経営に関わる方々に対して、
「株主には、その会社の取締役を選ぶ権利がある」
という話をさせて頂くと、
「その通りだね」
と、素直に同意される方と、
「一応はね」
と、微妙な顔をされる方に分かれます。
前者は、法律上の原則を頭に浮かべる方。
または、未上場企業の経営に携わっており、役員選任の株主同意を得るのに実際に苦労された経験がある方。
後者は、上場企業の経営に携わっている方や、一般的な株主の方です。
何を言っているかと申しますと、法律上、株主に取締役を選ぶ権利があるのは間違いないのですが、少なくとも、上場企業に関して言えば、株主にとって、その権利に大した価値はなかったからです。
もちろん、株主の所には、定期的に、「こういう取締役候補を会社としては推薦していますので、同意して下さいね」という通知がきて、同意を求められます。
しかし、別に同意しなくても、現実は何も変わりません(その取締役候補が取締役として選ばれます)。
なぜなら、通常、上場企業の大口株主になる事はかなり困難であり、自分が反対票を入れたとしても、他の多くの株主(特に、その会社と密接な関係を持っている株主)が賛成票を入れてしまうので、自分の入れた反対票が生きる事はないのです。
この為、反対票を入れる事には、会社や、その取締役候補個人に対して、「圧力をかける」くらいの効果しかありませんでした(会社や本人は、意外と反対票の割合については気にしているものです)。
しかし、です。
今年、この上場企業の株主にとっての「常識」が大きく変わる事件がありました。
それが、「フューチャーベンチャーキャピタル(FVC)」という会社の今年の株主総会でした。
フューチャーベンチャーキャピタルは、れっきとした上場企業です(業種は少し特殊で、いわゆるベンチャー企業への投資を目的としている会社です)。
このフューチャーベンチャーキャピタルの株主総会で、「会社側が用意していた取締役候補が全て認められず、逆に、個人株主側が株主提案した取締役が選任される」という事件が発生したのです。
法律上は、このような事は当然に想定されている訳ですが、長年、上場企業の実務を見てきた立場としては、衝撃でした。
この件を主導したのは、「金武偉(以下、金氏)」という個人株主であったと報じられています。
では、なぜ、金氏は、これまでの常識を覆し、会社側の取締役候補を落選させる事が出来たのでしょうか。
気になって調べてみた所、その鍵は「行動力」と「インターネット活動(SNSなど)」にあったようです。
この金氏、会社の取締役候補についての提案に反対する事を決めると、自ら、他の株主に通知を送り、また、他の株主に会いにも行ったのだそうです。
そして、「自分の主張」や「自分が行動している内容」について、インターネット上で公開を続けたのだとか。
その結果、インターネット上で他の株主とつながり、巨大な株主グループを形成する事で、自分達の株主提案を通してしまったようなのです。
もちろん、今回の事件が成立したのは、他の株主が金氏に同意したからであり、同意を得られなければ、今回の事件は成立しなかった事でしょう。
しかし、このような事が実現可能であると解った以上、今後、他の企業の株主でも真似をする人は出てくる事でしょう。
今後は、個人株主であっても、株主としての権利を行使する前に、株主同士で意見をすり合わせたりするような動きが普通になっていくのかもしれません。
上場企業の経営関係者の皆さまには、今回の事件を踏まえ、株主との関係をチェックする事をお勧めします。
そして、もし、一部の株主が会社側の提案を拒否しようとした場合に、他の株主が、それに乗らないような関係が築けていないようであれば、今まで以上に、株主(個人株主を含む)とのコミュニケーションを密にされる事をお勧めします。
そうでなければ、貴方の会社の株主総会でも株主提案が通り、結果、貴方の会社が、第二・第三のフューチャーベンチャーキャピタルとして報道される日は遠くないかもしれません。