ネットや新聞などで、
「利用量が変わっていないのに、電気代が○倍(5倍など)になった」
という電気利用者の声が取り上げられています。
この急騰、海外の電力自由化を多少なりとも知っていた身からすると、「当然、あり得た(予想できた)」ことでした。
これらの事象は、主に「新電力」と呼ばれる、電力自由化によって近年誕生した電力会社と契約していた利用者に発生しています。
そして、今回の料金急騰のせいで、新電力の「契約者が減少」や「経営が悪化」したりしていると報じられています。
しかし、もし、今回の件が原因で電力自由化が悪者にされたり、新電力の倒産・撤退が相次ぐような事になったりするならば、それは非常に残念な事であるように思います。
なぜならば、「新電力を利用する」という事と、「電気代が急騰するリスクを抱える」という事はイコールではないからです。
また、新電力には、料金面以外での存在意義もあるからです。
誤解も多いようなので、今日は海外事例を踏まえ、「電力自由化は、何が不味かったのか?」という事について書いてみたいと思います。
まず、ご存じない方の為に、今冬、日本で発生した電気代の高騰について簡単に紹介しておきましょう。
具体的には、日本卸電力取引所(JEPX)の取引価格ベースで、電気の取引価格が2021年1月にkWhあたり150円を超えました。12月頃から高騰が始まったのですが、この価格水準は、例年と比べて20倍を超えています。
※原因は、発電の原料となるLNGの生産プラントのトラブルや世界的な寒波の影響で需給バランスが変化した為と言われています。
その結果、一部の電気利用者の電気代も高騰しました。
もちろん、料金が高騰したのは、全ての電気利用者ではありません。
まず、従来からあるプランで大手電力会社(東京電力など)と契約している利用者は、電気料金の高騰を避けられています。
また、新電力と契約している利用者であっても、「市場連動型」と呼ばれる料金プランで契約している利用者以外は、高騰を避けられています。
あくまで、「市場連動型」と呼ばれるプランで契約している利用者のみが、今回の高騰の影響をダイレクトに受けているのです。
では、「市場連動型」とはなんでしょうか。
簡潔に言ってしまえば、
「電気の時価に合わせて、電気料金が変わる制度」
です。
ですから、今回のように電気の取引価格が急騰すれば、請求される電気料金にも大きな影響があります。
ちなみに、「取引価格」とは、株などの取引価格と同じようなものだと考えて下さい。
ですから、この市場連動型プランの利用を希望した人というのは、
「暴落や暴騰する可能性のある商品で、儲けたり損したりする事を望んだ人」
という事になります。
「単に電気代を下げたかっただけなのに…」とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、取引所での取引価格が下落すれば自分の払う電気料金が下がり(=得をする)、価格が上がれば電気料金が上がる(=損をする)というのは、株のような「価格が変動するものに投資」しているのと大きな差はありません。
今回は高騰ですが、もちろん、取引所の価格は暴落する事もあり得ます。
その場合は、電気料金も下がります。
ですから、「今回、大変な損が発生しても、仕方がない」とも言えます。
もちろん、そのプランに加入する際、十分な説明を受けていたかどうかは大事なところですが。
そして、このようなプランの誕生は「電力の自由化」と深い関係があります。
従来は、電力料金は強く規制されており、このようなプランは存在しなかったのです。
日本では2016年に本格的に導入された電力の自由化ですが(2000年頃から徐々に開始)、海外では先行して進んでいました。
そして、電力自由化が1990年代から進んでいたアメリカでは、過去に、今の日本と同じように「電気代金が高騰する」という事例もあったのです。
有名な所では、カリフォルニア州の電気代高騰が有名です。
当時の報道では、電気代が800%も上昇したと報じられています。
※ただし、この時は規制が残っていた関係で、一般利用者が支払う金額は大きくは上昇しませんでした。
ですから、海外の電力自由化を知っていた人は、日本でも、その程度の上昇がある事は予想出来ていたのです。
私自身も、市場連動型プランの売り込みが日本で行われ始めた時に、価格変動の制限幅が大きすぎる事に疑問を抱きました。
自分の電気代が何倍にもなる月があると、多少、安い月があったとしても割に合わないはずだからです。
ちなみに、今冬もアメリカでの取引価格は高騰しており、テキサス州では1000%以上に達していると報じられています。
さて、本来、「取引所で取引されている商品の価格変動リスクを避ける(限定的にする)」という事は、それほど難しいものではありません。
一般的な投資のリスク回避の為にも良く利用されています。
ですから、市場連動型であっても、電力会社自身がそういったリスクヘッジを組み込んで、利用者のリスクも限定したプランを販売したりする事は、決して不可能ではなかったはずなのです。
問題は、
「利用者が、価格変動のリスクを本当に理解して契約していたのか」
「利用者が許容できる範囲を超えて、電気代が変動する料金を提供して良かったのか」
といった2点に限られるのです。
そして、改めて強調しておきますが、今回の問題は、「市場連動型プラン」の問題であり、「新電力」の問題ではありません。
※ただし、新電力の中に、リスク対応面で問題があった会社がある事は否定しません。
新電力には、市場連動型プランのような自由度の高い料金体系を提供する他に、「発電方法を選んだ電気を提供する」といった存在価値もあります。
再生可能エネルギーを使いたい人の為の選択肢も提供しているのです。
ですから、今回の電気代高騰で、「新電力会社の存在自体が問題」となったり、「新電力会社の倒産・撤退が相次ぐ」といった事は、出来れば避けて欲しいところなのです。
もちろん、今回の高騰を受け、電力各社には、「適切なリスク管理がされている料金プラン」の提供をお願いしたいと思います。
そうしないと、せっかくの「電力の自由化」は完全に後退してしまいます。
その結果は、従来のような「選択肢のない(独占・寡占の)電力会社体制」の復活かもしれません。
もし、そのような事になるとすれば、新電力の利用者以外も含めた、消費者全体にとっても良い事だとは思えません。
※この記事を執筆した後、残念ながら、新電力の倒産・撤退は相次いでいます。帝国データバンクの調査によると、2021年度の新電力の倒産は過去最多の14件となりました(前年度の2020年度は2件)。また、過去1年間に電力小売事業から撤退した事業者を含めると31社となります。(2022/6/13追記)