ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

希望退職への応募の判断を、経営の裏側を見てきた立場でアドバイス

希望退職や早期退職への応募の判断


新型コロナウイルスの影響もあり、従業員の削減を考えている会社は少なくないようです。

いきなり従業員を削減(解雇)する会社もありますが、大きめの会社の場合には、「希望退職を募る」というステップを踏む事があります。

すなわち、「当社は○人くらいを削減する予定なので、○日までに退職希望者は会社に申し出て欲しい」という通知が社内で行われる訳です。

希望退職に積極的に応募して貰う為、ほとんどのケースでは、「飴(退職条件の上乗せ)」が設定されます。

バブル崩壊後、この「希望退職募集」は多くの会社で行われてきました。

その裏側を見てきた身として、いざ、「希望退職に応募するかどうか」を判断しないといけない立場になった時に、判断する為のヒント(考え方)を提供したいと思います。

※早期退職の募集でも、基本的には同じです。


希望退職の募集が発表されると、「もう、この会社はダメだから、早く逃げ出すか、最後までしがみつくか」という2択だと思い込む従業員は多いです。

しかし、希望退職への応募に関して正しい判断をする為には、まず、その会社の「情報」を正確に把握する事が大切です。

具体的には、

「その会社に残っている体力(特に財務的な観点での)」

「今後の業績見通し(希望退職実施後の業績は黒字なのか、赤字なのか)」

という2つの要素について、正しく分析(理解)すべきなのです。

実は、希望退職を募る会社には、様々なシチュエーションが存在します。

「希望退職を募る会社は、経営が危ない」と決めつけてしまう方もいらっしゃいますが、そうとも言い切れません。

細かい事情の説明は省きますが、退職者を募らなくてやっていける会社であっても、「希望退職者を募る」というケースもあるのです。

外部から見ていると、判断は難しくないケースが多いのですが、渦中の従業員にとっては、なかなか、この判断は難しいようです。


さて、先ほどの2つの要素を組み合わせると、希望退職を募っている会社の状況は4つに分類する事が出来ます。

①体力が既になく、今後の業績も期待できない

②体力は十分に残っているが、今後の業績は期待できない

③体力が既にないが、今後の業績は期待できる

④体力は十分に残っており、今後の業績も期待できる


この中で、一番、単純に判断出来るのは①(体力なし・今後も期待できず)です。

このケースにおいては、もし今回の「希望退職の条件」が魅力的なものなのであれば、応募する事を真剣に考えるべきです。

貴方の「今後の業績も期待できない」という分析が正しいのであれば、今回の希望退職だけでは終わらず、早々に、2回目や3回目の希望退職者の募集が行われる可能性があります。

そして、2回目以降の条件は、1回目よりも悪化する可能性があります(体力が今よりも落ちているので、提示できる条件は悪化せざるを得ない)。

または、「希望退職」ではなく、単純に「解雇」が言い渡される可能性もあります。

もちろん、退職して転職できる目処がないのであれば、「居られる間は、会社にしがみついた方が得」という場合もあります。

この点についての判断は、各個人の事情を踏まえて行うしかありません。


少し判断が複雑になるのは、②以降です。

まず、②(体力あり・今後は期待できず)については、①と同様に2回目以降の希望退職が実施される可能性は十分にあります。

しかし、体力が落ちていないのであれば、条件が悪化していくとは限りません。

退職して欲しい社員に対して、個別に退職条件が打診されるようなフェーズに移行する事もあります。

そして、今回よりも良い条件で退職できる可能性もあります。

この為、「新しい職場を探したり、スキルアップの努力などをしながら今の会社で時間を稼ぎ、退職の時期を見計らう」という選択も悪くないでしょう。


次に、③(体力なし・今後は期待できる)ですが、通常、この状況を前提とした判断は発生しません。

少し考えて頂ければご理解頂けると思いますが、この状況は、「会社の今の状況は厳しいが、今を乗り切れば良くなる」と貴方が信じられている状況、という事になります。

なかなか、希望退職を募っている会社に対して、そのような事は思えないものです。

しかし、貴方がそう思えているのであれば、貴方は、その会社に対して、相当の思い入れがある(または、会社が実行中のリストラプランについて、かなり高い評価をしている)という事になります。

もし、そうなのであれば、最低限のリスクヘッジはした上で、その会社に賭けてみるのも良いかもしれません。

事業再生の分野では、良く「V字回復」などという用語で表現されますが、実際にそのような再生を遂げた会社は存在します。

そして、経営者が真っ当であれば、その再生に尽力した社員に対しては、後日、十分な見返りがあったりもします。

ちなみに、世間では「近いうちに潰れそう(体力がない)」と思われている会社であっても、専門家からみると、「まだまだ潰れない(体力が残っている)」というケースもあります。


最後に残った④(体力あり・今後も期待できる)については、特にコメントはありません。

会社に残れるのであれば、残っても良いでしょう。

希望退職を募るという位ですから、今の仕事が続けられるかどうかは怪しいですが、成長部門への転属が叶ったりするケースも多く、希望退職に応じる必要性が高いとは言えません。

その一方、このようなケースでは、「希望退職募集の条件がかなり良い」というケースも多く、納得出来る条件なのであれば、応募してみるのも悪くないでしょう。

ご自身のキャリアと関係で、十分に悩めば良いだけの話、という事になります。


以上、希望退職が身近ではない方にとっては、あまり面白い話題ではなかったと思いますが、何かの時に思い出して、参考にして頂ければ幸いです。