少し前、ファーストキャビンというホテル運営会社が自己破産を申請しました。
この会社、一般的には「カプセルホテル」と呼ばれるタイプのホテルを運営しており、業界では、かなり注目されていた会社でした。
この自己破産で、昔、カプセルホテルの関係者2人とお話させて頂いた事を思い出しました。
今から考えても、なかなか興味深い内容であったように思いますので、紹介させて頂きたいと思います。
その時のテーマを一言で言うならば、
「カプセルホテル業界に将来はあるのか?」
という事になります。
ここからは、久しぶりに、相手の方との会話形式でお読み頂こうと思います。
まず、1人目のカプセルホテルのオーナー(仮に、社長Aとします)との話し合いです。
この方は、新しくホテル業界に参入したばかりの方でした。
私「カプセルホテルを始められたのですね」
社長A「そう。これからはカプセルホテルの時代だよ。事業が失敗するリスクも無い。」
私「確かに、宿泊ニーズは盛り上がりそうです。しかし、リスクがないというのは言い過ぎではないでしょうか。」
社長A「どう考えても、このビジネスは成功するんだよ。もちろん、宿泊需要自体が蒸発でもしたら別だけど。」
この時は、まさか本当に新型コロナウイルスで宿泊需要が蒸発するとは思ってもみませんでした。しかし、それでも、違和感を感じ、こう切り返してみました。
私「宿泊需要はあると思います。しかし、普通のホテルも次々と誕生する予定になっています。今後、競争は激化するのではないですか?」
そうすると、社長Aからは、こう返ってきました。
社長A「うちのホテルの近くでも、ビジネスホテルは出来る予定になっている。しかし、負けるはずがない。負けるとすれば、同じカプセルホテル同士の競争で、だ。」
面白い話になってきたな、と感じながら、話の続きを聞きました。
社長A「確かに、カプセルホテルは個室ではないという弱みはある。しかし、安く泊まりたいというニーズは確実にある。」
社長Aは続けます。
社長A「カプセルホテルは、今まで宿泊施設が作れるなんて思いもしなかった所に作る事が出来るんだよ。更に、運営にかかる手間も少ない。だから、どうやってもビジネスホテルよりも圧倒的に安い値段が提示し続けられるんだよ。」
この社長がビジネスホテルを敵では無い、と考えている根拠は解ってきました。
確認の為に、少し突っ込んでみる事にしました。
私「なるほど。確かに、圧倒的な安さを武器にすれば、ビジネスホテルから客を奪える可能性はありそうですね。しかし、そんなに美味しい商売なのであれば、カプセルホテルへの参入が相次ぎ、結局、競争は激しくなるのではないですか?」
そうすると、社長Aからは、こう返ってきました。
社長A「その通り。今後、カプセルホテルには参入が相次ぐはずだ。彼らとは戦わないといけない。しかし、だからこそ、今のうちに開業して、ノウハウを蓄積しておくんだ。そうすれば、後発に負けるはずがないんだよ。」
想定に甘い点はあるとは思いましたが、この社長が指摘している中に、重要なポイントが含まれているのも確かであったと思います。
そして、もう1人のカプセルホテルの関係者(仮に社長Bとします)との会話もお読み頂きましょう(少し時期は違います)。
この方は、カプセルホテルの将来を悲観視されていました。
社長B「カプセルホテルの将来はないよ。」
私「なぜでしょう。」
社長B「客がいない。おまけに、ビジネスホテルに客を奪われる。」
面白いですよね。1人目の社長Aとは、全く逆の意見です。
色々と解ってはいたのですが、聞かずにはいられませんでした。
私「とは言っても、宿泊需要には強いものがあります。今後も伸びると予想されています。それを見越して、宿泊業界への投資も続いていますよ?」
社長B「シティホテルやビジネスホテルなら良いだろうよ。しかし、うちはカプセルホテルだ。昔みたいに、終電逃して遊ぶ人が減ったら、うちは厳しいんだよ。」
さらに、こう続きました。
社長B「だいたい、ビジネスホテルが値段を下げてくるのが悪い。値段に差がなくなったら、ビジネスホテルに負けるに決まっている。それに、ネットカフェやカラオケが朝までやってるのは、営業妨害だ。」
社長Bの文句は、この後も続きましたが、省きます。
ちょっと滅茶苦茶だな、とは思う所もありましたが、確かに的を射ている部分もあるように思われました。
さて、ここで、少し整理しておきましょう。
1人目の社長Aは、
「カプセルホテルは(他のホテルより)値段を下げられる。だから、将来は明るい。」
という意見でした。
この部分について、2人目の社長Bは、
「値段の面でもカプセルホテルは有利とは言えない。だから、将来は暗い。」
という意見です。
他にも色々とありましたが、大きく食い違うのは、このポイントでした。
立場が違う2人(2社)だから当然とはいえ、全く同じ業界で、将来性について全く違う考え方を持っているとは、面白いですよね。
さて、皆さまは、社長Aと社長Bの言い分、どちらが正しいと思われましたか?
皆さまは「カプセルホテルに生き残る道がある」とお考えでしょうか。
それとも、逆に、「カプセルホテルに負けないように値段を下げざるを得ないビジネスホテルの将来こそ無い」とお考えでしょうか。
ちなみに、1番目の社長Aの考え方が少し甘かったのは間違いないと思いますが、それでも、「低価格で繁盛している宿泊施設」は間違いなく存在します。
その一方、2番目の社長Bの会話にも登場していないような、「意外な競合(客を奪い合っている相手)」も存在します(皆さま、何かピンと来るものはありますでしょうか?)。
「ホテルの経営」と考えると難しいかもしれませんが、「ホテルが選ばれる為には、何が大事なのか?」や「ホテルが提供する価値とは、そもそも何なのか?」という事を、客の視点から考えて頂くと面白いかと思います。