ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

観光立国に暗雲?コロナ渦で営業再開できない店が抱える事情とは

コロナ 営業再開

首都圏では、久しぶりに緊急事態宣言が全面解除されました。

しかし、緊急事態宣言が解除された後も、

当面、営業を再開しない

という決定をした店舗が少なくないようです。

気になって理由をヒアリングしてみた所、営業を再開しない理由には、いくつかのパターンがある事が解りました。

そして、その理由の中には、

日本の観光立国としての将来が危うくなるのではないか

と危惧してしまうような理由が含まれているようなのです。


休業を継続している店舗がある理由についてですが、まず、

「店を開けても、まだ人が来ないだろう(閉めていた方が、収益的にプラス)」

という判断をしているケースがありました。

これは、予想ができた理由です。

また、少数ではありましたが、

「感染している客が来て、コロナをうつされるのが怖い」

といった理由で店を開けない事を決めたお店もありました。

これも、想定できた理由だと言えるでしょう。

これらの理由による休業継続であれば、新型コロナの状況さえ改善すれば、元の営業状態に戻る事が期待できると思います。

しかし、これらの理由とは異なり、「もう元の営業状態には戻らないのではないか?」と思ってしまうような、もう一つの「休業を継続している理由」があったのです。

それが、

従業員が集まらないから、店を開けられない

という理由による、休業継続の決定でした。


もちろん、急に従業員を呼び戻すのは難しい事でしょう。

ですから、そういった事情によるものであれば、問題はないでしょう。

しかし、この話、そんな簡単な話ではなく、

「長く勤務してくれていた従業員が戻ってきてくれる目処がたたない」

「新規に採用しようとしても、以前のように人が集まらない」

といった問題であるようなのです。

もう少し具体的に言うと、これまで長年、接客に関わる仕事をしてきた人材に声をかけても、

もう、接客を伴う業界で働く事を止めた

という反応が返ってくるケースが少なくないようなのです。

これまで長年、接客業で働いてきた人材ですから、接客業が嫌いであったり、接客に向いていない訳ではないのでしょう。

しかし、そのような人材であっても、今回のコロナ渦をきっかけに、「接客を伴う仕事には戻らない」という選択をしてしまったケースが少なくないようなのです。

結果、営業を再開しようとしても、店舗を再開する上で必要となる「人材」を揃える事が以前よりも難しい状況が発生しているようなのです。

ちなみに、転職先を聞いた所、

・警備員や工事現場などの現場作業

・運送業(フードデリバリーなど)

・在宅で仕事を請け負うワーカー

などの答えが返ってくるそうです。

そして、接客を伴う仕事に戻らない理由を聞いた所、広い意味での「待遇の違い」が理由として挙がるそうです。

例えば、今の仕事の方が、「拘束時間が短い」「夜間に働けるので昼間が自由になる」「好きな曜日(特に土日)を休みやすい」など。

単純な給与面の問題もあるようですが、それだけでは無いようです。


さて、日本において、職業選択は自由であるべきです。

ですから、人手不足で営業が再開できないオーナーには申し訳ありませんが、接客業に戻りたくない人の希望も尊重されるべきです。

しかし、単純にそれで終わりと出来ないように思うのが、「観光立国の実現を目指す」という日本国の方針との整合性についてです。

実は、日本は平成18年には観光立国推進基本法を成立させ、観光立国の実現を国家戦略として位置付けています(観光庁の資料より)。

そして、その目標を実現させる為には、「高い接客スキルを持った人材が必要になる」と考えている人は少なくありません。

もし、それが正しいのだとすれば、接客業の人材層が薄くなる事は、この「観光立国を実現させる」という事の実現にも影響があるように思うのです。

未だ統計などの数字で出ている訳ではないので、「接客業から人が離れている」という動きが、どのくらいの規模で発生しているのかは確認できていません。

しかし、人材を育成するのには時間がかかります。

接客に関わる業界の皆さまには、こういった動きがある事を真剣に認識して頂き、単に「人が集まらず、困った」という感想を持つだけで終わる事なく、将来の人材確保の為の分析や対策に着手し始めて頂きたい所です。

「接客業の魅力を発信する」といった事も必要でしょうし、これまでの労働環境に問題があったのであれば、それを是正し、「働きやすい(待遇の良い)職場にしていく」といった活動も必要になるのかもしれません。

そういった活動が実を結び、海外から高い評価を受けてきた「日本の『おもてなし』の水準」が今後も維持される事を願って、この記事を締めたいと思います。