ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

タクシー料金が時間距離併用制である理由を考えた事がありますか?

タクシー 料金制度 時間距離併用制


先日(11月末)、国交省はタクシー料金に新しい制度を導入する事を発表しました。

「一括定額運賃(いわゆる定期券や回数券)」や「変動迎車料金」を設定する事が可能になったのです。

この変化によって、タクシー料金の自由化は、また少し進む可能性があります。

しかし、ベースとなるタクシーの料金制度については、まだまだ変わらないと予想されます。

そこで、今日は、

日本のタクシー料金制度は、なぜ、時間距離併用制なのか?

という事について、取り上げてみたいと思います。

特にタクシー業界の方には、「何の対価として料金を受け取っているのか?」という事を自問しながら読み進めて頂ければ、と思います。


実は、日本のタクシーは距離だけではなく時間でも料金がかかります。

もちろん、距離によっても料金は発生するのですが、1メートルも進んでいなくても、車に乗っているだけで料金がかかる事があるのです。

ご存じでしたか?

この料金制度のことを、「時間距離併用制」といいます。

私も昔は知らず(車内に張ってある料金表にはしっかり書いてあるのですけれど、あまり見ませんよね)、同じ距離を乗っても値段が大きく違う事があるのに驚いていました。

この「時間でも料金が取られる」という仕組み、不思議に思われた方はいらっしゃいませんか?

周りの人に意見を聞いてみた所、

「渋滞にはまったりした時に、お金を取りたいんじゃない?」

「客がタクシーを待たせる時に、料金がかかるのは仕方ないんじゃない?」

といった意見がありました。

後者はともかく、前者は乗り物の料金としては、素直に納得出来ない気がします。

もし、そうした仕組みが乗り物の料金として妥当なのであれば、バスや電車などでも採用されているはずです。しかし、私の知る限り、ありません。

むしろ、逆であった方が納得出来る気すらします。

タクシーを使うのは、多くが急いでいる時です。

急いでいるからこそ電車よりも高い値段を覚悟してタクシーに乗ったのに、到着が遅くなっては意味がありません。料金を返して欲しいくらいです。

ちなみに、電車の場合、特急料金を支払っていれば、遅延した場合には返ってくるそうです(もっとも、料金が一部でも返ってくるのは、相当に遅延した場合だけだそうです)。

不思議に思って、こういう事に詳しい人に、以前聞いてみた事があります。

そうすると、こんな答えが返ってきました(前の事なので、正確な表現は違ったかもしれません)。

「タクシーは客が指定した通りの道を行かないといけない。だから、客に時間のかかる道を指定されたら、時間が無駄にかかると解っていても、それに従わないといけない。だから、距離だけで料金を取るのは不適切なのだ。」

「時間制の料金というが、これは時間で料金を取っているというより、一定の速度が出なかった場合に、一定の速度で走っているとみなして料金を取っているのだ。」

解ったような解らないような説明でした。

しかし、その時は、一応、納得したものです。

特に、「タクシーは、客の言う通りにルートを走らなければならない」という点については、「なるほどな」と思ったのを覚えています。

確かに、バスや列車などでは、ルートをこちらから指定する事は出来ません。業者側が指定した移動手段に、こちらが合わせるだけです。


そして、このような事を少し真面目に考え出すと、「タクシー料金の支払対象(何の対価として料金を支払っているのか)は、交通機関によって違うのかもしれない」と考えるようになりました。

列車やバスについては、「AポイントからBポイントに移動する」という事に対して代金を払っている。

特急などでは、それに加えて、「一定の時間内に到着出来る」という事に対してお金を払っている。

場合によっては、「着席出来る権利や一定以上の座席の快適さ」に対して、お金を支払っている事もある(指定席料金やグリーン車料金)。

しかし、タクシーについては、「移動する」という事よりも、「運転手を拘束している時間」に対して、主に料金がかかっているのではないか。

タクシーを運行する経費において、「人件費」の占める割合は大きいに違いない。

だから、タクシーは、他の移動手段と違い、「運転手の時間当たりの給与」を負担させられているのだ。

だからこそ、タクシーに乗って、全く動かずに降りても、料金はかかる。

そう考えるようになったのです。


しかし、ここで、ふと思う訳です。

「では、無人運転になったら、どうなるのだ?」

と。

今、自動運転が盛んに実験されています。

恐らく、近い将来、実用化される事でしょう。

そうなると、タクシーにも無人運転によるサービスが生まれる事でしょう。

そして、言うまでもなく、無人運転になると、運転手の人件費は関係なくなります。

その時、タクシーの料金体系は、どうなるのでしょうか。

人件費が関係なくなったから、時間距離併用制は廃止されるのでしょうか。

それとも、今度は、自動運転の性能によって、所要時間や快適さが変化するので、その性能に応じて料金が設定されたりするのでしょうか。

万一、無人運転になっても時間距離併用制が維持されているような事があった場合には、タクシー業界には、「なぜ、時間によっても料金を取るのか」と聞いてみたいと思います。

タクシー業界の方には、無人運転で人件費が安くなる、と喜ぶだけではなく、こうした事についても、今から考えておいて頂きたいと思います。