ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

紙幣のデザイン刷新を毎年行えば、景気は刺激され続けるのか

紙幣のデザイン刷新 景気対策 経営

先日、紙幣のデザイン刷新が発表されました。

新元号の発表と近かったこともあり、何やら様々なものが新しくなる感じを受けた方も多かったのではないでしょうか。

そして、この「紙幣刷新」ですが、自販機などの「紙幣を扱う機械」を保有している多くの会社にとっては、「嫌なニュース」という面があります。

そう、「新紙幣を扱えるように、機械を対応させないといけない」という話です。

 

もちろん、これは、逆の立場である、機械を作ったりメンテナンスしている会社にとっては、天の恵み。

苦労しなくても、新しい機械が売れたり、対応でお金が取れたりします。

その額、なんと「1兆2600億円」。

これは、新聞に載っていた数字ですが、衆院財務金融委員会で財務省が発表した数字だそうです。試算をしたのは、日本自動販売システム機械工業会だとか。

 

ちなみに、この「1兆2600億円」という金額、どの位かピンと来ますか?

日本の人口は1億2644万人(平成30年10月1日現在、総務省統計局発表)ですから、1人あたりに直すと1万円弱です。

この金額をどう考えるかは人それぞれでしょうが、とにかく、これだけの金額を、「新しいデザインの紙幣を扱う」為に、企業は払わないといけない訳です。

そうした機械を持っているのは消費者向けの企業が多いと仮定すると、それらの企業は、その「新紙幣を扱う為だけ」の為に使ったお金を、自分のお客様(消費者)から回収したいと思うでしょう。

 

すぐに、その方法として思いつくのは値上げでしょうか。

日本全国で、少しずつかもしれませんが、様々なモノやサービスの値上げが行われるのかもしれません。

そして、その結果、合計で、日本人は1人1万円ずつ多く、お金を払わされる事になるのかもしれません。

「強引に日本人全員に1万円ずつお金を払わせる」と考えると、凄い話ですよね。

 

もちろん、この話はちょっと強引です。

別に企業が提供するモノやサービスの値段に納得出来なければ、消費者はお金を払う義務はありません。また、機械が相手にするのは、日本人消費者だけではありません。

しかし、どちらにせよ、すごい経済効果が発生するのは確かでしょう。

 

ここからが今日の本題です。

もし、この紙幣刷新によって、経済効果が発生し、景気対策になったとしましょう。

誰かは、こう考えるかもしれません。

「紙幣のデザイン変更を頻繁にやれば、景気なんて一気に良くなるんじゃないか?」

さすがに政府は考えないでしょうが、そんな事を考える人が出てきてもおかしくない気はします。

皆さまは、どう思われますか?

本当に、頻繁に紙幣刷新をすれば、経済効果が出ると思いますか?

 

この問題を扱う為には、いくつかの視点がありますが、今日は一つだけ取り上げましょう。

それは、「慣れ」の問題です。

もし、紙幣のデザイン変更が毎年あったとしましょう。

そうすると、毎年、この「1兆2600億円」という巨額の費用が日本中で発生するのか?

法律などで定めでもすれば別でしょうが、そうでなければ、答えは「No」である可能性が高いでしょう。

恐らく、毎年のデザイン変更に、ほとんどお金をかけなくても対応出来るような仕組みが考案され、最初の年だけは、今回と同じように、巨額の費用が発生するかもしれませんが、その後は、ほとんど景気刺激効果はなくなるでしょう。

もしくは、新デザインに対応させる事を諦める業者が続出した結果、自販機で使える紙幣の種類が制限されたりするのかもしれません。

 

今の日本の紙幣のデザイン変更の間隔は、20年が一つの目処なのだそうです。

「1兆2600億円」もの巨額の費用が発生するのは、「それだけ長い間隔に一回だからこそ」という面がある訳ですね。

 

そして、この話、企業の販売戦略と繋がる気がしませんか?

例えば、「一生に一度しか来日しないであろう演奏家が日本で演奏会を開く」と聞くと、値段が高くても聞きに行ってしまう。

「好きなブランドの限定品が発売された」と聞くと、自分が持っている製品と大して違わない製品であったとしても、高い値段を出して買ってしまう。

そんな事はありませんか?

 

しかし、その売れ行きに味を占めた興行主が、毎年、日本ツアーを開くようになってしまう。

限定商品が毎年のように、おまけに、何種類も発売されるようになる。

そんな事があったりもします。

一部のファンは、それでも購入を続けるでしょう。

しかし、多くファンは、初回と同じようには購入を続けません。

結果、企業側は、期待していた程は売上が上がらなくなり、更には、消費者から得ていた自分達への評価や信頼まで失ってしまったりする。

 

こうした事を行うのは、

「前に同様のお金を払ったのは、いつだったか忘れるくらい昔」

というくらいの頻度にしておいた方が良さそうです。

 

日本政府には、紙幣のデザイン刷新を材料に経済対策を行って、国民からの信頼を失うような事だけは止めて頂きたいものです。

何せ、その紙幣の価値とは「『信頼』だけで成り立っている」と言っても過言ではないわけですから。