雑談ベースで、
「もう、新型コロナを特別扱いしなくても良いのではないか?」
という話題が出る事があります。
今日は、この問題をどう検討するべきなのか?という考え方について、データと共にご紹介したいと思います。
まず、このような話題が出た際に、良く耳にする意見としては、
「海外では、既に、厳しい新型コロナ対策は終了しているのだから、日本でも、それに揃えれば良い」
というものがあります。
しかし、そのような理屈による検討は、あまりお勧め出来ません。
なぜならば、「海外の国々の決定が正しいとは限らない」からです(その他、「日本(人)特有の事情がある」という可能性についても考慮すべきです)。
その一方、
「とにかく、病気をうつされるのが嫌だから、新型コロナの特別扱いは続けて欲しい」
というような意見を聞く事もありますが、このような理屈による検討も、また、お勧めは出来ません。
もし、そのような理屈で新型コロナの特別扱いを続ける事になると、あらゆる感染症について特別扱いをしなければならなくなってしまいます。
もし、新型コロナの特別扱いを続けるべきだとするのであれば、新型コロナに「特別に注意しなければならないという理由があってこそ」です。
では、新型コロナの特別扱いについては、何をもって判断すべきなのでしょうか。
その判断においては、「新型コロナ特有のリスク」がポイントとなるべきです。
そのリスクが「社会的に許容されるリスク」の範囲内におさまるのであれば、新型コロナを特別扱いする必要はないでしょう。
もし、そうでないのであれば、どのような特別扱いをするべきなのかは、「対策の実効性」や「メリットとデメリットの比較」で決める事になるにしても、新型コロナの特別扱いについては肯定される事になるでしょう。
では、最近の新型コロナのリスクは、今の日本において「許容されるリスク」におさまっているのでしょうか。
データが揃っており、比較対象として取り上げやすいのは、季節性のインフルエンザでしょう。
厚生労働省のデータによると、60歳未満の罹患者に限定した場合、オミクロン株の重症化率は0.03%、致死率は0.01%となっています。
実は、この割合は、季節性のインフルエンザと大きく変わりません。
ですから、このデータだけをもとにして判断するのであれば、「もはや、新型コロナを特別扱いする必要はない」と言えます(なお、デルタ株の同重症化率は0.56%、同致死率は0.08%でした)。
もし、新型コロナを特別扱いするのであれば、季節性のインフルエンザも同様の特別扱いをしないといけなくなってしまいます。
しかし、です。
60歳以上の罹患者のデータを確認すると、状況は変わります。
同じ厚生労働省のデータによると、60歳以上の罹患者に限った場合、オミクロン株であっても、重症化率は2.49%、致死率は1.99%に跳ね上がります。
もちろん、この割合は、季節性のインフルエンザの数倍に相当します。
ですから、このデータをもとに単純に考えるのであれば、
・60歳未満の対象者→季節性インフルエンザと同じくらいのリスクだから、新型コロナを特別扱いする必要はない
・60歳以上の対象者→季節性インフルエンザよりも数倍リスクが大きいので、そのリスクを許容するかどうかを検討する必要がある
という考え方が妥当となります。
とは言え、もちろん、このように単純に考えて終わりに出来る訳ではありません。
「60歳未満の人」が「60歳以上の人」にうつす可能性が十分にあるからです。
ですから、その点を踏まえると、
「60歳以上の罹患者の新型コロナのリスクが許容出来ないものであると考えるのであれば、社会全体で、新型コロナを特別扱いせざるを得ない」
という考え方が妥当になるのでしょう。
または、「感染している可能性がある60歳未満の人から、60歳以上の人に感染させない仕組みを構築する」という方向性も、考え方としてはあり得ます。
少しまとめると、結局、新型コロナの特別扱いの是非についての検討というのは、
<選択肢①>60歳以上の人にとっては季節性インフルエンザの数倍のリスクがあっても、それは許容しなければならないリスクであると考え、新型コロナを特別扱いしない
<選択肢②>60歳以上の人にとっては季節性インフルエンザの数倍のリスクがある為、社会全体で新型コロナを特別扱いする
のどちらかの方針でいくのか?を考える、という事になろうかと思います。
そして、選択肢②のオプション(派生)として、
<選択肢②’>60歳以上の人にとっては季節性インフルエンザの数倍のリスクがある為、社会全体で新型コロナを特別扱いするが、60歳未満の人が60歳以上の人に感染させるリスクを制御する事で、一部の人については新型コロナを特別扱いしない
といった方針も採用が可能となるはずなのです(なかなか難しいとは思いますが)。
さて、理屈としては、このようになるのですが、皆さまは、60歳以上の重症化率・死亡率をご覧になって、どのようにお感じでしょうか。
「重症化率 2.49%」「致死率 1.19%」という数字は、数字だけを見れば、小さい数字にも見えます。
ただ、これが感染しづらい病気ならば別なのですが、現実の感染者数を見ると、自分の親しい人が感染するリスクが十分にある感染症であると考えざるを得ません。
なにせ、東京の感染者数2.5万人(1日あたり)が30日続いただけで、単純計算で東京の人口の5%は感染する事になるのですから。
自分の親しい60代以上の100人が感染した場合、確率としては、そのうち1人以上が死ぬ現実。
なかなかに重い現実ではないでしょうか。
また、データが十分に揃わなかった為に上記の検討からは除外しましたが、実際には、新型コロナには、後遺症という問題もあります。
そして、この後遺症によって、若い方でも社会復帰できない人が生まれていると聞きます。
この問題を加えて考えると、もう少し新型コロナのリスクは大きいと考える事になるのでしょう。
もちろん、新型コロナの特別扱いを続ける事で苦しむ人がいる事も解ってはいます。
経済の為に一定のリスクを負わなければいけない事も、もちろん、理解は出来ます。
しかし、個人的には、「それくらいのリスクは、経済の為には仕方ないね」と軽々しくは言えないですし、また、そのような事が軽々しく語られる国であって欲しくないようにも思います。
だからこそ、「海外が○○だから」といった理由ではなく、リスクをしっかりと検討した上で、新型コロナの特別扱いを続けるべきなのか、止めるべきなのか、という事が決まって欲しいと願います。
※データは、厚労省の資料「新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの重症化率等について」より。なお、本資料上、オミクロン株の致死率については過小である可能性が注記されています。また、同様に、重症化の定義が新型コロナと季節性インフルエンザで異なる点についても注記されています。https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000964409.pdf
※本稿は「新型コロナウイルスを特別扱いするべきなのか」という点についてのみ扱っており、「行動制限の内容(効果)」や「医療の逼迫」などのテーマについては触れておりません。