ビジネスコンサルティングの現場から

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ストアヘイリングとは?注文すると商品ではなく店が届く!

ストアヘイリング store-hailing store hailing

ストアヘイリングという仕組みをご存じでしょうか。

アメリカで話題の販売の仕組みなのですが、今、この仕組みに世界中から熱い視線が送られています。

今後の購買やデリバリーに大きなインパクトを与える事になるトピックスかもしれませんので、今日は、このストアヘイリングをご紹介させて頂きます。


まず、ストアヘイリングという仕組みについて、簡単にご紹介させて頂きます。

とはいっても、実は、仕組みを理解するのは難しくありません。

このストアヘイリングを導入している店舗にオーダーすると、商品の代わりに、店が丸ごと届けられるのです。

日本でもピンと来て頂けそうな例を挙げると(日本で導入されたケースを想像した場合の例です)、

・コンビニで買い物したいが、コンビニまで歩いて行くのが嫌なので、ストアヘイリングを導入しているコンビニに注文すると、コンビニの店舗が自宅に来る。

・店頭で本を眺めながら本を買いたいが、近くに本屋が無いので、ストアヘイリングを導入している本屋に注文すると、本屋の店舗が自宅に来る。

といったイメージとなります。

※もちろん、通常、スペースの制約がありますので、通常の店舗と同じボリュームの品揃えの店舗が自宅まで来てくれる訳ではありません。


ストアヘイリング(store hailing)という用語についてですが、hailに「(タクシーなどを)呼ぶ・拾う」という意味があります。

ですから、ストアヘイリングは、タクシーの代わりに店(ストア)を呼ぶ(ヘイリング)といった意味合いで、このような名前が付いたようです。


なお、「移動店舗(移動コンビニや移動スーパーなど)」という商売自体は、日本でも実用化されています。

この為、ストアヘイリングの表面的な意味合いだけみると、目新しく感じられない方もいらっしゃるかもしれません。

それは、その通りではあります。

このストアヘイリングが凄いのは、近年の様々な技術が活用され、また、今後も、様々な技術を組み込んでいく事で、高い将来性が期待されているところです。

その将来性について理解して頂く為には、アメリカで実際に営業されているストアヘイリングの事例を知って頂くのが良いでしょう。


では、実際にアメリカで営業されているストアヘイリングとは、どのようなものか。

その代表格は、ロサンゼルスでコンジャー(Conjure)社が運営しているアイスクリーム店です。

このアイスクリーム店でアイスを買う為には、まず、スマホから会員登録する必要があります。

そして、会員登録後にスマホからオーダーすると、様々なアイス(ブランドはBen&Jerry'sなど)が搭載された車が自宅に到着します(驚くべき事に、2分以内に到着するそうです)。

客は、アプリで到着した車のドア(運転席ではなく、商品が搭載されている所の扉)を開け、自由に商品を選ぶ事が出来ます。

そして、買いたいものを取り出して、ドアを閉めれば、それで買い物は終了です。

客が取り出した商品は自動的に把握され、会員登録した際に登録したクレジットカードで自動的に決済されます。


「ネットで注文して、自宅まで自分の欲しいものが届く」という意味では、このストアヘイリングでの注文はネットでの注文に近いと言えるでしょう。

ただし、このストアヘイリングは、

・幅広い商品を目の前で選べる

・欲しい商品は、その場で手に入る

といった、通常の店舗と同様のメリットを実現しながら、

・店まで出かけなくて良い

・オーダーすれば、比較的、すぐに到着する

・持ち帰りが楽(冷蔵・冷凍食品の場合には、溶けない・傷まないというメリットも)

といったネットのメリットも実現できてしまっており、そこが凄いのです。


もうお解りだと思いますが、このサービスには、

・客が取り出した商品を自動的に把握する仕組み(amazonの無人店舗での決済などが有名ですね)

・スマホからオーダーして貰う事によって、顧客の場所が簡単に解り、また、適切な移動ルートが自動的に計算される仕組み(様々なデリバリー系サービスで導入されていますね)

などの技術が活用されています。

そのような技術を活用する事で、一見、「移動店舗ビジネスのような仕組み」が、「ネットビジネスに近い仕組み」も兼ね備えているのです。

自分が呼んだ時に、自分だけの為に来てくれる店舗。

やはり、通常の移動販売の店舗とは、ありがたみが全く違いますよね。


そして、このビジネス、かなり省力化できる可能性を秘めているのです。

先ほどご紹介した事例では、現在、アイスを載せた車は人が運転しています。

しかし、近い将来、これは自動運転に置き換えられると予想されています。

そのような事が実現できれば、完全な無人移動店舗が実現出来ますので、顧客に店を届けるコストは一気に下がる事でしょう。

そして、通常の「顧客がオーダーした商品だけを届けるコスト」と「店自体を届けるコスト」の差が縮まるにつれ、ストアヘイリングの優位性は増していく事になるでしょう。

店が丸ごと届く事で、多めに購買してくれる客は多そうですしね。

※コンジャー社は、アイス販売の前に、菓子や日用品などを販売するサービスも行っており(当時の名前はロボマート(Robomart ))、その際の顧客のリピート率は90%だったそうです。ストアヘイリングの利便性が顧客に受け入れられている事は、このデータからも解るのではないでしょうか。


更に、将来的には、空飛ぶ車(大きめのドローンと考える事も出来ますね)の導入も考えられます。

そうなると、かなり広い範囲に、迅速に店を届ける事が出来るようになる可能性があり、その結果、マニアックな商品を扱う店舗であっても、ストアヘイリングを導入できる可能性が出てきます(広い商圏を相手にする事で、商売が成立しやすくなる)。

もし、かなり幅広いジャンルの店舗を呼べるようになると、ネットで商品を探す代わりに、「その分野の専門店をストアヘイリングする」という選択肢が当たり前のように検討される時代が来るのかもしれません。

このように考えて頂くと、このストアヘイリングが注目されている理由もお解り頂けるのではないでしょうか。


なお、私自身は、ストアヘイリングが「『富山の薬売り』の現代版になるのではないか」という視点でも注目しています。

「富山の薬売り」は、必要になるかどうか解らない薬も含めて、自宅に在庫しておく仕組みです(そして、必要になったら、その中から必要なものだけを使い、その分の料金を後で支払う仕組み)。

この仕組みは、「必要になるかどうか解らないものでも自宅においておける」「期限切れのリスクを気にしなくて良い」といった意味で、非常に優秀な仕組みです。

過去、コンビニが普及するにつれ、「近くのコンビニが自宅の冷蔵庫」と考える人を見かけるようになりましたが、この考え方も富山の薬売りに近いと言えるでしょう。

しかし、コンビニで扱っている商品以外については、そこまで便利な店舗が近くない方も多い事でしょう(特に営業時間や品揃えの面で)。

しかし、ストアヘイリングが当たり前になると、様々な商品について、「必要になるかもしれないもの」を自宅に在庫しておくのではなく、「必要な時にストアヘイリングすれば良い」という考え方をする人は出てくるように思います。

なにせ、店は直ぐに自分の所まで来てくれる訳ですから。


また、ストアヘイリングは「近くに店が無い」という地方の問題解決にも役立ちます。

様々な店舗が、ストアヘイリングで自宅まで来てくれるようになれば、そもそも、「近くに店がない」という問題が無くなる訳ですからね。

そのような視点からは、このストアヘイリングは、都会ではなく、地方でこそ普及するようにも思われます。


以上、世の中の風景を一変させるような変化の為には、まだまだ時間がかかりそうなストアヘイリングですが、将来性が期待できる仕組みである事はご理解頂けたのではないでしょうか。

このストアヘイリングが日本の社会問題解決の一端を担ってくれる事を期待して、ストアヘイリングの紹介を終わらせて頂きます。