「ダブルバインド」という用語をご存じでしょうか。
最近、若手から聞いて知ったのですが、矛盾した内容が含まれる指示を受けた時に、その指示の事を、「ダブルバインドの指示」と表現する事があるようです。
なかなか便利な表現だな、と思ったので、この表現をご紹介させて頂くと共に、「そのような指示がなぜ起きるのか?」や「ダブルバインドの指示を受けた場合、どう対応すれば良いのか?」といった点について、書かせて頂こうと思います。
ダブルバインドという用語は海外でも普通に使われており、「二重拘束」「板挟み」「ジレンマ」といった意味があります。
ですから、矛盾した内容の含まれる指示を、「ダブルバインドの指示」と表現する事は、自然な表現といえます。
では、どのような指示がダブルバインドの指示と言えるのでしょうか。
調べてみたところ、例えば、以下のような指示が同時に含まれている場合、そのような指示が「ダブルバインドの指示」となるようです。
・「上司にはマメに報告しろ」と「自分で判断して仕事を進めろ」
・「改善点を積極的に提案しろ」と「部下は言われた通りに仕事をすれば良い」
・「他の部署と相談しながら仕事を進めろ」と「他の部署に情報は流すな」
などなど。
確かに、どの指示も、ちょっと問題を抱えている気はしますね。
ただし、昔から、このような指示は良くあり、皆、苦労しながら対応してきた気はします。
では、なぜ、このような指示がでるのでしょうか。
大きく、3つの原因があると考えられます。
1つ目の原因としては、指示を出す本人が、前に出した指示の事を忘れているケース(以前に出した指示と矛盾すると認識できていない場合も含む)。
この場合は、完全に指示を出した側が悪いですね。
しかし、現実には、「A社とは取引禁止だ」と部下に通達した上司が、後日、部下に対して、「なぜ、有望な取引先候補のA社を攻めないんだ」と怒るような事は良くあります。
部下からすれば、たまったものではありませんが、酷い場合だと、部下がそれを指摘しても、「俺はそんな事は言っていない」などと開き直られる光景も目にします。
これは、部下の側からは、ほとんど対応方法はありません(強いて言えば、以前の指示が無効になっていないかどうかを、定期的に確認するくらいですね)。
2つ目の理由として、「問題あると理解しているが、そのまま指示をしている」というケース。
例えば、「広告は強化するが、宣伝費は下げろ」や「営業の社員数は減らすが、売上は上げろ」など。
ただ、このような指示が問題かどうかは、ケースバイケースです。
冷静にお読みになっている方には解って頂けると思いますが、このような指示は「難易度は高いものの、不可能ではない」と言える指示だからです。
そして、このような指示を全てダメとしてしまうと、逆に、部下の側からの「簡単な仕事しか振られない」といったクレームに繋がるケースすらあります。
ですから、このようなダブルバインドの指示を受けた場合には、「やりがいのある仕事を任せて貰えた」と前向きに対応する事をお勧めします。
最後の理由としては、「前提が隠されている」というケースがあります。
この場合、指示が言葉足らずなのは確かですが、上司の側では、自分の出した指示はダブルバインドになっていません。
例えば、冒頭でもご紹介した、
・「上司にはマメに報告しろ」と「自分で判断して仕事を進めろ」
という、一見、矛盾している二つの指示は、実は、矛盾はしていないケースがあります。
例えば、
・「100万円以上の損害が出る可能性がある案件については、上司にはマメに報告しろ」と「100万円未満の損害で済むような案件であれば、自分で判断して仕事を進めろ」
であれば、全く矛盾はしませんよね。
さすがに、ここまで解りやすいケースはあまりないでしょうが、一見、ダブルバインドの指示に思えるケースの多くでは、このような「上司が考えている前提を正しく理解すれば、実はダブルバインドの指示ではない」というケースが多いのです。
ですから、このような指示を受けた場合、部下の側では、「隠れた前提」を明らかにする努力をするべきです。
それがはっきりしない限りは、指示を出した側の期待に応える仕事をする事は難しいですからね。
ちなみに、そのような「隠れた前提」が解るようになると、上司の立場の事も良く理解出来るようになります。
そして、そのような能力が高くなると、本人の高い評価に繋がり、結果、昇進にも繋がっていく事が良くあります。
そのような「面倒な事」を嫌がる若手が多い事は理解していますが、一つのゲームだと思って、前向きに取り組んでみる事をお勧めします。
以上、様々な現場を見てきた経験から、ダブルバインドの指示の原因と対応について、まとめてみました。
若手の方には、上司からの指示への対応として、上司側の立場の方には、より良い指示を部下にする為の参考にして頂ければ、と思います。