東証(東京証券取引所)が市場区分の見直しを進めています。
現在の「東証1部」「東証2部」といった区分がなくなり、「プライム」「スタンダード」といった区分に変更になるのです。
この変更、単に区分の名前が変わるというだけではなく、様々な影響を上場企業や投資家に及ぼします。
企業でも様々な検討を始めていますが、今日は、一般投資家(上場企業の株式を購入される方)にも関係する点(知っておいた方が良い点)に限定して、ご紹介したいと思います。
最初に、東証の市場区分見直しの概略について、少しだけ解説しておきます。
区分見直しが行われる事になった理由は、「1部に属する会社の数が増えすぎたから」だと言われています(正式には、他の理由も挙げられています)。
しばらく前から見直しが行われるという事は発表されていましたが、ほぼ方針が固まり、以下のような区分見直しが行われる方針となっています。
【現在】
・市場第一部
・市場第二部
・マザーズ
・JASDAQ(スタンダード・グロース)
以上、4区分(JASDAQを2つに分けて考えれば5区分)。
【今後(見直し後)】
・プライム市場(大きな時価総額と流動性、高ガバナンス水準)
・スタンダード市場
・グロース市場(高い成長可能性、相対的に高いリスク)
以上、3区分。
長年、一部や二部といった名前に慣れている身としては違和感を感じますが、きっと、すぐに慣れるのでしょう。
それはさておき。
区分の変更は、単に区分の名前が変更になるだけではありません。
現在、上場している企業は、前述の3区分のどれかに所属する事になりますが、これに伴い、様々な影響が予測され、各社、対応を進めているのです。
そして、一般投資家に影響があるのは、以下の3つのポイントだと考えられます。
①維持すべき株主数が変更となる
②避けるべき株主の条件が増える(流通株式の計算式の変更)
③株価指数の構成銘柄が変更となる(TOPIXに含まれる銘柄の変更)
以上3点、全て、株価への影響が予想されます。
加えて、①は株主優待の廃止や変更に繋がる可能性があります。
以下、それぞれのポイントを簡単に解説していきます。
まず、「①維持すべき株主数が変更となる」ですが、上場を維持する為には、区分ごとに、「最低、○○人の株主はいる状態を維持して下さい」という基準があります。
この為、この基準をクリアする為に、株主優待に力を入れている企業があるのです。
株主数を増やす為には、個人株主を増やすのが手っ取り早いのですが、その為に、「個人株主が喜びそうな株主優待を導入する」という事が行われてきたのです。
そして、その代表格は、「クオカードなどの商品券を配る」といったものです。
しかし、今回の区分見直しで、株主数の基準が緩和される予定です。
この為、個人株主を増やす為だけに株主優待を導入していた企業の場合、その株主優待を維持する必要性が薄れます。
結果、そのような株主優待を廃止する企業が出てくる可能性があるのです。
もちろん、優待の廃止は、その会社の株式の人気に影響する事になり、株価に影響する可能性もある訳です。
次に、「②避けるべき株主の条件が増える(流通株式の計算式の変更)」です。
①と少し似ていますが、上場を維持する為には、「その会社の株式のうち、この位の割合は一般の投資家が持っている状態にしておいて下さいね」という基準があります。
その会社の関係者ばかりが株式を持っているような状態だと、株が自由に取引されている状態とは言えませんからね。
そして、その「自由に取引されている株式とは見なさない」分を除いた株式の割合を「流通株式比率」と呼び、その割合を計算する為の計算式が、今回の区分見直しで変更となります。
これまでも、会社の関係者(主要株主や役員など)が持っている株式を「自由に取引されている株式とは見なさない」という扱いはあったのですが、それに加えて、「金融機関や他の会社が持ち合いで持っている株式も、自由に取引されている株式とは見なさない」という扱いに変更となる予定です。
そして、この割合を気にする必要がある会社(基準を割り込む可能性がある会社)では、「金融機関などが株主全体に占める割合を下げる」という対応を検討する可能性がある訳です。
具体的な対策としては一つではないのですが、一番イメージしやすいのは、「うちの株を売ってくれ、と金融機関などに頼む」という方法でしょう。
もちろん、株価への影響が発生する可能性は十分にある訳です。
※正式な流通株式比率の計算式についての大きな変化としては、「国内の普通銀行、保険会社、事業会社等が所有する株式(保有目的が純投資であるものを除く)」が保有する株式が、今後、流通株式から外れる予定です。
最後は、「③株価指数の構成銘柄が変更となる(TOPIXに含まれる銘柄の変更)」です。
投資を行う際には、「株価指数と連動する商品に投資する」という方法があり、その株価指数の代表格がTOPIXと呼ばれる指数です。
そして、そのTOPIXという指数の計算には、東証1部に上場している企業全てが含まれています。
ですから、実は東証1部に所属さえしていれば、どれだけ人気のない会社の株であっても、そういった投資によって、「一定程度は、買われる」という現象が起きています。
もうお解りだと思いますが、東証1部がなくなる事によってTOPIXから外れる事になると、その会社の株式は、そのような投資で買われる事がなくなります(移行期には、売られる事にもなります)。
ですから、この点も、株価への影響が予想されるのです。
※TOPIXに含まれる銘柄については、今後、区分にとらわれないかたちに移行する予定です。2022年4月頭のTOPIX構成銘柄は、当面、新市場区分での該当に関わらずTOPIX構成銘柄となりますが、新流通株式時価総額基準などを満たさない銘柄については、段階的に構成比率が引き下げられ、2025年1月には構成銘柄から外される予定です。
以上、該当する要因を抱えている企業の株式に投資されている方・投資しようとされている方は、お気を付け下さい。
なお、東証の区分見直しが実行されるのは、2022年4月の予定です。
※本記事は2021年2月の東証発表をもとに行っている検討をベースとしております。その後の変更などにより、本記事の内容は適切ではなくなる可能性があります。
※TOPIXの移行措置について追記(2022/4/25)。