ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

消費行動まで変わる?3Dプリンターの普及が社会に与える3つの影響

3Dプリンター

3Dプリンター(スリーディープリンター)をご存じでしょうか。

パソコン等に繋ぐ普通のプリンターでは、紙などの2次元の物体にデータを印刷する事が出来ますが、3Dプリンターは、この3次元版という事で、立体的なモノを作り出す事が出来ます。

立体的なモノを表すデータが表示されているパソコンから印刷ボタンを押すと、横にある3Dプリンター内で、実際にその物体が作り出される、といったイメージです。

そして、3Dプリンターでは、設計データから立体物を直接作り出す事が出来る為、これまでモノを作りだす過程で必須とされてきた金型も必要ありません。

3Dプリンターには、「生産工程を大幅に短縮できる」というメリットがあるのです。

ただし、これまでの3Dプリンターには、「製造コストが割高」、「一定以上の強度のものを作り出すのは難しい」などの問題(デメリット)がありました。

この為、これまでは、限られた用途でのみ利用が進み、本格的な製造工程での採用はあまり進んできませんでした。

しかし、この3Dプリンターの性能が向上し続けてきた結果、ついに、ステンレスのような硬い素材の立体物までを作れるようになりつつあります。

このような機能の向上を受けて、自動車などの製造現場でも3Dプリンターの利用が検討され始めています。

3Dプリンターが製造工程を一変させる未来も近いかもしれません。


では、この3Dプリンターが普及すると、私達の生活には、どんな影響があるのでしょうか。


私達の生活には、3つの影響があると予想されます。


1つ目の影響としては、「企業が発表する製品のバリエーションが増える(または、カスタマイズやオーダーメイドによる生産を前提とした製品が増える)」という影響が考えられます。

これまでは、様々なニーズ(特にサイズに関するニーズ幅)があると解っていても、金型のコストの問題などがあり、ある程度のニーズをひとくくりにして、最大公約数的な製品を発表せざるを得ない状況がありました。

しかし、3Dプリンターによる生産を前提とすれば、金型は不要となります。

もちろん、3Dプリンターだけでは対応出来ないコストもあるのですが、それでも、製品のバリエーションを増やす為のコストは大幅に下がります。

この為、「ニーズがあるのであれば、細かい製品のバリエーションを用意しよう」と考える企業が増える事が予想されます。

または、これまではオーダーメイドを受け付けていなかったような製品であっても、「希望があれば、ユーザー指定のサイズで製品を作ります」といったサービスが出てくる事も予想されます。

※もちろん、当面は全ての部品が3Dプリンターで生産できる訳ではありません。この為、影響は限定的です(以下、同じ)。


2つ目の影響としては、「修理用部品に関するコストが下がる事による価格下落」という影響です。

これまでは、企業は製品を発売すると、その製品を修理する為に必要な部品を大量に作り、保管しておく必要がありました。

そして、そのコストが製品には上乗せされていたり、修理代金が高騰する原因となっていました。

しかし、3Dプリンターの存在を前提とすれば、交換用部品を事前に生産しておく必要はありません。

修理を受けてから、必要となる部品を3Dプリンターで生産すれば良いからです。

結果、部品を保管しておく費用(倉庫代など)は不要になり、また、生産しておいた部品が無駄になる事を気にする必要もなくなります。

そういったコストがなくなる分、製品本体の価格や修理代金を下げる事が可能となります。

※倉庫業にとっては、需要減に繋がります。

※この2つ目の影響は、1つ目の影響を後押しする効果もあります。すなわち、「製品のバリエーションを増やすと、修理用部品の種類も増えて困る」という理由からバリエーションを増やせなかった企業が、そのコストを気にせずにバリエーションを増やせるようになります。


最後の3つ目の影響は、「製品寿命を延命させられるようになる」という影響です。

これまでは、「修理用部品の在庫が無くなってしまったので、この製品は修理できない」という事が発生していました。

部品を生産する為には、製造ラインのセットアップなどが必要であり、そんなに簡単に「修理用部品を追加で生産する」という事は出来なかったのです。

この為、最初に修理用部品を生産しておき、「修理用部品の在庫が尽きたら、その製品の修理は出来なくなる」といった考え方を採用しているケースは多かったのです。

しかし、3Dプリンターによって、その都度、修理用部品を生産出来るようになると、「修理用の部品が無い」という事は無くなります。

結果、これまでよりも長く修理が受け付けられるようになる可能性は高いのです。

更に、昔の機能のまま使い続けるだけではなく、「古い製品を、性能を高めて使い続ける」といった事まで行えるようになるケースすら増えるかもしれません。

これは、3Dプリンタを活用すると、古い製品の為のパーツを新しく設計・生産するのが簡単になる為、「古い製品の為の機能増強パーツを新しく発売する」といった事に企業が取り組みやすくなる為です。

そして、これらの考え方は、SDGsの考え方とも合致している為、大きなムーブメントとなる可能性を秘めているように思います。


このように、性能が向上した3Dプリンターの普及は、単に「製造業の生産工程が変わる」というだけではなく、世の中に様々な影響をもたらすと予想されるのです。


※3つ目の影響については、先日、このブログでも取り上げた「増価蓄積」の考え方とも連動します。増価蓄積の考え方をご存じない方は、宜しければ、以下のエントリもお読み下さい。

www.yoshida-ri-blog.com