ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

「横浜は田舎」と指摘する新聞記事から、横浜の魅力を考える

横浜 田舎

先日、ある新聞に「横浜は田舎か」という記事(コラム)が載っていました。

横浜は私にとっても接点の多い街です。

ついつい、真剣に読んでしまいました。

そのコラムの著者の方に迷惑をかけてはいけませんので、新聞の名前や掲載されていた日付は、ここでは内緒とさせて頂きます(調べればすぐに解ってしまうとは思いますが…)。

また、コラムの題名も、正確には『横浜は「理想の田舎か」』というものであり、別に、横浜に批判的な立場から書かれているものとは感じませんでした。念のため。

ただし、現在の横浜に「田舎らしさ」がある、という事は書かれており、そのコラムの中で、横浜が将来に向けて考えていかなければならないであろう点について指摘されていたのは本当です。

日頃はあまり意識していませんでしたが、このコラムを読んで、改めて「横浜」という街について考えてみると、確かに不思議な街であると思えてきました。

そして、この「横浜」という街の、現在の「イメージ」が、「どのように構築されてきたのか」、という事を考えることは、経営においても参考に出来るところがあるように感じられました。

 

まず、先ほどから取り上げている新聞のコラムにおいて、横浜が「田舎」と書かれているのには、いくつかの理由があります。

①横浜で仕事すると、同じ人と良く顔を合わせる(人間関係が閉じている)

②横浜にも問題があるが、そういった事がキチンと議論される雰囲気ではない

著者が感じたり、聞いたりして書いている事を私なりにまとめると、こんな所でしょうか。

①は、地方都市で仕事をすると、本当に良く聞く内容です。毎日、様々な団体の様々な催し物があるが、結局、運営に携わる出席者はどの催し物でも殆ど同じ…という話を良く聞きます。

だからこそ、という面もあるでしょうが、②も良く聞く話です。

ここまでは、なるほどな、と読みました。

そうした特徴からは、確かに「横浜は田舎」で間違いないのかもしれません。

 

それでは、本当に、横浜は、こうした条件が当てはまる他の「田舎」と同じような「田舎」なのでしょうか。

自分の周りにいた人に、「横浜に、田舎っていうイメージある?」と聞いてみましたが、少なくとも、その時に意見が聞けた人は、皆、否定的でした(ちなみに、横浜在住の人には、あえて聞きませんでした)。

強いていえば、「横浜といっても広いから、田舎といえる地域もあるだろうね」と答えた人はいました。しかし、それは東京も同じです。

ちなみに、コラムの中でも触れられていましたが、横浜は「SUUMO住みたい街ランキング2019 関東版(株式会社リクルート住まいカンパニー調査)」でトップです。

これは街というよりも、駅単位での話ですし、今回の論点とは少しズレているとは思います。しかし、多くの人が「横浜」という単語に良いイメージを持っている、という事くらいの参考には出来るでしょう。

 

そこで、周りの人たち(皆、横浜に良いイメージを持っている事は確認済)に、「なぜ横浜が好きか」、聞いてみました。

「横浜って、なんか独特じゃないですか」

「横浜に行くと、なんか良い気分転換になりますよね」

「横浜って、どことも喧嘩してる感じがなくて良いですよね」

「横浜なら、東京じゃなくても最低限なんでもあって、おまけに、東京にないものもありますからね」

みんな、好き放題言います。

しかし、これらの意見、実は、結構、的を射ている気もするのです。

質問した相手は、皆、日頃は東京で活動している人たちです。

彼らは、「東京という存在を前提として」、横浜を評価しているように、私には思えました。そして、同時に、横浜に「東京とは重ならない独自の価値」がある事を、彼らは認識しています。

ちなみに、日頃、横浜に住んでいる人と話していても、「東京あってこその」横浜の住みやすさ(通勤しやすさ、用事のし易さなど)を実感しているように感じる事があります。そもそも、「東京が近いから(行きやすいから)」、という理由で横浜に住む事を決めた人も少なくないのかもしれません。

そして、コラムでも取り上げられていましたが、横浜に住んでいる人で、横浜を悪く言う人を見た事がありません。彼ら自身も、横浜に十分な魅力があると思っている。

なかなか凄い街ですね。

 

今、横浜は東京の座につきたいとは考えていないでしょう。

「東京の座って何?」、と聞かれると定義は難しいですが、せっかくですので、先ほどのコラムで出てきた言葉を使わせてもらって、「田舎」の対極のイメージを持った街、とでもしておきましょうか。

しかし、東京にないものを横浜は持っている。そして、それが、東京で活動している人にとっても十分に魅力的なものである、という事が周知されている。

 

これをビジネスで言えば、絶対的な強者の企業(独占企業、寡占企業)がいる業界だが、その座を争うのではなく、その強者の企業にとっても、「いてくれて有り難い企業」になれている、という事になるのではないでしょうか。

少し考えてみると、多くの業界において、そういう企業間の関係を見つける事までは出来ます。しかし、その多くは、下請け的な意味での共存関係です。

横浜のそれは、少し違う気がします。 東京に頭を下げている感じはありません。自然に、お互いの価値を認め合えている関係になっている気すらします。

やはり、不思議な関係な気がしてきました。

そして、企業において、こういった立場が構築出来れば、どれだけ、その「絶対的な強者の企業」が強くなっても、その企業は潰される事はないでしょう。

経営者であれば、「なんて素晴らしい状態」、と感じる方も多いのではないでしょうか。

 

しかし、実は、こうした状態を、横浜に住んでいる多くの人が「当たり前」に感じるようになったのは、それほど昔ではない可能性が高いと思うのです。

確かに、横浜は、「江戸に繋がる港町」「外国人との関係での特別な街」といった独特の存在として発展してきた面はあります。そこは、今とも繋がるでしょう。

しかし、数十年前までは、東京とガチガチに競争していた面もあったのです。ファッションの発信地としてもトレンドを競い、商業エリアとしても東京と争う部分がありました。

にも関わらず、いつの間にか、「東京と競争する訳ではない」、が、「東京から見ても魅力的な街」というイメージを手に入れる事に成功しています。

勿論、地元の方の中には、そういった事を良しとされていない方もいらっしゃるでしょうし、認識が異なる方もいらっしゃる方でしょう。

 

しかし、少なくとも、東京の人たちから、横浜が「嫌われておらず、同時に、良いイメージを持たれている理由」は、こういったポジションがうまく築けている所に原因があるように思えるのです。

そして、そこが、仮に、地元の経済界が、他の「田舎」と同じように、「田舎」であったとしても、そんな事とは関係なく、横浜が「田舎」だと認識されていない一因であるように思えます。

ここから先は、皆様自身でも考えて頂きたいと思います。

「なぜ、横浜は、そのポジションが築けたのか?」

春の行楽シーズンに横浜に出かけて考えてみると、特に自社の業界内でのポジション取りで悩まれている経営者の方にとっては面白いかもしれません。