ビジネスコンサルティングの現場から

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デジタルプロダクトパスポートとは?モノにもパスポートが必要に!

デジタルプロダクトパスポート Digital Product Passport(DPP) デジタル製品パスポート

今後、パスポートがないと、モノも国境を越えられない時代が来るようです。

この話を最初に耳にした時は衝撃でした。

「人にパスポート」は解りますが、「モノにパスポート」ですからね。


しかし、この「モノのパスポート」、実際に検討が進められている制度なのです。

まだ具体的に制度がリリースされている訳ではないので、用語や日本語訳も統一したものが確立されていませんが、この制度は、

・デジタルプロダクトパスポート(Digital Product Passport(DPP))
・プロダクトパスポート(Product Passport)
・デジタル製品パスポート(デジタルプロダクトパスポートという用語の一部を日本語にしたもの)
・製品パスポート(プロダクトパスポートという用語の一部を日本語にしたもの)

などと呼ばれています(現状、これらの用語で呼ばれている制度は、同じものだと考えて頂いて大丈夫です)。

※この記事では、デジタルプロダクトパスポートという用語で説明を続けます。


デジタルプロダクトパスポートが表面的に持つ意味合いは、人が持つパスポートと基本的には同じです。

すなわち、「適切なパスポートがないと、そのモノは国境を越えられない(入国審査で入国を拒否されてしまう)」という事です。

もっとも、人のパスポートのように、冊子形式のパスポートがモノにも与えられる訳ではありません。

あくまで、各製品(個体)にコードが振られ、そのコードを使って、そのモノの様々な情報が確認できるようになる、という仕組みです。

その制度の事をデジタルプロダクトパスポートと呼んでいる訳です。

各製品にはQRコードなどが貼り付けられ、それを用いる事で、その製品のコードが解るようになる予定です。


では、なぜ、今、「モノのパスポート」の導入が検討されているのでしょうか。

そこには、「トレーサビリティの重要性が増している」という事情があります。

トレーサビリティというのは、「その製品が、どのような原料から作られ、どのような過程で完成品になり、現在に至るのか」という事を把握する、という概念です。

日本では、食品(特に食用肉)の安全性に関する不安を払拭する為の制度としてトレーサビリティは普及しました。

例えば、レストランの一部では、使っている肉の個体情報が貼り出されています。

その情報を使って調べると、その肉の過去の情報(どこで生まれ、どこで育てられ…という情報)を確認する事が出来ます。

それと同じような情報が、入国審査の際に、モノでも必要になる、という事なのです。


では、なぜ、モノのトレーサビリティの重要性が増しているのか。

必要性として良く挙げられているのが、「環境規制への対応」です。

ご存じの通り、現在、世界中でCO2排出の削減などに関する規制が進んでいます。

そして、「規制に合致した生産がされていない製品は、国内で販売できないようにする」という事を実現させようとする動きがあります。

そのような規制を行う為には、そのモノが、どのような過程で現在に至っているのかを把握する必要があります。

ですから、そのモノのトレーサビリティが重要になる訳です。

そして、それを証明する為に必要となるのが、デジタルプロダクトパスポートという事になるのです。


また、サーキュラーエコノミーへの対応においても、デジタルプロダクトパスポートは重要である、と言われています。

サーキュラーエコノミー(Circular Economy(CE))というのは、日本語では「循環型経済」などと訳されます。

詳しい説明は省略しますが、これまでのような「資源を使って作り、捨てる」という単純な生産・消費活動ではなく、「使った後、また、資源を再利用する事で、資源を循環させる」という考え方です。

ちなみに、サーキュラーエコノミーの対義語(=単純な消費型)は、リネアエコノミー(Linear Economy)となります。

そして、サーキュラーエコノミーを実現させる為には、そのモノが、「どのような原料で作られているのか」や「どのようにすれば、資源を再利用する事ができるのか」といった情報を、リサイクルに関わる事業者が簡単に把握できなければなりません。

その為に、デジタルプロダクトパスポートが活用できると期待されている訳です。

デジタルプロダクトパスポートによって、その製品の細かい情報が確認出来れば、その情報を参考に、資源の再利用を進める事が出来ますからね。


ただし、モノの生産・流通に関わる企業にとって、このデジタルプロダクトパスポートの導入はコストアップ要因となります。

物価高で苦しむ人が増えている中、更なるコストアップが新たな問題を引き起こさないのかどうか。心配に思っています。

また、「環境問題への対応に必要」と言われると、なかなか反論はし辛いのですが、このデジタルプロダクトパスポートが導入されると、モノの流通を制約しやすくなってしまう事も間違いありません。

各国が様々な理由をつけて、モノの流通の自由化を制約するような将来に繋がる事がないのかどうか。それも心配に思っています。

デジタルプロダクトパスポートは、早ければ2027年にも導入が予定されています。

デジタルプロダクトパスポートの導入の流れが止まる事は無いと思いますが、それまでに、弊害のない仕組みとして制度が固まり、また、日本の意見も十分に採用された制度として導入される事を願っています。