ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

「在宅勤務権」を知っていますか?労働者の権利は拡大するのか

在宅勤務権 労働者の権利

在宅勤務権」という言葉をご存じでしょうか。

日本ではなく、海外の法制度に関する権利についての用語なのですが、最近、一部の新聞でも取り上げられたので、少し知名度が上がってきた言葉です。

すぐに日本において権利として認められる事はないと思いますが、日本でも在宅勤務権についての検討が始まる可能性はあるでしょう。

そこで、取り上げてみる事にしました。

 

そして、この在宅勤務権、

「労働者がもつ権利とは、どのようなものなのか?」

「労働者が会社に対して主張できる内容は、今後変わっていくのか?」

といった事を考える上では、興味深い権利であるように思います。

在宅勤務権とは何か

一言で言えば、

労働者が、(勤務先に出社せず)自宅で仕事をする事が許される権利

です。

日本語の通りですね。

そして、「この在宅勤務権を認めた国がある」という事を知り、「日本でも在宅で仕事が出来る権利を認めるべきではないか」という主張をする方もいらっしゃいます。

確かに、在宅勤務権を認める国があるのは確かです。

ただ、この権利、少し誤解されている所もあるようです。

実は、「自宅で100%勤務する事を認める(勤務先に強制する)権利」は、どこの国でも導入されていません(当方で確認できている限り)。

当方で確認出来ている限り、

「勤務時間の一定割合を、勤務先(会社)以外で行う事を認める権利」

「労働者が、勤務先(会社)に対して、在宅勤務を要請する権利」

といった権利が、実際に導入されていたり、導入が検討されていたりしている程度です。

ただ、それでも、日本の労働環境の前提からすれば、かなり大きな差であるようには思います。

在宅勤務権が導入されている国とは

在宅勤務権のイメージに最も近い制度が実際に導入されているのがフィンランドです。

フィンランドでは、1990年代からフレックスタイム制が大規模に導入されてきました。

そして、それに追加されるような形で、2020年頭に労働時間の「一定割合」を「労働者が働く場所を決める事ができる」という仕組みが導入されています。

日本において在宅勤務権が議論される際には、この事例を前提としている事が多いように思います。

また、オランダでも1990年代から大規模に労働時間を変更(主に短縮)する動きがあり、その後、勤務日数や場所の変更を雇用主に申請する仕組みが出来ています。

その他の国でも、導入に向けて検討が行われている国はあるようです。

しかし、「勤務」とは「企業が求める労働をしてこそ」という面があり、海外においても、そこまで強い権利としては認められていないのが主流です。

「効率が落ちる」といった懸念も強いようです。

なお、ドイツでの在宅勤務権が取り上げられる事もありますが、これは、未だ確定ではありません。強い権利にはならないのではないか、とも言われています。

では、「在宅勤務権が注目されている流れには、全く意味がないか?」というと、そんな事もないように思うのです。

 

※この記事を読んで頂いている時点では、状況が変化している可能性はあります。

※ドイツのハイル労働・社会相が、少なくとも年24日の「在宅勤務を要求する権利」を提案したと報じられました。ただし、反対意見もあり、認められるかどうかは未だ見通せない状況です。(2020/10/10追記)

在宅勤務権は何が凄いのか

日本では、新型コロナウイルスの流行に伴って、

「感染のリスクがあるので出社したくないが、社命なので出社せざるを得ない」

といった声が聞かれました。

妊婦の中には、

「(通勤は拒否できず)感染が怖いので、会社を辞める事にした」

というような方もいらっしゃったと聞きます。

これは、

「勤務場所は会社に決める権利があり、それを従業員が守るのは当たり前」

という考え方があるからでしょう。

会社側の立場で考えれば当たり前です。

「会社が必要とする勤務(労働)をしてくれるからこそ、会社は従業員(労働者)に給料を支払う」

のであり、

「会社の言う通りの仕事をしてくれないのであれば、給料が支払える訳がない」

となります。

恐らく、ほとんどの日本人の労働者は、この考え方に違和感は覚えないはずです。

しかし、ちょっと待って下さい。

では、

「危険な勤務環境でも、労働者は文句を言わずに仕事をしなければいけないのでしょうか?」

「会社が望めば、休日や休憩なしで労働者は働かないといけないのでしょうか?」

もちろん、今の日本においては違います。

元々、「嫌な会社を辞める権利」や「会社側と団体交渉する権利」などが労働者にはありますが、それに加え、

「一定の基準をクリアした労働環境を用意する義務」

が雇用主にはあるとされています(安全配慮義務)。

この考え方は、日本だけではなく、多くの国で通用します。

そして、少なくとも一部の国では、「勤務先に出社しない権利」が労働者の権利として認められ、「勤務場所を会社が指定する事は許されない」という事になっている訳です。

日本における労働者の権利はどこまでか

昨今は、日本でも「男女雇用均等」「セクハラ」「パワハラ」「タバコの煙のない環境」など、様々な点で法令の整備も進んできました。

一昔前と比べれば、日本の労働(雇用)環境も変わっては来ているのです。

ですから、実は、

「経営者が望めば、どんな環境でも従業員を働かせる事ができる訳ではない」

という流れはあるのです。

もうお解りでしょうか。

「どこまでが、労働者の権利として認められるべきなのか」

という点は、意外と曖昧なものであり、時間と共に変化するものなのです。

もっとも、日本において「勤務場所」に関する権利は、なかなか認められる事はないでしょう。

では、どこまでの権利なら、日本でも認められるのでしょうか。

会社の悪口をネットに書き込む権利は?

有給とは別に長期休暇を取る権利は?

人間工学に基づくオフィス家具を要求する権利は?

嫌いな同僚と一定の距離を取る事ができる権利は?

この在宅勤務権について考える事は、これまで、「当たり前のように、そんな権利はない」と思われてきたものを、考え直すきっかけにはなるかもしれません。

ちなみに、もうお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、「勤務場所」についての権利はともかく、「転勤をしなくて良い権利」に関しては、日本でも労働者の権利として認められる事があります。

理由さえ整えば、限定的ではあるかもしれませんが、意外と「在宅勤務権」という概念は日本でも身近なものになっていくのかもしれません。