「治療用アプリ」というものをご存じでしょうか。
そう、あのスマホで使う「アプリ」です。ただし、治療を目的とした。
今日は、「どんな治療用アプリがあるのか?」という最近の動向と、更にその先にある「デジタル薬」について紹介させて頂きたいと思います。
最初に誤解がないように明記しますが、「治療用アプリ」は「自分の健康管理などに使える便利なアプリ」ではありません。
れっきとした、「医者で診察を受けた後に提示される治療法の一つ」です。
処方せんで薬局で貰う「薬」と何ら変わらない位置づけなのです(認可されれば、健康保険の適用もされます)。
治療用アプリとして、日本で最初に認可されたのは、「禁煙治療用アプリ」です。
正式には、「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」という名前で登録されており、株式会社CureAppが製造販売を行っています。
2020年8月に厚生労働省から薬事承認(製造販売承認)を取得し、11月に保険適用となりました。
名前の通り、禁煙治療(タバコを止める為の治療)に使われます。
従来から「禁煙外来」で禁煙を目指すという仕組みはありました。
禁煙外来では、医者による診察(カウンセリング)の他、薬を用いて禁煙を目指す事になります。
この禁煙治療用アプリは、これらの仕組みと併用されるものです(禁煙治療用アプリを用いる場合には、原則、バレニクリンという禁煙治療薬も出されます)。
しかし、この禁煙治療用アプリ、なかなか優秀なのだそうです。
「ニコチン中毒について勉強する」機能がある他、アプリの方から色々なメッセージを送ってくるのだそうです。
それも、吸いたくなるタイミングで、吸わせないようにする為の工夫までされているとか。
驚いたのは、食事をしていると、「食事の後には吸いたくなる事が多いので、ランチの後にはすぐに席を立ちましょう」といったメッセージが届く事まであるのだそうです。
そして、このアプリには、もう一つの強力な機能があります。
実は、COチェッカー(呼気の一酸化炭素濃度を測定するもの)が、この治療薬アプリには付いてきます(COチェッカーは、スマホと連動させて使うハードウェアです)。
そして、毎日、このCOチェッカーを使って、記録を取る事になるのです(データはサーバーに送られて保存)。
これが何を意味するか。
禁煙を破って、タバコを吸ってしまった場合、医者に「ばれてしまう」のです。
もちろん、成人であれば吸っても違法性はありませんが、かなりの心理的プレッシャーになる事は間違いないでしょう。
また、医者が次に診察する際、医者は「本当に禁煙に成功しているのか、それとも、失敗しているのか」という患者の状況を正確に把握する事が出来ます。
そして、その情報をもとに、適切な対応を患者に対して行う事が出来ます。
これまで以上に有用な禁煙外来になっていく事は間違いない事でしょう。
このように従来の治療を変えていく可能性のある「治療用アプリ」は、その他の会社・分野でも開発が進んでいます。
明らかになっているだけでも、
・高血圧治療用アプリ(CureApp、血圧計と連動して生活習慣改善など)
・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療用アプリ(CureApp、医学的ガイダンスを発信)
・ADHD(注意欠陥多動性障害)治療用アプリ(塩野義製薬、ゲーム機能での機能改善)
・不眠症治療用アプリ(サスメド、日中の行動や入眠時間をアドバイス)
・糖尿病治療用アプリ(おいしい健康、食事療法として献立などを提案)
・糖尿病治療用アプリ(アステラス製薬、運動などをアドバイス)
などなど。
さらに、在宅治療中のがん患者の状況を医師が確認し、治療方法を柔軟に変更したりできるようにする為のアプリ(第一三共)も計画が進んでいるそうです。
治療用アプリは新薬開発と比べて開発の為の費用も低く、新規に参入しやすい為、様々な分野で開発が進んでいる、という面もあるようです。
※もちろん、これら全ての開発が成功し、薬事承認され、保険適用になるかどうかは解りません。
また、アプリ以外の「デジタル薬」も開発が進んでいます。
例えば、VR(正確にはSRと呼んだ方が良い場合もあるでしょう)の技術を活用して、患者に様々な仮想世界の風景を見せ、精神的な病気の治療を目指す、など。
治療用アプリを含め、デジタルの治療方法は開発が始まったばかりです。
今後、これまでの常識では考えられなかったような治療法が生み出されていくのかもしれません。
新しい治療法について勉強していかなければならない医療業界の皆さまは大変だと思いますが、患者側としては、期待を込めて、開発を見守りたいと思います。