今日は、ちょっと真面目なお話を。
「日本において、本当に自由な競争環境を維持しようと思った場合、今の公正取引委員会が運用している仕組みだけでは不十分かもしれない」
といったお話です。
大型の経営統合の話が出て、公正取引委員会の審査について関心が高まっている時期ではありますが、ここまで深い話題に関心のある方は少ないと思いますので、短めで。
ただ、企業の競争環境の維持は、消費者の権利にとっても一大事です(生活費が一気に上昇する危険性すらあります)、また、一従業員の立場でも大事です。少しでも気になる方は、一読頂ければ。
日本における競争政策
「公正取引委員会が独占禁止法に基づき、~を行った」といったニュースを聞く事があります。
日本においては、
「市場が独占(寡占)されず、公正・自由な競争が行われている状態が大事である」
といった考え方で経済が運営されています。
これを、企業の経営の側からみると、
「ある企業が力を持ちすぎないように、調整される」
といった制限がかかっている訳です。
こうした考え方については、色々な意見があるとは思いますが、消費者の利益などを考えると、一定の効果をあげているのは間違いないでしょう。
何を基準に独占・寡占状態と考えるのか
公正取引委員会が注目しているのは、主に、マーケットシェアと言われています。
もちろん、これは解りやすい指標です。
市場が一企業(または数社)に独占(寡占)されてしまうと、価格のつり上げなどが行われ、消費者にとって良く無い影響が出る可能性があります。
これを防ぐ為に、マーケットシェアが一定以上に高まらないようにチェックし、制限している訳です。
また、最近では、「情報独占(寡占)」といった観点でも、シェアを検討すべきではないか、といった声も聞かれます。
これも、プラットフォーマーが力を持つ昨今であれば、重要な視点かもしれません。
これまで考慮されてこなかった競争阻害
しかし、中小企業の経営に携わっていると、
「現在の法律では制限されていないが、事実上、この分野のトップ企業(群)以外は活動出来る見込みはないな」
と感じるケースがあります。
その一つの要因が、
「トップ企業(群)による、人材の囲い込み(人材の独占・寡占)」
という問題です。
あるマーケットに参入したり、一定の競争力を持つ為には、「その分野において必要な人材」を抱える事が不可欠なケースがあります。
しかし、そうした人物を一部の企業が独占してしまっており、他の企業が雇う事が極めて難しいケースがあります。
この為、ある市場への参入や、対等な競争が難しいな、と感じる事があるのです。
人材独占の持つ大きな意味
昨今の企業経営においては、知的財産が重要となっています。この為、「人材」は、競争を維持する為の要素として重要性を高めています。
前述の通り、もし、ある企業がマーケットシェアを大幅に高めるような経営統合をしようとした場合、公正取引委員会が黙っていないでしょう。
また、大手企業が、その力にものを言わせて、他企業との取引を制限させるような圧力をかけた場合も、摘発の対象となるでしょう。下請法という法律もあります。
最近であれば、自社に競争相手と同等以上の条件でのみ商品供給をする事を義務づけるような契約を結ばせた業界に関するニュースが流れていました。
しかし、ある企業が、「人材を囲い込んで、競合他社に人材が流れないようにする」という事をしているのが問題視されている、という話は、今のところ聞いた事がありません。
確かに、こうした人材独占があっても、(かなり難易度が高いですが)何らかの方法で人材を獲得するなり、育てるなりする努力をすれば良いだけ、という意見はあるでしょう。
ですから、こうした点を問題視する必要はないのかもしれません。
しかし、もし、独占禁止法の趣旨(競争状態の維持)を重んじるのであれば、こうした独占についても、今後は注目していくべきなのかもしれません。
今まで注視されてこなかっただけで、良く調べていくと、
・競争相手がいないのは、実は、ある企業に人材が独占されていた為だった。
・もし、その状態が解消され、人材が多くの企業に散らばった場合には、市場に新規参入が起こり、値段や商品内容の面で消費者にメリットが生まれる。
そんな状態になっているマーケットは、意外と多く隠れているのかもしれません。