ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

2列乗りは当たり前?エスカレーターのマナー啓蒙ポスターへの反論

エスカレーターの2列乗りに関するポスターの一部


このエスカレーターの利用マナーについての啓蒙ポスターをご覧になった方もいらっしゃると思います。

しかし、このポスターの乗り方には違和感を感じてしまいます。

この為、この場をお借りして、このポスターに反論してみたいと思います。

問題にしたいポスターについて

問題にしたいのは、冒頭のエスカレーターに乗っているイラストについてです。

※ポスターの全体イメージを確認されたい方は、以下からお願いします。 https://www.jreast.co.jp/anzen_onegai/pdf/poster_onegai03.pdf

調べてみたところ、このポスターは、全国の鉄道事業者などが共同でエスカレーターの安全利用を呼びかけているもので、「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンの一環なのだそうです。

目的は、言うまでも無く、「すべての利用者が安心して利用できる環境の醸成」とのこと。

もちろん、目的には何の異存もありません。

しかし、厳しい言い方をすれば、私には、このポスターが「弱者切り捨て」にすら感じられるのです。

ポスターの絵が示すもの

改めて、ポスターの絵を見て頂きたいと思います。

エスカレーターの2列乗りに関するポスターの一部

男女が左右に並び、下から上まで均等に、そして、かなり密着してエスカレーターに載っています。

効率的にエスカレーターのスペースが使われており、輸送効率を重視する事業者であれば、「こうした乗り方を利用者にして欲しい」と考えていてもおかしくありません。

しかし、このような乗り方、私は危険だと思うのです。

皆さまは、お感じになりませんでしたか?

2列で綺麗に整列してエスカレーターに乗る問題点

私が、この絵をみて、すぐに感じた問題点。

それは、

この中の誰かが、足を痛めていたら、どうするのだろうか

という事です。

イラストでは若い男女ですが、お年寄りなどでも同様の事が言えます。

エスカレーターの板は、非常停止をしない限り、等速で動き続けます。

そして、多くの場合、エスカレーターを降りてすぐのスペースには、逃げ場がありません。

これは、基本的に、エスカレーターの板が動く速度と同じか、それ以上の速度で、エスカレーターから降りた人が歩いていける前提になっているからであるはずなのです。

ですが、足を痛めている人や、お年寄りの仲には、そんなに早く歩けない人もいるでしょう。

もし、エスカレーターから降りた人が、その場からスムーズに移動できない場合、後ろから降りてきた人は、その人にぶつかってしまう事があるはずなのです。

そして、さらに、その後ろの人も降りられず…と、ドミノ倒しのような現象が発生し、大事故になる事すら予想されます。

なぜ、エスカレーターから降りられない大事故は防げているか

実際、お年寄りで、エスカレーターから降りた場所からしばらく動けなくなってしまった人を見た事があります(持病をお持ちだったのかもしれません)。

また、降りた場所で立ち止まってスマホを触りだした迷惑な人を見た事もあります。

その時、なぜ、事故が起きなかったか。

エスカレーターを降りた場所が完全には塞がっていなかったからです。

たまたまかもしれませんが、エスカレーターから降りてきたのは、みな、エスカレーターの左側に立っていた利用者でした。

マナー違反かどうかはともかく、エスカレーターの右側は、みな、歩く人の為に空けていました。

結果、エスカレーターを降りた場所の左側は塞がれてしまっていたものの、右側は空いていたのです。

ですから、皆、エスカレーターを降りる直前で右側に迂回し、事なきを得ていたのです。

これが、もし、皆が左右に乗っていたら、そして、前後の間隔もあまり取らず、密集して乗っていたら…と思うと、ぞっとします。

そして、冒頭で取り上げたポスターの状態こそ、まさしく、その状態だと思うのです。

効率化だけを求めすぎる危険性

この問題は、実は、業務の効率化においても、同じような落とし穴となります。

エスカレーターを効率的に利用して欲しいと願う人がいるのと同じように、経営においても、業務の効率化を求めるニーズには強いものがあります。

しかし、効率化を追求する場合、同時に、「なにか想定外の事があった場合に、どうやって対応するのか」という検討は欠かせません。

そして、その為には、一見、無駄に見える「あそび」のようなものを残しておく事になります。

そうした配慮のない効率化は、一見、最適なものに見えますが、いつか破綻します。

今回のポスターが訴えかけたいポイントが、この記事で指摘しているポイントと少しずれている事は承知しています。

しかし、今回のポスターは「すべての利用者が安心して利用できる環境」に関わるものだそうです。

であれば、少なくとも、ポスターに関わった誰かが、「こんなに密接してエスカレーターに乗る必要があるのであれば、私はまわりに迷惑をかけてしまう・怖くて乗れない」と感じる弱者のことを考えられなかったのかな、とは思ってしまいます。

誤解がないように明記しますが、左側の手すりに掴まれない人が存在する事も私は知っています。ですから、左側だけに立つというマナーが正しいと言っている訳ではありません。

ただ、酷いところでは、「左右並んで」「前との間隔をあけずに」と指導されながら、エスカレーターに乗らされた事もあります。

ぜひ、効率化一辺倒の利用をマナーとして押しつけることには、違和感を持って頂きたいと思います。


なお、本題から外れるので省略しようかとも思ったのですが、あまりに気になったので、もう一言。

そもそも、このポスターの一番前に立っている男女を見ると、二人並んでエスカレーターの同じ板に乗っていますが、二人の間にはキャリーバックが置かれています。おまけに、男性も手持ち鞄を女性の側に持っています。

エスカレーターの2列乗りに関するポスターの一部

私の感覚だと、エスカレーターの板には、そんなにスペースはない気がします。

そして、それほどエスカレーターの板に余裕があるのであれば、空いている片側を駆け上がったり(駆け下りたり)する人がいても、立っている人にはぶつからない気すらしてきます。

ポスター作成者からは、「そういった意図で作っていない」と反論されるでしょうが、デリケートな問題を指摘している訳ですから、もう少し、気を遣って欲しかった気はします。