ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

高齢者のIT推進には「ソフトウェア操作への配慮」が必要なのでは?

デジタル機器・IT機器の操作法のマニュアル

今日は、ちょっとした問題提起を。

「デジタル化の重要性」が叫ばれるようになって、随分になります。

しかし、そのデジタル化を推進していく上で、

高齢者がIT機器を使ってくれない

高齢者のITスキルが低い

といった点が課題となっている、という話も良く聞きます。

確かに、IT機器に苦手意識を持っている高齢者は多いように感じます。

ですから、高齢者の側にも、「IT機器を、がんばって試してみる」という意識は必要なのでしょう。

しかし、実際に高齢者の方のサポートをさせて頂く中では、

あまりに、IT機器の操作方法が複雑である

と感じる事もあります。

特に、最近のソフトウェアに関しては、

操作方法をシンプルには覚えられない設計になっている

一度覚えたソフトウェアの使い方が、すぐに変わってしまう

といった問題があるようにも思います。

※他にも、文字の大きさやクリック(タップ)のし易さ、などの問題もあるように思いますが、これらの点については良く知られている問題だと思いますので、この記事では取り上げません。


具体的には、

・設定の違い等が原因となって、自分と他の人で表示される画面が異なる(操作マニュアルと画面が違う事も良くある)。

・そもそも、マニュアルが存在しないソフトウェアも多い。

・操作方法が変わる事がある(ソフトウェアが気を利かせて?操作方法を切り替えてくる事がある)。

・バージョンアップによって、以前とは操作方法が変わってしまう。

・同じ目的の為のソフトウェアであっても、メーカーが変わると使い勝手が変わる。

などの点が原因となって、最近のIT機器(ソフトウェア)の操作を難しいと感じる高齢者は多いように思います。


これらの点は、最近の機器に慣れている方からすれば、「当たり前じゃないか」と思われる点ばかりかもしれません。

しかし、それは、「IT機器の扱いが得意な人」の感覚です。

そのような点への対応を難しく感じる人も、世の中には多くいるのです。

IT機器が専門的な道具であり、「その扱いに得意な人だけが使えれば良いもの」であれば、別に、このような点は問題とはならないでしょう。

しかし、今は「IT機器が使えないと不利益を被る」という事が珍しくない時代です。

また、社会として、「出来る限り多くの人に、IT機器を使えるようになって欲しい」という方向で動いてもいます。

であれば、IT機器が苦手な人が、「これだからIT機器は良く解らない(使いたくない・使えない)」と感じるポイントは、少しでも減らしていくべきだとも思うのです。


では、どのような改善が、IT機器側にあれば良いのでしょうか。

まず、高齢者の中には、「○○という事をする為には、まず、これをやって、次は、これをこうして…」といった風に、「決まった操作手順で操作したい(そうでないと、操作が覚えられない)」と感じる人は少なくありません。

また、操作する上で、「マニュアルを見ながら、その通りに操作したい」という人も少なくありません。

ですから、まず、そのような希望を持っている人の為の配慮があると良いでしょう。

また、「昔のバージョンや、他社のソフトウェアを使っていた人でも、同じ操作性で使う事が出来る」という事が実現出来ていれば、尚良いと思われます(インターフェイスを、その人が習得しているものに揃える機能)。

関係者の皆さまには、ぜひ、そういった視点を取り入れたソフトウェア開発を検討して頂きたいと思います。


ちなみに、ソフトウェアの操作性への配慮については、過去、IT業界が全く行って来なかった訳ではありません。

例えば、Windows標準の日本語入力機能(Microsoft IME)には「キーテンプレートを選ぶ」といった機能があり、他の日本語入力ソフトに慣れた人の為の配慮がされています(逆に、他社の日本語入力ソフトにも、Microsoft IME用の設定があったりもします)。

また、有名な表計算ソフトのExcelには、「Lotus1-2-3形式のキー操作」といった設定項目があり、他社の表計算ソフトに慣れている人の為の配慮があります。

※Lotus1-2-3は、かなり以前に普及していた表計算ソフトの名前です。

このように、昔からあるソフトウェアの中には、少なくとも「他のソフトを使っていた人の為の配慮」が行われている箇所を見つける事が出来ます。

しかし、最近のソフトウェア(特にスマホ用アプリ)を見ていて、そのような配慮がされていると感じる事は、ほとんどなくなりました。

特に最近、大きな変更でユーザーを混乱させたと思うのは、Windows標準のインターネットブラウザのInternet ExplorerからMicrosoft Edgeへの変更です(Edgeについては、更に、Chromiumベースへの変更という問題もありました)。

企業や行政が提供するサービスを使う上で、インターネットブラウザの操作は欠かせません。

この為、この変更で混乱したユーザー(特に初心者)は、かなり多かったように思います。

ユーザーをサポートする側の立場でも、「最低でも、ユーザーインターフェイスの部分は変えないでおいてくれたらなぁ」と思った人は少なくないと思います。


ちなみに、以前は、ソフトウェアのアップデート(バージョンアップ)が強制的に行われる事はありませんでした。

この為、マニュアル(ガイドブック)と画面が食い違う事も、それほど多くはなかったはずです。

ですから、今よりは、「マニュアルを見ながら操作すれば、何とかなる」と感じていた人は多かったのではないでしょうか。

もちろん、アップデートの必要性が以前より高くなっている事情は解りますし、こまめな機能修正・追加も歓迎される事ではあるでしょう。

しかし、限られたユーザーだけではなく、多くのユーザーが使わざるを得ないようなソフトウェアに関しては、様々な「操作性の問題」についても、同時に配慮がされていく時代になって欲しいものだと思います。


今後、もし、操作方法の変化に対応出来ない人への配慮があまりに行われず、そのせいでIT化が遅れるような事があるようであれば、

一度覚えた操作方法で、最低限のデジタル機器の機能が使い続けられる権利」

といった権利を保護の対象としていく事も考えた方が良いのかもしれません。


なお、このブログをご覧の方は、IT機器の操作に自信のある方が多いかもしれません。

ですから、このような話題はピンと来ない方も多いかもしれません。

しかし、人は歳を取ります。

今、「IT機器の扱いは簡単だ」と感じている人も、もう少し年を重ねれば、感じる事は変わるかもしれません。

実際、今、「IT機器は苦手だ」という高齢者の中に、「昔は機械が得意だった」と仰る方は少なくありません。

ですから、今はピンと来ない方にも、出来れば、「自分にも関係がある事」と受け止めて頂ければ、と思います。