B Corp(Bコーポ)という制度をご存じでしょうか。
海外では、公益を重視した経営を行っている企業が「自社はB Corpである」と表明している事があります。
また、自社の商品タグなどにB Corpのロゴを入れている企業も存在します。
このB Corpについて、以前から知ってはいたのですが、正直、日本での普及については懐疑的でした。
しかし、このB Corpに関するガイドブックが日本でも出版されるという情報を聞きつけ、今後、日本でも注目度が増す可能性があるように思い、ここで紹介させて頂く事にしました。
では、このB Corpとは、どのようなものなのか。
B Corporation(通常、「B Corp」と略されます。また、日本では「Bコーポ」と表記される事もあります。)とは、非営利団体B Labによる会社の認証制度です。また、その認証を受けた会社の事を指す用語としても使われます。
詳しくは、この後で説明しますが、「その企業が、利益だけではなく、公益の事を考えて運営されている事を認証する制度」だと理解しておいて頂ければ、大まかな理解としては大丈夫です。
なお、「B Corp」という名前から、B Corpを「会社の名前」や「会社組織の種類」と勘違いされている方もいらっしゃいますが、このB Corpは、あくまで、「外部組織による認証(certification)」の一つに過ぎません。
では、もう少し詳しく、このB Corpについて見ていきましょう。
B Corpの認証団体であるB Labは、米国ペンシルベニア州に本拠を置く非営利団体で2006年に発足しました。
Wikipedia(英語版)では、このB Corp認証について、「B Corp認証とは、社会と環境のパフォーマンスに関する認証制度である」と説明しています。
https://en.wikipedia.org/wiki/B_Corporation_(certification)
また、公式ホームページでは、「B Corp認証とは、従業員の福利厚生や企業を取り巻く生産背景などに関する要素において、高い水準の活動を行い、また、高い透明性と説明責任の基準を満たしている企業である事を認証するものである」と書かれています。
https://www.bcorporation.net/en-us/certification
これらの説明を読んで、「良く解らないな?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのように思われるのも、仕方がない事と思います。なぜならば、このB Corp、少し理解が難しいものだからです。
もう少し理解を深めて頂く為には、このB Corp認証の取得方法を知って頂くのが良いと思います。
※和訳は、全て著者による意訳であり、直訳ではありません。関係者の方で、より良い修正案をお持ちの方は、ぜひ、ご連絡下さい。
このB Corpの認証を受ける為には、以下のような手順が必要となります。
①オンラインでテストのようなものを受ける(オンラインアセスメント)。
②オンラインアセスメントで必要な点数を獲得した企業は、次の審査プロセスを申し込む。
③インタビューが行われ、証拠となる書類の提出なども行う。
④基準を満たしていると判断された場合には、契約書に署名する。
⑤認証完了(ただし、3年ごとの更新制度あり)。
※このアセスメントの事を、B Labは「Bインパクトアセスメント(B Impact Assessment)」と呼んでいます。
そして、このアセスメントでは、「企業統治」「従業員」「コミュニティ」「環境」「顧客」といった分野で多くの質問に答える(=B Corp認証が求める基準をクリアする)必要があります。
アセスメントのサンプル問題も公開されているのですが、
「生産過程で出た有害な廃棄物をどのように管理していますか?」
といった、公益に繋がる事がイメージしやすい質問の他に、
「創業者・役員を除くフルタイム従業員が、会社の何%を所有していますか?」
「経営陣のうち、社会的地位の低いグループから登用されている割合は何%ですか?」
といった質問も含まれます。
これらの質問を確認して頂くと、なんとなくでも、このB Corpの認証の中身が見えてくるのではないでしょうか。
日本で企業が受ける認証というと、「何か具体的な基準をクリアしている事を第三者が認める」といった制度をイメージされる方が多いように思います。
しかし、そのようなイメージでB Corpの認証を考えてしまうと、B Corpの理解は難しいように思います。
このB Corpという認証は、「社会的に模範と言われるような企業は、どのような企業であるのか?」という事を認証団体側が検討し、その上で、「そのような企業に近づくような活動をしている企業かどうか?」という事を認証団体が認証する制度である、と理解して頂いた方が、正確な理解に近づけるように思います。
ちなみに、このアセスメントを終了する為には、最低でも数ヶ月はかかるそうです。また、その企業が所属する業界や事業規模などの要因によって、点数の調整が行われます。
さて、このB Corpですが、世界では82の国・地域で約5107社が取得しています(2022年6月時点、公式ホームページの記載より)。
海外の有名企業としては、ダノン、パタゴニア、ボディショップ、イソップなどの企業が認証を受けています。
日本でも、既にB Corp認証を受けている企業は11社あり、以下が日本でB Corp認証を取得している企業のリストです(2022年6月時点、筆者調査)。
・Silkwave Industries Co. Ltd.(2016年3月)
・Ishii Zouen Landscape Co., Ltd.(2016年3月)
・Freesia Company Limited(2016年11月)
・Nissan Tsushin Co. Ltd.(2018年1月)
・Namidabashi Lab.(2018年1月)
・Danone Japan Co.,Ltd.(2020年5月)
・Eco Ring Co., Ltd.(2021年6月)
・Redlybong(2021年12月)
・SIGMAXYZ Holdings Inc.(2022年1月)
・OSINTech Inc.(2022年3月)
・mayunowa LLC(2022年3月)
※括弧内の日付は取得日です。
今後、日本でもB Corpが有名になる事で、B Corp認証の取得を目指す企業は増えるかもしれません。
ただし、今後、日本でB Corpが有名になった場合、いくつかの誤解が生じる可能性を懸念しています。
懸念している誤解の一つは、まず、このB Corp認証が「公的なものである(法的な制度である)」といった認識が広がる事です。
実は、日本では、このB Corp認証とは別に、「公益を活動の目的とした企業に関する法制度を構築しよう」という話が出ています。
そのような制度は海外では既に存在しており、米国では、「benefit corporation」または「public-benefit corporation(PBC)」と呼ばれています。
そして、ややこしい事に、この制度の事もB Corpと略す事があるのです(文字では「B-Corp」と表記される事が多いようです)。
この為、「(法的な)公益を目的とした企業の制度」と「民間団体が認証する制度(この記事で取り上げている制度)」を混合してしまう人が出てくるのではないか、と懸念しています。
また、これを読まれている方の中には、そもそも、「営利企業であっても、公益の事を考えるのは当たり前ではないか?」と考え、「なぜ、そんな事をわざわざ認証して貰う必要があるのか?」と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。
その辺りの事を理解して頂く為には、このB Corpが生まれた背景について、少し理解して頂く必要があります。
このB Corpは、アメリカで生まれました。
そして、アメリカは、「企業が存在する目的に『社会の為に活動する』といった概念を含めて良いのか?」という事が議論される国なのです(企業は株主利益の事だけを考えるべき、という考え方があります)。
ですから、「営利以外の目的は考えない」という企業と差を付ける為に、このB Corpという認証が存在している、という面があるのです。
しかし、ご存じの通り、日本では、「営利企業であっても、公益の事も考えて経営をするのが当たり前」という考え方が浸透しています。
ですから、そのような背景のある日本では、本来、B Corpの必要性をアメリカと同じようには考えられないようにも思います。
そして、そのような日本で、わざわざB Corp認証を取得した企業は、制度で定められた基準以上に、「公益の為に存在している企業である」と誤解されてしまう危険性があるのではないか、とも懸念しています。
最後に、このB Corp認証を受けるメリットについても触れておきましょう。
海外の事例を見ると、顧客獲得や採用活動の成功に結びつけたり、資金調達面での優遇が得られる事を期待してB Corp認証を取得している事が多いようです。
しかし、日本国内においては、現状、B Corp認証について、それほど知名度がある訳ではありません。
ですから、国内でしか活動していない企業の場合、当面、B Corp認証を得るメリットは小さいと予想されます。
ただし、海外との関係がある国内企業、例えば、
・海外から人を雇用したい企業
・海外が関係する資金調達を行う企業
などにとっては、B Corp認証を得るメリットは大きい可能性があります。
もちろん、今後の国内でのB Corpの普及や評価によっては、日本企業がB Corpに大注目するようになる可能性も十分にある事でしょう。
もともと、海外では一定の知名度のある認証ですから、取引先が取得し始めるようになると、国内でも取得が一気に進むかもしれません。
以上、駆け足とはなりましたが、B Corpについて紹介させて頂きました。