ビジネスコンサルティングの現場から

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アクティビティベースドワーキングで成果主義は新しい段階へ?

アクティビティ・ベースド・ワーキング アクティビティベースドワーキング ABW

新型コロナによって、リモートワークが広がりました。

その結果、オフィスが持つ意味を考え直す企業が増え、アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)という考え方によるオフィス設計が注目されています。

そして、このアクティビティ・ベースド・ワーキングの考え方が広まると、会社と従業員の関係は、また、少し変化する可能性があるように思います。

そこで、今日は、このアクティビティ・ベースド・ワーキングという考え方について、ご紹介させて頂こうと思います。


アクティビティ・ベースド・ワーキング(Activity Based Working=ABW)とは、「社員が最適な場所を選んで働く」という考え方です。

もう少し具体的にオフィス設計に落としこむと、アクティビティ・ベースド・ワーキングの考え方を取り入れたオフィスを構築する場合、オフィスの中に、「一人で集中して作業する場所」「軽く人と話しながら作業する場所」「アイデア出しをする場所」「議論をする場所」「電話やWEB会議をする場所」といった「特定の目的の為に最適化されたスペース」を設ける事になります。

※正確には、ABWでは、HIGH-FOCUS、LOW-FOCUS、CALL、DUO、DIALOGUE、CREATE、COORDINATE、INFORM、RELAX、TECHNICALという10の種類の活動に対応したスペースを用意する事で、仕事の効率性向上に繋げます。

そして、社員は、その時々の仕事に最も適したスペースを、原則、自らの意思で決め、その場所で仕事する事になります。

もちろん、一日の中でも、作業の性質によって、スペースを使い分ける事になります。


このアクティビティ・ベースド・ワーキングですが、1990年代にオランダのヴェルデホーエン社(Veldhoen + Company)が、このABWの考え方にもとづくコンサルティングを手がけだしたのが始まりと言われています(その前に、専門誌に考え方は紹介されていました)。

日本では、イトーキがヴェルデホーエン社と協業パートナー契約を結び、コンサルティングを手がけています。


気になった方もいらっしゃるかもしれませんので、フリーアドレスとアクティビティ・ベースド・ワーキングの関係についても整理しておきましょう。

フリーアドレスは、あくまで、「社員の席を固定しない(個人席を作らない)」という考え方です。

その結果として、「オフィス費用が下がる」「従業員同士のコミュニケーションが活発になる」などの効果が期待できます。

しかし、フリーアドレスの考え方を導入したオフィスを構築する場合、社員の固定席は無くしますが、それ以上の大きな変化は求められません。

これに対して、アクティビティ・ベースド・ワーキングの考え方を取り入れたオフィスでは、前述の通り、作業の性質によって最適化された複数のスペースが用意される事になります。

そして、社員が適切なスペースを選んで作業する事によって効果が発揮されますので、原則的には、アクティビティ・ベースド・ワーキングが導入されるオフィスでは、フリーアドレスが導入されている必要はあります。

ただし、社員が固定席以外で作業が自由に出来さえすれば、別途、固定席があってもアクティビティ・ベースド・ワーキングの考え方で仕事をする事は出来ます。

この為、アクティビティ・ベースド・ワーキングが導入されるオフィスにおいて、絶対にフリーアドレスが徹底され、固定席が廃止されている必要まではありません。

フリーアドレスとアクティビティ・ベースド・ワーキングは、このような関係にあります。

似た考え方だと認識されている方もいらっしゃいますが、この2つは全く異なるアプローチによる考え方であると理解すべきです。


さて、ここまでがアクティビティ・ベースド・ワーキングについての基本的なご紹介でした。

では、アクティビティ・ベースド・ワーキングの導入は、日本企業に、どのような影響をもたらすのでしょうか。

もちろん、アクティビティ・ベースド・ワーキングを導入し、それを上手く使いこなす事が出来れば、社員のパフォーマンスは向上する可能性があります。

では、日本の全ての会社がアクティビティ・ベースド・ワーキングの考え方を使いこなす事は出来るのでしょうか。

残念ながら、アクティビティ・ベースド・ワーキングの導入が成功できる企業と、導入しても失敗してしまう企業がある事は明白です。

まず、アクティビティ・ベースド・ワーキングをうまく使いこなし、パフォーマンス向上に繋げる為には、社員自身が、「この作業は、あのスペースで作業をした方がパフォーマンスが上がるはず」という事を自分で考え、作業場所をスムーズに選ぶ必要があります。

上司が部下に対して、「今日は○○のスペースで作業して下さい」というような指示を出す事によっても、アクティビティ・ベースド・ワーキングの考え方を取り入れる事自体は可能ですが、残念ながら、そのような導入では、効率性に問題があり、十分な効果は期待できません。

ですから、社員が自主的に様々な判断を自分で行えるような企業でなくては、アクティビティ・ベースド・ワーキングの導入は失敗してしまう可能性が高いのです。

特に、「部下に細かく仕事の進め方を指示するのが仕事」や「部下の作業状況を細かく管理するのが仕事」と思っている上司が多いような企業では、このアクティビティ・ベースド・ワーキングの導入は失敗する事でしょう。

逆に、「社員に仕事の進め方は完全に任せ、社員の評価は成果で行う」という事が徹底されている企業では、アクティビティ・ベースド・ワーキングのメリットは最大限に発揮され、導入は成功する可能性が高いのです。


もちろん、アクティビティ・ベースド・ワーキングが導入された場合、従業員の側に求められるものも変わります。

従業員の側には、まず、「最高のパフォーマンスを出せるように、自分で作業する場所を選ぶ」という作業が求められるようになります。

そして、作業する場所を選んだ責任が生まれ、よりアウトプット(成果)への評価も厳しくなる事でしょう。

結局、このアクティビティ・ベースド・ワーキングという考え方は、「会社が従業員に対して、従来よりも、よりパフォーマンスの高い作業を行う為に使えるリソースを提供する」という意味合いが強いのです。

そして、従業員は、その与えられたリソースを自由に利用する権利が与えられる代わりに、より高いパフォーマンスで仕事をする事が求められるようになる訳です。

ですから、アクティビティ・ベースド・ワーキングが導入されると、従業員の側では、「作業の自由度合い」や「使えるリソース」が増える代わりに、これまで以上に「成果」を求められる事になります。

そのような考え方を歓迎する社員にとっては、アクティビティ・ベースド・ワーキングの導入は有り難いものですし、そうでない社員にとっては、歓迎出来ないものになる事でしょう。


なお、日本の社会全体への影響としては、アクティビティ・ベースド・ワーキングが普及していくと、裁量性労働やフレックスタイムといった「時間の使い方の自由を労働者に与える」という考え方に加え、「働く場所の自由を労働者に与える」という考え方も当たり前になっていく事でしょう。

そして、その結果、仕事を「成果で計る」という考え方が、更に一段階進む事でしょう。

これまで以上に、社員と外部協力者との垣根は低くなっていくでしょうし、会社が提供する「オフィスの価値」が、競争上も厳しく問われる事になると予想されます。