ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

自治体のデータが消失!12月に起きたクラウド障害から学ぶべきこと

クラウドのシステムが障害を起こした事例のイメージ

関係者以外ではあまり話題になっていないようですが、先日、「多くの自治体が使っているシステムが一斉に停止する」という事故がありました。

そして、それだけではなく、「そのシステムで扱っていたデータの一部が消失し、復旧出来ない見込み」である事も判明しました。今後、一般市民の生活に影響が出るような事態に発展していく可能性も否定出来ません。

これは、「クラウドシステムの障害」によるものでしたが、この「クラウドシステム」、広く使われている割には、あまり知識が無い方も多いようですので、今回の事件について簡単に紹介させて頂き、最後には、一般の方にも注意して頂きたい内容を書き添える事にしました。

今回のクラウド障害のニュースの中身

最初に、今回発生した事故について、簡単に。

障害を起こしたのは、NTTデータ系列の日本電子計算(株)という会社が自治体向けに2011年から提供している「Jip-Base」というシステム。

2019年12月4日午前に障害が発生し、このシステムを活用している多くの自治体で影響が出ました。

障害の事例として公表されているだけでも、以下のような幅広い業務に影響が出ています。

・ホームページの閲覧、更新
・戸籍証明書の発行、戸籍の届出
・後期齢者医療保険関連手続き、障がい者福祉関連手続き
・ファイルサーバー
・電子申請、電子入札
・財務会計
・図書館
など

原因は、データを保存する機械のトラブル。12月16日時点で確認できる情報では、サービスは70%までしか回復していません(仮想OS単位での割合)。そして、15%はデータ復旧が出来る見込みすらありません(会社側としての発表)。

かなり恐ろしい案件である事は、なんとなくでも掴んで頂けるでしょうか。

クラウド障害が発生とは、どういう事か

そもそも、「クラウド障害とは何か」という事についても、簡単に説明しておきます。

クラウドの障害とは、クラウドシステムで起きた障害です。

そして、クラウドシステムとは、一言でいえば、ネットワーク上で繋がっていて、利用者からは明確に理解出来ない先にあるコンピュータシステムの事です。

昔は、「コンピュータシステムを使う」と言えば、目の前にあるパソコンや、せいぜい、会社が契約している大きなコンピュータに繋いで利用する事でした。

しかし、クラウドシステムの利用においては、厳密には、「今、自分が使っているシステムが、どこにあるのか」という事すら良く解らずに使っている事になります。

そして、その良く解らない所にあるシステムが壊れる事が「クラウド障害」という事になります。

なぜクラウドでデータ損失は起きるのか

コンピュータシステムに障害(故障)は付き物です。

ですから、クラウドシステムにおいても、障害(故障)は珍しくありません。

ただし、クラウドシステムと、従来のシステムでは、大きく異なる点があります。

それは、そのシステムの故障時に備えた対応を、ユーザーが取りづらい(または、取らなければならない、という意識を持ちにくい)という事です。

これが、クラウド障害による被害を拡大させ、また、対応を複雑にしています。

通常のパソコンやサーバーを利用している場合、その機械が壊れた場合に備えて、定期的にバックアップを取る事は常識です。

会社でシステムを利用しているのであれば、然るべき部署が、そういった教育をしたり、自動でバックアップを取る運用をしているはずです

しかし、クラウドシステムは、ユーザーにとって「良く解らない所」「良く解らない仕組み」でシステムが動いている為、そういった意識が働きづらいのです。また、ユーザー自身でバックアップを取る仕組み自体が用意されていない事すらあります。

クラウド特有の障害を防ぐ為の注意点

当社でもクラウドサービスを調査した事がありますが、実は、「障害復旧の為のバックアップを、クラウドサービスの提供者側では取らない」としているサービスすらあります。

※複雑になりますので、事情を書くのは避けますが、一定の理由から、そのような運用をしているサービスもあるのです。

ですから、単に「クラウド」というだけで解った気になるのではなく、「トラブルがあった場合に、どういう事になるのか」という事は、ユーザー側でしっかりと理解して利用すべきなのです。

以前の大企業のシステムの現場であれば、当然のように行われていた、「機械が壊れた場合に、どう対応するのか」といった検討(出来れば、定期的な予行演習も)をしておけば良いだけなのですが、こうした事を、「クラウドシステムを利用する」となった瞬間に、「やらなくても良い」と思い込んでしまう現場が少なくないようです。

そういった部分まで外部に任せた気になってしまうのでしょうが、それは、残念ながら甘いと言えるでしょう。

今回の障害に当てはめれば、まず、サービスを提供していた日本電子計算に非があった事は間違いないでしょう。

しかし、最終的な顧客(今回の障害事例では、顧客は一般の市民)に対してサービスを提供する責任を負っているのは、地方自治体な訳ですから、利用先のサービスに何らかの問題が発生した時の事を考えておく責任は、地方自治体にもあったはずだと考えられます。

一般ユーザーでも知らずに使っているクラウド

さて、ここまでは、「業務で使うシステム」を意識して説明をしてきました。

しかし、実は、クラウドを使っているのは、会社や公共団体ばかりではありません。

今や、多くの人がクラウドを使っています。

ワードやエクセルで「OneDriveに保存」、アップルの機器で「iCloudに保存」、「Googleドライブ」。こういった利用を行った場合、これらは全て、クラウド上にデータを保存しています。

また、ソフトウェアやゲームなどの一部は、自動的にクラウド上にデータが保管されるようになっています。

ですから、ここで書いた事は、一般のユーザーにも無関係ではないのです。

ユーザー側では何も対策が取れないサービスもありますが、多くのサービスは、何らかのかたちでのバックアップは可能でしょう。

今回の障害を機に、「利用しているクラウドのデータが消えても自分は大丈夫だろうか」と考え、できる対策を実行するようにして頂ければ、と思います。