ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

増価蓄積とは?今後の購買行動を左右するキーワードになるかも!

増価蓄積

2021年に新しく知った用語を振り返り、「今後、重要性が増すキーワードは何だろうか?」と考えてみたところ、「増価蓄積」が思い付きました。

この用語、覚えやすい単語でもありませんので、この用語自体がメジャーになるかどうかは解りません。しかし、少なくとも、今後、この用語が指す考え方が重要になっていく可能性は高いと思います。

増価蓄積とは

増価蓄積(ぞうかちくせき)という用語を一言で説明すると、「減価償却の逆の意味を持つ用語」という事になります。

増価蓄積という用語は、「増価」と「蓄積」に分解する事が出来ますが、

増価蓄積の「増価」は、減価償却の「減価」を逆にしたもの、

増価蓄積の「蓄積」は、減価償却の「償却」を逆にしたもの、

と考える事が出来ます。

このように考えて頂ければ、増価蓄積が減価償却の「逆の言葉」になっているのを確認して頂けると思います。

※増価蓄積であり、増加蓄積ではありませんので、ご注意下さい(2文字目が、「加」ではなく「価」)。

そして、減価償却とは、「買ったモノは時間が経過すると価値が下がっていく」という考え方です(企業は、会計処理において、この考え方を採用しています)。

増価蓄積は、その逆の意味ですから、「買ったモノの価値は時間が経過しても下がるとは限らず、むしろ、扱い次第では価値が増す」という意味になります。

例えば、通常、家は買った後、時間と共に価値が下がっていきます(これが、減価償却の考え方です)。

しかし、十分なメンテナンスや追加工事などによって、「買った後にも価値を上げていく事は可能」という考え方をする事もできます(こちらが、増価蓄積の考え方です)。

他には、車も例として良く挙げられます。

以前は考えづらかったのですが、最近の車の中には、買った後にもソフトウェアアップデートで性能を向上させたり、機能を増やしたりする事が可能なものがあります(テスラの自動車など)。

そのような車の場合、例えば、ソフトウェアアップデートによって、自動運転の水準を上げる事が出来れば、買った後でも、その車の価値を上げる事ができる、と考える事が出来るのです。

増価蓄積が生まれた背景(歴史)

増価蓄積という考え方が生まれたのは、必然であったようにも思います。

昔は、モノの価値は時間と共に下がっていくのが当然でした。

「劣化しないモノ」を想定する事が難しかったからです。

ですが、その後、ソフトウェアや知的財産が登場すると、その前提は崩れる事になります。

ご存じの通り、ソフトウェアは、どれだけ使っても痛みません。

知的財産も同じです。

他の事情(例えば、その知的財産へのニーズ減退)によって価値が下がる事はありますが、単に時間の経過によって、知的財産の価値が下がる事はありません。

この為、企業会計上も、そういった資産については、減価償却ではなく、価値が下がっていた場合に価値を下げる(減損テスト)、という処理が採用されていたりもします。

そして、企業経営や現代の生活において、そういった「価値が下がらないモノ」が占める割合(重要性)は増してきました(ちなみに、以前から、美術品などは、「価値が下がらないモノ」として考えられる事が一般的でした)。

このように、既に、「買ったモノの価値が、時間や使用と共に下がる訳ではない」という流れは出来ていました。

それを更に一段進め、「買った後にも価値は上がる事がある」という考え方に進化させたのが、増価蓄積という考え方である、と言えるのです。

増価蓄積の登場が必然と考えられる理由は、お解り頂けるのではないでしょうか。

増価蓄積が注目される理由

そして、今、この「増価蓄積」という用語に注目すべきなのには、理由があります。

それは、この「増価蓄積」という用語が、既に注目されている「SDGs」や「環境問題対策」といった考え方と相性が良いからなのです。

すなわち、「資源を無駄にしない」という考え方に基づく購買傾向は、今後、更に強まる可能性が高く、その際、「増価蓄積を前提とした購買をしたい」と考える人が増える可能性があるからなのです。

もちろん、そのような傾向が明らかになった場合、モノを売る側としては、「増価蓄積に対応出来ているのか?」という事を強く意識するようになる事でしょう。

増価蓄積に対応した商品を用意できていないと、購入対象から外されてしまう可能性がある訳ですから。

増価蓄積の考え方の限界

最後に、増価蓄積が流行した後の事を見据えて、少し、増価蓄積という考え方の限界についても警告しておきたいと思います。

どれだけ、「増価蓄積の考え方でモノを買う」と言っても、実際には、「物理的なモノ」は時間や使用と共に傷んでいきます。原則、その事実が変わる事はありません。

ですから、単純なソフトウェアや知的財産に属するようなものを購買するのであれば別ですが、通常は、買ったモノの価値を増やしていく為には、様々な追加作業が欠かせません(手入れや追加の購買など)。

そして、その追加作業においては、様々な資源が消費されるケースがほとんどです。

場合によっては、「新しいモノを買った方が、実は、環境に優しかった」という事も出てくるでしょう(実際、家電の世界では、既に「新しい製品に買い換えた方が、環境に優しい」という事例は多く存在します(省エネ性能の差などに起因))。

ですから、今後、増価蓄積という考え方を普及させようと考えている方、また、増価蓄積という考え方で購買を考えている方には、このような点については、十分に気をつけて頂きたいのです。

そうしなければ、増価蓄積は、単なるトレンド用語で終わる事になってしまうかもしれません。

古いものを使い続ける考え方は大切ですが、本末転倒になってはいけません。

増価蓄積が、目的に反した流行とならない事を願って、この記事を締めたいと思います。