされましたか?」
こう返ってきました。
社長「不動産だよ。どうも、国に返すハメになりそうだ。」
国に返す??
謎ですが、少しだけ状況は解ってきた気もします。
私「社長、もしかして、税金が払えない、という話ですか?」
こちらの推測は当たったようでした。
社長「さすが、良く分かったな。おかしいと思わないか?」
不動産を持っていると、各種税金がかかるのは、結構、有名な話です。
社長がご存じないはずはないのですが…と思いながらも、会話を続けます。
私「社長、不動産を所有していると、毎年、税金がかかるのはご存じでしたよね。払えなければ、借りているお金を返せないのと同じようなものです。それと、私有財産制が、どう関係するのでしょうか。」
こう返ってきました。
社長「稼いだ金に税金がかかるのは解る。経費が税金の計算上、一部認められないのも、納得はいかないが、理解はしよう。しかし、不動産を持っているだけで、国に金を取られるというのは、どういう事だ?」
私「しかし、そういう法律があって、そういう制度になっていますので…」
ようやく、この後、社長の発言の根拠が明かされます。
ちょっと長いですが、頑張ってお読み下さい。
社長「そう。そういう制度になっているんだろう?
しかしな、良く考えてみろ。
不動産を誰かから買う。自分のものになった気がする。
しかし、その価値の一定割合を、現金で国に毎年払わないといけない。
数十年後経つと、不動産の価値丸ごと、国に支払い済みになる。
そして、更に、支払いは続く。
おまけに、その支払いが出来なくなったら、国にその不動産は奪われる。
何かに似てると思わないか?
そう、リースとかレンタルだよ。
国と不動産を借りる契約を結んで、使わせて貰っているのと同じじゃないか。
すなわち、不動産は、国有財産って事になる。」
なるほど。そういう事でしたか。
ようやく、この社長の突拍子もない「日本は私有財産制ではない」という意見の根拠が解りました。
ちなみに、この後、この議論が盛り上がる事はありませんでした。
この社長も、本気で日本の制度に問題提起されたかった訳ではなく、収益が上がっているかどうかに関わらず取られる税金に不満があっただけでした。
しかし、この社長の主張には、的を射ている部分もあるようにも思います。
定期的にお金を払えなくなれば、取り上げられてしまう財産を、完全な自分の「私的財産」と言って良いのかどうか。皆様は、どうお感じになりましたか。