ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

人の心理に働きかけて「魅力的にみせる」飲食店のメニューがある

定食屋のメニュー 選択と集中 経営

似たような2軒の飲食店でも、メニューの出し方一つで「多くの人が片方の店を選んでしまう」という事があります。

今日は、そんなお話です。

 

しばらく前ですが、電車で一時間以上かかる外出先で食事を取る事になりました。

土地勘のない場所でしたが、駅前に定食屋が何軒かありましたので、その中から決めようと考え、店の外に出ているメニューを見比べてみる事にしました。

利便性の良い場所だけあって、どの店も、通りすがりの客に向けて、しっかりとアピールするメニューが外に出してあります。

これは助かるな、と思いながら、視野に入った店は全てチェックし、最終的に2軒に絞り込みました。

そして、その2軒のメニューを見比べて最終検討しているいる中で、一つ、面白い事に気付きました。そして、日頃、経営に関して、当たり前に思っている事の難しさを、改めて実感する事になりました。

今回は、この2軒の定食屋のメニューの比較から、自店舗をアピールする難しさについて考えてみたいと思います。

 

まず、最初に2軒のメニューを見て頂きたいと思います(多少、実物から変更しています)。

 

<店舗①のメニュー>

何でも美味しい定食屋

・うどん 産地直送のこだわりの小麦を使ってます
・海鮮丼 地元の新鮮な魚を使っています
・そば 店主が毎日、必要な量だけを手打ちしています
・天ぷら ボリュームたっぷり、種類も豊富

※複数メニューの組み合わせも出来ます
※海鮮丼は、刺身とご飯の別盛りも出来ます

 

<店舗②のメニュー>
地元の新鮮な魚を美味しく出す事にこだわって20年
毎朝、地元の漁港で最高の魚を届けて貰っています
地元の魚料理に関しては、どこにも負けません

・地魚たっぷりの海鮮丼
・地魚たっぷりの刺身定食

※蕎麦、うどんとのセットもあります
※天ぷらセットもできます

 

以上、2軒です。

 

さて、皆様であれば、どちらを選ばれますか?

海鮮が苦手でなければ、店舗②の方を選ばれる方が多いのではないでしょうか。

私もそうでした。あえて先ほどは書きませんでしたが、その場所は漁港が近く、もともと「気分的に海鮮かな」と思っていた事もありました。

しかし、そうでなかったとしても、店舗②を選んでいた可能性は高いでしょう。

店舗①は、どこにでもありそうな定食屋に見えてしまいます。せっかくの外出先で積極的に選びたい店とは感じませんでした。

 

そして、この選択を経営の視点でみると、やはり、「店舗②が強い」という結論になります。

多くの場合、「何でもある店」よりも「何かに『こだわっている店』」の方が消費者に選ばれる傾向が強い事が分かっているのです。

これは、「集中と選択」といったキーワードで呼ばれる経営の基本テクニックの一端でもあります。

 

と、そこまでは、この2軒のメニューを最初に見ただけで気づきました。

しかし、問題は、その後です。

他の店も含めて検討した結果、この2軒に候補を絞りました。そして、改めて、この2軒のメニューを良く見比べたのです。

そうすると、ある事に気がつきました。

実は、2軒のメニューは、驚く程に同じ事が書かれている事に気づいたのです。

単純に2軒のメニューを分析して、頼めるメニューをリストアップすると、両店とも、「うどん」「そば」「刺身」「海鮮丼」「天ぷら」となります。

皆様は、先ほどのメニューを一目見て、お気づきになりましたか?

 

この2軒、もともと同じだった店が2軒に分かれたのかもしれません。そして、味も、似たようなものなのかもしれません。

そして、恐らく、店舗①の店主は、全てのメニューにこだわりがあり、全てのメニューについてアピールを書きたかったのでしょう。

しかし、その結果として、店舗②よりも魅力の落ちるメニューになってしまったのではないか、と推測します。

しかし、もう言うまでもないと思いますが、店舗①の主人のアピールは、「消費者には伝わりづらい」のです。

 

多くの人は、ひたすら海鮮を推している店舗②を選びます。実際、通りがかった人の行動を見ていると、店舗②に吸い込まれる人が多かったように思います。

理屈では解っていても、改めて、こういうメニューを見てしまうと、経営の基本を実践する難しさを実感してしまいます。

こだわりがあっても、「相手に伝える時には、それを捨てなければならない時がある」という事。

理屈を説明するのは簡単ですが、それを実際に行うのは本当に難しいと思います。

美味しいはずの食事の前に、妙な疲れを感じてしまった一件でした。