先日、
「石油企業大手であるロイヤル・ダッチ・シェルに対して、ハーグ(オランダ)の裁判所が、二酸化炭素(CO2)の純排出量を2030年までに19年比で45%削減するよう命じた」
というニュースが出ました。
このニュース、企業にとっては大きな意味を持つものでした。
なぜならば、もし、この判決が確定するような事があると、
「CO2削減への取り組みが不十分だと、裁判所から命令されてしまう」
という事が、今後、普通に起きてしまう事になるからです。
すなわち、「CO2削減への取り組みが甘い事が、法令違反したのと同じように扱われてしまう」という事なのです。
ご存じの通り、CO2削減の為に、世界は「パリ協定」をまとめました。
パリ協定(2015年)とは、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みであり、京都議定書(1997年)の後継です。
パリ協定では、日本も含め、全ての参加国がCO2削減に取り組む事を約束しています(京都議定書で削減義務があったのは、先進国のみ)。
しかし、その削減を「具体的に、どう実現していくのか」という事については、未だスタンダードが出来上がっているとは言い難い状態にあります。
この為、企業レベルでの現時点での行動としては、「各業界・各社で、CO2削減に出来る限り頑張って取り組む」という以上の動きにはなっていませんでした。
それを超える動きとしては、「各企業の株主が、『もっと真剣にCO2削減に取り組め』と企業をコントロールする(株主としての立場から圧力をかける)」ような動きが予想されていた程度でした。
それにも関わらず、今回の判決が出た訳です。
企業関係者からは、「なぜ、現時点で、裁判所が個別企業のCO2削減幅・方法について判断できるのか」といった声(疑問)も聞かれます。
強制力のある法律に基づいて、各企業に数字や具体的な対策が割り当てられており、それが未達であった場合に、「法律に違反した」として何らかのペナルティを受けるのであれば、それは多くの企業が納得する所でしょう。
しかし、今回の判決は、そういった話ではありません。
シェルも、CO2削減に取り組んでいなかった訳ではなく、温暖化ガス排出量を50年までに実質ゼロとする長期目標を発表していました。
CO2排出量を減らす中間目標も発表していました。
それにも関わらず、「それでは足りない(不十分である)」と裁判所が命令した事になります(ちなみに、訴訟は環境団体が起こしたものでした)。
※パリ協定で約束した結果を実現させる為の国内法の手当については、世界中で進みつつはある状況です。日本でも、地方自治体レベルでは、一定の強制力を持った対応が取られています。
もちろん、日本企業にとっても、この問題は人ごとではありません。
ある日、どこかの国で、「CO2削減が足りない」と訴えられ、裁判所から命令される可能性が出て来た訳ですから。
このブログは、企業に投資されている方にも読んで頂いているようですが、
今後は、投資にあたって、単にESGへの取り組みをチェックするだけではなく、
「投資先の企業が、訴えを起こされないような状態になっているか」
といった視点でのチェックも行って頂いた方が良いかもしれません。
ただ、経営者にとって、「どこまで環境対策に金をかけるのか」という事は、かなり難しい問題でもあります。
自社だけが巨額の環境投資を行った場合、それが負担となって、競合他社との競争力にまで影響が及んでしまう可能性もあるからです。
業績に関する責任(雇用責任を含む)を負っている経営者にとっては、簡単に判断できる事ではないのです。
さて、様々なご意見はあると思いますが、経営という視点から問題を見ている身としては、
「政府(または国際機関)に、『当面、これだけの事を企業が守っていれば良しとする』といった指針を、早めにまとめて貰いたい」
と思っています。
CO2削減はサプライチェーン全体で考えないといけない問題であり、数字の集計だけを考えても、決して簡単なものではありません。
また、CO2削減の方法についても、様々な方法が現在でも検討中です。今後の技術変革も期待できるでしょう。
長期的な取り組みに関する具体策を、現時点で各企業に丸投げされても、なかなか難しい面があるのです。
ぜひ、日本企業が裁判所から命令されるような事が起きる前に、日本政府には、「国として約束したCO2削減目標を、どうやって自国内で実現させるのか」という事について、責任をもって検討を進めて頂き、企業が守るべきルールを固めて頂きたいと思います。
また、それさえ守っていれば、海外で日本企業が訴えられるような事がないように、調整を進めて欲しいと思っています。