タワーマンション(高層マンション)を活用した相続税の節税(タワマン節税)について、ついに本格的な封じ込め策が実施される事になりそうです。
今回導入予定のタワマン節税についての封じ込め策(タワーマンションの相続税評価についての改正)では、「これまで相続税が発生しなかった方にも、相続税が発生する」や「不動産の相場に影響が出る」といった幅広い影響が予想されますので、「改正される制度の詳細」と「予想される影響」について、ご紹介させて頂きます。
タワマン節税に関係のある方はもちろん、不動産を相続される可能性のある方や、不動産投資をお考えの方も、ぜひ、ご一読下さい。
まず、今回、対策される事になったタワマン節税とは、どのようなものか。
簡単に説明すると、「タワーマンション(高層マンション)の高層階の部屋の『実際の価値(時価)』と『相続税における評価(相続税評価)』の差を活用した、相続税対策」です。
タワーマンションでは、「高層階だから」という理由で、一部の部屋の時価が高くなる事が一般的です。
しかし、不動産の相続税評価を計算する式には、これまで、「高層階だから評価を高くする」という概念が入っていませんでした。
結果、タワーマンションの(主に)高層階の時価と相続税評価は大きく乖離する状況が続いていました。
この為、その乖離を利用した節税が行われて来たのです(実際の価値よりも大幅に低い評価額にもとづく相続税を支払う事で、資産を次の世代に渡す事が出来る)。
なお、国税も裁判等で個別に対応はしてきました(そして、昨年、国税の主張が認められる判決も出ています)。
では、今回、どのような見直しが行われたのか。
問題点は前述の通りですから、その点への対応が図られています。
ざっくり言ってしまうと、従来方式で計算した相続税評価と時価の乖離が「1.67倍」を超える場合には、超えた分の60%分の評価を従来の相続税評価に加算する事で、乖離分を調整する、という方向性が発表されています。
具体的には、以下のような計算を行って、乖離を計算する予定です。
マンションの新相続税評価額 = 現行の相続税評価額 × (乖離率×0.6)
乖離率 = 建物の築年数×-0.033 + 建物の総階数指数×0.239 + 所在階×0.018 + 敷地持分狭小度×-1.195 + 3.220
※総階数指数=総階数÷33(1.0を超える場合は1.0)
※敷地持分狭小度=一室の敷地利用権の面積÷一室の専有面積
※現行の相続税評価額に(乖離率×0.6)を乗ずるのは乖離率が1.67倍を超える場合のみなので、(乖離率×0.6)が1未満になる事はない
乖離率を計算する式はかなりややこしいのですが、一般の方は、「タワーマンション特有の時価と従来方式の相続税評価との乖離率を計算する式」と理解しておけば大丈夫です。
この式は、現実のタワーマンションの時価と相続税乖離を計算する為に作られており、定期的に見直される事も想定されています。
ですから、そのような理解で大丈夫なのです。
なお、乖離分(超えた分)を丸ごと足さないのは、そもそも、不動産の相続税評価は時価の60%程度に抑えられている、という事情によるものです(不動産にはすぐに換金出来ない等の特徴がある為、現預金と同じ評価額も適切ではないという考え方)。
ここからは、「今回のタワマン節税対策によって、どのような影響があるのか」について。
まず、今回の変更によって、相続税が増える(または、発生する)事になる人は少なくないでしょう。
タワーマンションの中層階以上の部屋(特に新しいマンションの場合)の相続が予想される方は、今回の変更による影響を試算される事をお勧めします。
従来よりも相続税が多く発生する事が判明した場合には、その税金を支払う為のプランニングも行っておくべきです。
また、不動産の需要(相場)への影響も予想されます。
具体的には、「(従来のような)タワマン節税を目的としたマンション需要は減る(弱くなる)」という事が予想されます。
これは、従来よりも対象の部屋を所有する事による節税効果が薄れる訳ですから当然です。
では、「節税を目的としたマンション購買ニーズがなくなるのか?」というと、それも、また違うと予想されます。
なぜならば、改正後も、一定の節税効果は期待できるからです。
具体的には、時価と相続税評価の乖離が約1.67倍までの部分については、今回の変更による影響はありません。
ですから、「現金などと比べた場合、資産をマンションに変えた方が相続税評価を落とせる」という基本的な考え方については、特に変化はないのです。
ただし、「乖離率が大きい」物件のコストパフォーマンスが悪化する事は間違いありませんので、そういった物件についての需要は維持されない可能性が十分にあります(以前と同じだけの金額を支払う価値はない、と判断されるケースは増えるでしょう)。
なお、乖離率が1.67倍を超えないようなランクの物件については、従来よりも引き合いが強くなる可能性があります。
なぜならば、乖離率が1.67倍を超えるような物件は、通常、かなりの高価格帯となります。
しかし、そのような物件の節税効果が限定的となると、より低価格の複数の物件を購入したい、と考える人が出てくる事が予想されるからです(実際に、そのような対応がベストなのかどうかについては複雑な部分がありますので、ここでは言及を避けます)。
その他、タワマン節税のコストパフォーマンスが落ちる事で、その他の節税策を考える人が増える可能性もあります。
このような事から、「節税目的のマンション需要が蒸発するような事はないが、不動産相場に一定の影響はある」と予想されるのです。
なお、今回の改正によって影響を受けない需要も多くあります。
まず、節税とは関係ない需要(自分で住む為の需要など)については、今回の改正による影響は受けません。
また、今回は相続税に関する見直しですので、海外からの投資など、相続税が関係ない需要も影響を受ける事はないでしょう(逆に、そのような投資は、金利や通貨レートの影響は大きく受けるケースが多いと言えます)。
ですから、ご自身で物件をお持ちで、価格変動を気にされる方は、自分の物件の価格が、「(過度の)節税目的での購入需要によって支えられているのかどうか」といった点の見極めを今のうちにされておいた方が良いかもしれません。
そして、必要に応じて、買い換えなどを検討されるのも良いかもしれません。
最後に、この変更の適用時期について。
新しい評価方式が適用される時期は未定ではありますが、通達を2023年中には改正し、2024年からは適用される予定と報道されています。
以上、タワーマンションの相続税評価の見直しについてでした。
※本稿の内容は、国税庁の報道発表「マンションに係る財産評価基本通達に関する第3回有識者会議について(令和5年6月)(https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/0023006-018.pdf)」を前提としています。内容については、今後、変更となる可能性があります。また、限られた情報をもとに作成しておりますので、内容に間違いがある可能性もあります。更に、不動産の価格は様々な理由により変動しますので、実際の投資や売買判断については、ご自身の責任で行って下さい。