ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

インボイスが貰えない場合の処理は?税金分損するだけだと思っていませんか?

インボイスがもらえない場合 仕入控除 経理処理 仕訳

インボイス制度が導入されて少し経ちますが、インボイス制度開始後の処理については、間違って理解されている方も少なくないようです。今日は、その中でも特に誤解が多い点を一点、ご紹介させて頂きます。


インボイス制度の導入に伴い、

「インボイスが貰えない場合、税金分、損してしまう事になる」

という事は、良く知られていると思います(経過措置あり)。


しかし、もし、貴方が、

「インボイスが貰えなかった取引については、その税金分が雑損失になるだけ」

だと理解されているのであれば、それは間違いかもしれません。


実は、インボイスが貰えなかった取引については、

・固定資産として計上すべき金額が変更になる(関連して、減価償却の金額が変更になる事もあります)

・在庫として計上すべき金額が変更になる(関連して、売上総利益の金額が変更になる事もあります)

・費用処理する勘定科目(費目)が変更になる(税務判定に影響が出る事もあります)

などの幅広い影響が出る可能性があるのです。

※実際にどのような影響があるかは、その事業が採用している経理・税務処理によって異なります。また、本記事の内容は、課税事業者の方を対象としています(適格請求書発行事業者として登録をされた方は、皆、課税事業者になっています)。事業によっては本記事の内容は当てはまらない事がありますので、詳しくは税理士などの専門家にご相談下さい。


どういう事か。

簡単な例を挙げてご説明しましょう。

貴方は10%の消費税がかかる取引として、本体価格(税抜)100万円の固定資産を購入したとします(支払は現金で税込110万円を支払ったとします)。

単純に、「インボイスが貰えなかった取引については、税金分、損してしまう」という理解をされていると(マスコミなどの報道では、そのような説明が多かったように思います)、

固定資産 100万円プラス
消費税 10万円 ※仮払消費税
現金 110万円のマイナス

という取引が行われる、と考えてしまうかもしれません。


そして、

以前なら、この消費税分の10万円が消費税の申告で返ってきたのに(厳密には、仮受消費税と相殺されて、支払税金の額が減るという処理になる事が多い)、それが返ってこなくなる。

すなわち、期末に消費税分の10万円が雑損失として処理される。

という理解をされているかもしれません。


しかし、実は、この取引、インボイスが貰えなかった場合には、

固定資産 110万円プラス
現金 110万円のマイナス

という取引になるのです(後から辻褄合わせの処理をする事も出来るので、取引をどのように経理処理するかは、事業者側に選択の余地があります)。

この為、この固定資産が減価償却の対象であった場合には、こちらの金額をもとに減価償却の計算も行う事になります。

※解りやすくする為に、経過措置(8割・5割)がなかった場合の数字で説明を行っています。


すなわち、インボイスが貰えなかった場合には、「そもそも、消費税が発生しなかった」という扱いになるのです。

これまでは支払った相手が免税事業者であっても、課税事業者に支払った場合と同じように消費税処理が出来た訳ですが、インボイス制度が始まると、「相手に支払った(預かって貰った)消費税額=相手が税務署に支払う消費税額」となるのが原則となります。

そして、

相手からインボイスが貰えない
=相手は課税事業者ではない(厳密には、適格請求書発行事業者ではない)
=自分が消費税を支払ったとしても、相手はその分を納税しない
=相手に消費税を預ける事は出来ない

という考え方になるのでしょう。


なお、先程は固定資産を例として説明しましたが、これは、在庫を仕入れた場合や、経費を支払った場合も同じです。

ただし、経費などの場合には、

・その経費自体の金額が増える

・その経費に関する消費税分が雑損失になる

の両者は損益という意味では同じですので、あまり大きな問題とはならないのが一般的です(仕入の場合には、期末に売れ残った在庫分については、損益に影響が発生しますので、注意が必要)。


ただし、損益が一致しているように思えても、税務では「経費の額」で処理が変わるものがあります。

この為、やはり、注意が必要なケースが存在します。

多くの事業で注意すべきなのは、交際費についての判断でしょう。

交際費の処理において、「飲食費が5千円以下だったか?」という判定をされている事業は少なくないと思いますが、この判定は、今後、インボイスが貰えなかった場合、従来の本体価格とは異なる金額で判定する事になります(還付が受けられない分の消費税相当額を含めた金額での判定となります)。

お気を付け下さい。


以上、誤解されている方が多いと思われる、インボイス制度に伴う「インボイスがもらえなかった場合の経理処理への影響」について、ご紹介させて頂きました。


※インボイス制度導入に伴う具体的な対応については、税理士にご相談下さい。

※この件については、以下の情報が参考になります。
国税庁「令和3年改正消費税経理通達関係Q&A」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/shouhizei_faq/pdf/all.pdf