ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

「お酒を飲む人に健康を害する人が多い」は本当か?【頭の体操】

お酒(アルコール)と健康状態の関係

ある会社で、「お酒の量を控えるよう、社員を啓蒙する」という話が出ました。

その事自体は別に良いと思うのですが、そのような判断が行われた背景にあったのは、

社内の『お酒を良く飲むグループ』と『あまりお酒を飲まないグループ』の健康データを比較したところ、前者の方が健康を害している率が高い

という調査結果でした。

この会社は、この調査結果をもとに、「お酒を良く飲む人は健康を害する確率が高いので、社員にお酒の量を控えてもらうことで、社員の健康改善に結びつけたい(それが、ひいては、会社の為にもなる)」と考えたのです。

この施策、皆さまは賛成でしょうか。

また、実際に結果が出ると思われますでしょうか。

少し考えた上で、続きをお読み頂ければ、と思います。


さて、先ほどの考え方について、特に問題を感じなかった方も多いかもしれません。

医者などが行っている情報発信によって、「健康の為に、アルコールの量は控えた方が良い」という事は良く知られています。

しかし、上で挙げた考え方については、ちょっと問題のある部分が含まれているように思うのです。

それは、現状の認識(分析)の部分です。

もし、社員がアルコールを多く摂取する事によって、健康を害する可能性が高いのであれば、アルコールの摂取量を社員に控えさせる事で、社員の健康改善に繋げられる可能性はあるでしょう。

しかし、「お酒を良く飲む社員を調べた結果、健康を害している比率が高い」からといって、「それらの社員が、お酒を良く飲むから健康を害している」と単純に考えて良いとは限らないのです。

逆も同じ事が言えます。

「お酒をあまり飲まない社員を調べた結果、健康を害していない比率が高い」からといって、「それらの社員が、お酒をあまり飲まないから健康を害していない」と単純に考えて良いとは限らないのです。

もうお解りになった方も多いかもしれませんが、

「お酒を良く飲んでいる人が、健康を害している確率が高い」

という事と、

「お酒を良く飲んでいるから、健康を害している」

という事は、混合しがちですが、イコールとは言えないのです。

なぜならば、

「健康を害していた人達は、そもそも、健康を害するようなハードワークな職場で働いているからこそ、ストレスが溜まり、お酒を良く飲んでいた」

という可能性があるからです。

この場合、「お酒が健康状態に影響を及ぼしている」という事を否定は出来ませんが、仮に、その人達がお酒をあまり飲まなかったとしても、健康状態は悪かった可能性があります。

ですから、もし、社内調査のデータだけをもとにお酒を控えるように行動を起こすのであれば、「それらの社員が健康を害している理由が、本当にお酒なのか」という事を確認した上で行うべきです。

そして、調査した結果、お酒以外が本質的な理由である事が解った場合には、そちらへの対応も行うべきです。


ちなみに、今回のケースで、お酒が真犯人かどうかを調べたければ、「他の条件が同じグループの中で、お酒を良く飲むグループだけが、本当に健康を害しているのか」という事を確認する事で、ある程度の分析を行う事が出来ます。

もっとも、同じようなグループに所属する社員は、「全員が大酒飲みである」といった場合もあるでしょうから、そのような場合には、分析は極めて困難になります。


このような「一見、正しそうな分析結果にもとづく対策」でも、「実際には、適切ではない分析結果による対策になってしまっている」というケースは意外と多いものです。

皆さまも、くれぐれもお気を付け下さい。