ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

潰せない銀行が国際的に決まっているのを知っていますか?

潰せない金融機関 G-SIBs Global Systemically Important Banks

実は、「潰せない銀行」の一覧が国際的に定められています(厳密には、少し定義は違うのですが、詳しくは後述)。

アメリカの銀行破綻やヨーロッパの金融機関の経営不安などが取り沙汰されるようになり、この件が話題になる事も増えたので、ここでも紹介させて頂こうと思います。


国際的に決まっている「潰せない金融機関の一覧」とは、正式には「Global Systemically Important Banks」と呼ばれるものの事です。

この「Global Systemically Important Banks」は、通常、略して「G-SIBs」と表記され、ジーシブズと発音されます。日本語では「グローバルなシステム上重要な銀行」などと訳されています。

このG-SIBsが生まれた背景は、2008年のリーマンショックです。

この時、「巨大な金融機関が破綻する」という事態が現実のものとなりました。

しかし、実際に巨大な銀行を破綻させた場合、その影響は他の銀行にも及びます。その結果、「金融システム全体が大変な事になる」という事態も懸念される事となります。

ですから、巨大な銀行を潰す事は困難であり、そのような事態が想定される場合、結局、各国政府は税金を使ってでも救済せざるを得なくなるケースが予想されるのです。

しかし、そのような税金を使った救済には、「各国の国民の理解が得づらい」という問題があります。

※特に、海外の銀行救済においては、「高給取りが多い金融機関を、なぜ、税金を使って救済しないといけないのか」といった声が上がりやすいのです。

この為、そもそも、「潰してはいけない銀行は、潰れないようにしよう」「万一、潰れる事になった場合でも、税金投入せずに潰せるようにしよう」といった声が上がり、このG-SIBsというものが定められる事になったのです。

そして、こののG-SIBsに指定された銀行には、一般的な銀行よりも、より高い財務的な安定性を求める事にしたのです(専門的な表現をすると、追加的な資本を求める事にしたのです)。

※グローバルに活動する金融機関には、これまでもバーゼル規制(以前はBIS規制と良く呼ばれていたもの)の適用があるのですが、このG-SIBsによる規制はそれに追加で適用される考え方です。


ですから、このG-SIBsは、正確には、「潰せない銀行の一覧」ではなく、「潰れると大変だから、勝手に潰れないように、しっかりと管理する銀行の一覧」といったニュアンスの方が正しいのですが、どちらにせよ、このG-SIBsに含まれている銀行が、国際的に「潰れられると困る銀行」として認識されている事に違いはありません。


そして、G-SIBsに指定される銀行は、グローバルでの金融システムにおける重要度合いによってランクが付けられます。

そして、重要度が高い銀行ほど、より高い安定性を求める仕組みになっています。

G-SIBsに含まれる銀行の一覧については、毎年、FSB(金融安定理事会)が発表しており、以下が、最新(2022年)のランク別のG-SIBsの具体的な銀行の一覧です。

■ランク5(最もグローバルなシステム上、重要な銀行)
該当なし

■ランク4
JP Morgan Chase

■ランク3
Bank of America
Citigroup
HSBC

■ランク2
Bank of China
Barclays
BNP Paribas
Deutsche Bank
Goldman Sachs
Industrial and Commercial Bank of China
Mitsubishi UFJ FG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)

■ランク1
Agricultural Bank of China
Bank of New York Mellon
China Construction Bank
Credit Suisse
Groupe BPCE
Groupe Credit Agricole
ING
Mizuho FG(みずほフィナンシャルグループ)
Morgan Stanley
Royal Bank of Canada
Santander
Societe Generale
Standard Chartered
State Street
Sumitomo Mitsui FG(三井住友フィナンシャルグループ)
Toronto Dominion
UBS
UniCredit
Wells Fargo

※2022年版。日本の金融機関のみ、日本語名を付記。ランクという表現はこの記事での表現であり、オリジナルではBucket1~5という表現がされています。(https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P211122.pdf


ちなみに、このG-SIBsに対し、国内に限定した「国内のシステム上重要な銀行(Domestic Systemically Important Banks=D-SIBs)」の一覧もあり、日本の場合、金融庁がG-SIBsに含まれる国内3行に加え、以下の金融機関を指定しています。

三井住友トラスト・ホールディングス
農林中央金庫
大和証券グループ本社
野村ホールディングス

※金融庁「G-SIBs及びD-SIBsの指定について」より(https://www.fsa.go.jp/news/27/20151204-4.html)。


日頃、このような銀行の指定について意識される機会は、まず無い事と思います。

しかし、この機会に、「日本のメガバンクが、グローバルな金融ネットワークの中で、どのような重要度で認識されているのか」や「国内では、どの金融機関がシステム上重要な金融機関として認識されているのか」といった点の理解に繋げて頂ければ幸いです。