ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

GEが失敗したIoT事業を日立は成功させられるのか?日立の将来は?

日立 IoT

「IoT(Internet of Things)」をご存じでしょうか。

最近、用語として耳にする機会は減ったような気もしますが、それはDXとして発表される機会が増えただけの事でしょう。

IoTの重要性・注目度が下がった訳ではありません。

簡単に言えば、IoTとは「モノ一つ一つがインターネットに繋がり、情報をやり取りする」という概念です。

昔から、「家電がインターネットに繋がる」といった例が説明に良く使われます。

また、「ネットに繋がった車(コネクテッドカー)」や「ネットに繋がった自動販売機」などもIoTの技術を活用したものであり、既に実用化されています。

私が、このIoTに本格的に注目する事になったきっかけは、米GE社(ゼネラル・エレクトリック)のIoT事業でした。

GEはアメリカの大手電気メーカーとして知られ、家庭用電化製品から航空機のエンジンまで、様々な分野で大きなシェアを獲得していました(一時期は金融なども大規模に手がけていました)。

そのGEが、2015年頃にIoT事業(外部へのソリューション提供)を自社の中核事業としていく事を発表したのです。

GEはIoTの具体的な活用法として、

「飛行機のエンジンにIoTを導入する事で、燃費を大幅に削減する」

「IoTで設備の異常を感知し(または予測し)、故障する前に対応できるようにする」

といった例を挙げていました。

そのようなソリューションによって、顧客は莫大な利益を得る事ができます。

ですから、高額なフィーをGEに払っても十分に割に合う、という話だったのです(当時としては、画期的な内容が含まれていました)。

そして、そのGEのIoTソリューションのベースとなるプラットーフォームの名前が「Predix(プリデックス)」でした。

GEは、この「Predix」を普及させ、IoTの「基盤(プラットホーム)」を提供する事業者としての地位を確立しようとしていたのです。

いわば、パソコンの世界でいう所のマイクロソフトのような存在になろうとしていた訳です。

そして、具体的な目標数字として、このIoTを含むソフトウェア事業の2020年の売上目標150億ドル(約1兆7000億円)という数字を発表していました。

この目標を実現する為、GEは数千億円単位の企業買収まで行う事にしました。

目標の数字は野心的なものではありましたが、夢物語というほどではない、とも考えられていました。

当時、GEは様々なハードウェア(設備)を顧客に提供している企業でした。

ですから、自社のハードウェア製品に自社のソフトウェアを組み合わせてソリューションを提供できるという「強み」があると考えられていたのです。

そして、IoTの潜在的なマーケットの大きさも踏まえて考えれば、「その目標数字は実現可能である」と分析する人も多かったのです。

しかし、目標の基準年として指定されていた2020年が終わった今、「GEのIoT事業は失敗に終わった」と考えられています。

別にGEのIoT事業がなくなった訳ではありません。

しかし、関連事業の売上規模は目標の1/10以下の水準で低迷しています。

そして、最近のGEの発表を見る限り、GE自身もIoT事業に見切りを付け、中核事業から外した模様です。

既に、IoT事業の為に買収した会社の売却も行われました。

期待ほど事業が伸びなかった理由については、「ソフトウェアの使い勝手が良くなかった」「顧客のニーズに寄り添えなかった」など様々な事が言われています。

しかし、間違いなく言える事は、

「GEほどの企業が総力をあげて取り組んでも、IoT(DXと言い替えても良いかもれません)で、圧倒的な業界内ポジションを獲得するのは難しかった」

という事でしょう。


さて、実は、日本でも、このIoTに社運をかける勢いで注力している会社があります。

それが、日立製作所です。

日立にはIoTに関する「ルマーダ」というソリューションがあり、このルマーダで自社を成長させようとしているのです。

具体的には、日立は2026年3月期までを目処に連結調整後営業利益で1兆円超を目指す事を発表しているのですが、その半分をルマーダ事業で稼ぐ方針を明らかにしているのです(2021年6月発表)。

まさに、ルマーダに日立の成長がかかっていると言えるでしょう。

そして、日立は、このルマーダ事業の為に巨額の買収も行っています。

システム関連企業である米グローバルロジック社を買収したのですが、なんと、この買収にかかった総額は1兆円を超えると報道されています(株式の取得に約9180億円、有利子負債を含む買収総額は約1兆0368億円)。

買収金額のかなりの部分は「のれん」ですから、万一、買収によって十分なリターンが日立に得られない場合、日立には巨額の損失が発生する事になります。

更に、実は、日立はGEのIoT部門(GEデジタル)の最高執行責任者(COO)の引き抜きも行っています。

このような情報を確認していくと、GEが失敗したIoT事業を日立が引き継ごうとしているようにすら見えてきます(もちろん、事業そのものを引き継いでいる訳ではないのですが)。

そもそも、「電気メーカーとして、顧客に様々なハードウェアを提供している」という面で、日立とGEは似た会社であると言えます。

その似た会社であるGEが諦めた事業を、日本の会社が成長の要として考えている。

そして、GEと同じように、事業成長の為に巨額の企業買収も行い、人材に至ってはGEから引き抜きまでしている。

なかなか気になる話だと思いませんか?


また、この日立のIoT事業に関しては、同じ重電として比較されてきた東芝についても触れずにはいられません。

ご存じの通り、東芝は原子力のウエスチングハウス(WH)を買収し、その結果、企業のかたちすら保てなくなりました。

そして、実は、このウエスチングハウスも、「ウエスチングハウス・エレクトリック(Westinghouse Electric Corporation)」という米国の総合電機メーカーが源流なのです。

英国の会社を経由してはいますが、東芝が米国の電気メーカーから事業を引き継いだようなものなのです。

おまけに、このウエスチングハウス・エレクトリックは、GEのライバルと見られていた時期すらある企業なのです。

GEのライバル企業から事業を引き継いだ東芝は、事業運営に失敗してしまい、既に大変な結末を迎えている事になります。


企業の成長の為に投資が必要である事に異論はありませんが、日本企業は買収企業や海外人材の活用が苦手だと言われています。

GEから人材を引き抜き、GEが見限った事業に投資を続ける日立。

東芝の二の舞となる事なく、日立がIoT事業で成功できるのかどうか。

万一、日立が東芝と同じような行く末をたどった場合、日本経済への影響も小さくない事でしょう。

幸い、IoT事業に関しては、独シーメンスは成功していると見られています(シーメンスも、日立と似た側面のある企業です)。

ぜひ、悪い例ではなく、成功例を見習って、日立には成功して貰いたい所です。