ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

合名・合資会社は信用できる?株式会社との違いを知っていますか?

合名会社 合資会社

皆様は、合名会社や合資会社についてご存じでしょうか。

名前くらいは聞いた事があっても、

株式会社と合名会社・合資会社の違いは?

合名会社・合資会社の信用力を、どう判断すれば良い?

などと聞かれた場合、正しく回答できる方は少ないのではないでしょうか。

会社組織というと株式会社が有名ですが、合名会社・合資会社についても、ぜひ知っておいて頂きたいと思います。


ある時、若手の社会人から、

若手「発注候補先の会社名一覧を見ていたら、○○合名会社という良く解らない会社名の会社が含まれていたので、その会社は候補から外す事にしました」

という発言を聞くことがありました。

確かに、合名会社と取引した経験のある人は少ないかもな、と思いながら、ちょっと気になって、色々と聞いてみる事にしました。

私「確かに、合名会社は珍しいね。でも、別に法人形態で取引先を選別しなくても良かったのでは?」

若手「やっぱり、株式会社の方が信用できると思いませんか?」

私「最近は、そんな事もないんじゃないかな。昔の制度なら、そういう事も言えたと思うけど。」

この若手が、どこまで一貫性のある判断基準を持っているのか、確認してみたくなったので、更に色々と聞いてみる事にしました。

私「じゃあ、他の会社組織はどう扱うの?例えば、合同会社とかもあるよね。」

若手「合同会社の会社は、今回のリストには含まれていませんでした。でも、合同会社との取引はたまにあるので、合同会社だったら排除しなかったかも。」

この若手、ちゃんと勉強していない気がしてきました。

そして、何の義理もないのですが、真面目に営業している合名・合資会社の皆様の為にも、ここで引く訳にはいかない!と燃えてきました。


私「では、個人事業主は?最近はギグワーカーも増えてきているから、個人事業主との取引も増えているでしょ?」

若手「そうですね。やはり会社組織の方が信用は出来ますが、最近は、個人事業主だからといって排除はしていませんね。」

私「という事は、君が会社組織で排除するのは、合名会社だけって事かな?」

若手「そうですね。他にも知らない会社組織があったら、それも外すかも。」

私「なるほどね。じゃあ、他だと合資会社とかかな。でも、特に理由がないなら、そういう事は止めようよ。その合名会社、真面目に頑張っている会社かもしれないんだからさ。」

若手「でも、それなら株式会社にすれば良いじゃないですか。合名会社のままっていう事は、何か事情があるのかな?とか疑ってしまいません?」

私「いやいや、それは君の誤解だよ。」


ここから誤解を説く為の説明をする事になるのですが、その前に、誤解を避ける為、少し申し上げておかないといけない事があります。

実は、取引先審査の現場(取引しても良いかどうかを判断する場)において、「自分が詳しくない会社形態の会社とは取引しない」という判断は決して間違っていません。

会社形態の違いによって、会社の運営ルールは異なります。

そして、取引においては、様々な法律的なチェックをする必要になる事があり、相手の会社の運営ルールが良く理解出来ていない事は致命的な問題となる事があります。

ですから、「うちは株式会社としか取引しない」と決めるのであれば、それは一つの合理的な判断と言えるのです。

ただ、今回は、合同会社や個人事業主とは取引するのに、合名・合資会社とは取引しないという方針のようです。

これでは、その合名会社が可哀想すぎます。

そこで、一肌脱ぐことにしたのです。


少し考えて、少し遠回りに説得してみる事にしました。

私「個人事業主の信用力が低いのは、その通りだと思う。それでも、貴方が取引しても良いと思う事があるのはどうして?」

若手「出来れば取引はしたくないんですけれどね。でも、その人が信用できると思えれば、まぁ良いかな、と。」

私「なるほどね。人で信用する訳だ。」

若手「そうですね。個人事業主の場合、実際、その人が事業の結果に全責任を負うことになりますし。」

私「そうだよね。そこは株式会社なんかより、責任の所在が解りやすいし、良い所だよね。」

若手「その点、株式会社は、事業が危なくなると経営者が逃げる事がありますからね。そこは、ちょっと微妙な所ですよね。」

私「良く解っているじゃない。じゃあ、株式会社の良い所は?」

若手「色々とありますが、やっぱり、株式会社は法人なので、財産が個人とはしっかり切り離されている点は良いですね。」

私「じゃあ、法人化されていて、かつ、経営者が事業の結果に全責任を負う事になっている状態があったら、それが一番良いって事かな?」

若手「それは、そうかもしれませんね。」

私「それが合名会社だよ。」

若手「え?そうなのですか?」


実は、そうなのです。

合名会社・合資会社は、法人の一種ですが、経営者の責任が限定されません。

合名会社と合資会社で、その細かいルールが違うのですが、どちらにせよ、その法人の経営者の全員(または一部)が、その法人に対して無限責任を負います。

ですから、「経営者の責任がより明確(厳しい)」という点でのみ判断するのであれば、「株式会社や合同会社よりも、合名会社・合資会社の方が、よほど信用して良い会社形態である」と言えるのです。

その反面、合名会社や合資会社は大規模な会社組織にしづらく、個人事業の延長線上のようなイメージの会社が多いのは確かです。

ただ、個人事業主や小規模な合同会社と比較するのであれば、合名会社・合資会社が信用力で劣るという事はない、と考えて頂いて大丈夫です。

このような特色があるので、古くから続いている会社の中には、未だ合名会社・合資会社を続けている会社があります。

また、近年も合名会社・合資会社の新規設立件数はゼロではありません(2020年度は合名会社で34社、合資会社で41社が新規に設立)。

ですから、皆様が合名会社や合資会社を見かける機会があっても、「良く解らない会社名だから取引するのは止めよう」などとは思わずに、ぜひ、前向きに取引してあげて欲しい、と思います。