ビジネスコンサルティングの現場から

各種ビジネス・コンサルティングに携わる担当者が、日頃、「考えている事」や「気が付いた事」を不定期に発信します。

夫婦別姓の問題を企業経営におけるM&Aとの類似点から考える

f:id:yoshida-ri:20210817013552j:plain

「夫婦別姓」の問題について話し合っていた時、ふと、「企業でも似たような話があるな…」と思いつきました。

「夫婦別姓」の問題を考える上でも面白い視点であるように思いましたので、ご紹介させて頂きます。

気軽にお読み頂ければ幸いです。


企業経営において、「夫婦別姓の問題における『姓』に相当するものは?」と考えると、まず、思いつくのが「会社名」です。

そして、人が結婚するように、企業も他の企業と一緒になる事があります。

いわゆる、「合併・買収(M&A)」です。

この時、会社名はどうなるか。

ある会社が買収され、買った側に吸収されてしまう場合、吸収される側の会社名はなくなってしまいます。

そして、吸収された会社の関係者(社員やOB・OGなど)にとっては、馴染みある会社名が消える事になります

ただし、「会社名」は、買収交渉において、重要な交渉材料となる事もあります(例えば、会社名がなくなるのは構わないが、代わりに「新会社の役員構成で譲歩して欲しい…」などの交渉が行われる事があります)。

これを夫婦別姓の問題に当てはめてみると、

まず、結婚する夫婦の間で、

「結婚後、どちらの姓にするか?」

という話し合いをするケースはあるかもしれません。

しかし、

「貴方の姓で良いけど、代わりに○○の条件はのんで欲しい」

といった話し合いが行われたケースは、どの程度あるのでしょうか。

個人的には、そのような話は聞いた事がありません。

しかし、この企業の事例を参考にすると、「(どちらかが)姓を変えなければならない」という制度が続くのであれば、「姓を変えた側に、何らかのメリットが用意される」という考え方があっても良いのかもしれません。


もちろん、夫婦別姓の制度を求めている方からすれば、「そもそも、夫婦であっても、別の姓で良いではないか」という事になるのでしょう。

実は、企業経営においては、この考え方に対応する方式が存在します。

それが、「合併しても、両方の社名を残す」という方式です。

具体的には、「親会社(ホールディングス)を作って(または、最初からある親会社を利用して)、両社を存続させる」という方式が企業の経営統合の場合にはあります。

そして、両社が自社名にこだわっている場合、そのような経営統合が行われる事は多々あります。

しかし、です。

ご存じの方も多いかもしれませんが、最初は両社の名前を残して経営統合した場合でも、かなりの割合で、その後、「会社名を一本化する」という事が行われます。

やはり、「2つの名前を維持するメリットよりも、1つの名前にした方がメリットが大きい」という判断をされるケースが多いのです。

企業の場合には、それが「経営における合理的な判断」という事になる訳ですが、これは夫婦においても当てはまるのでしょうか。

もし、当てはまる部分があるのであれば、「夫婦別姓に反対」という意見にも、一定の理屈があるのかもしれません。


ただし、更に良く考えてみると、企業の合併の場合には、単純に「相手の会社名になる」というパターンの他にも、「買収(経営統合)にあたって、両社が会社名を変える」というパターンもあります。

すなわち、「両社とも会社名がなくなる(変化する)」というパターンです。

片方の会社名だけが無くなるような合併は平等ではないし、心機一転する為には宜しくない、という考え方でしょうね。

しかし、夫婦の姓の問題で、そのような解決策は用意されていません。

もし、「夫婦の両方の姓を残すのが難しい」という考え方が続くのであれば、今後、「お互い、新しい姓に変わる」という選択肢が用意されても良いのかもしれません。


更に検討を続けましょう。

実は、「2つ以上の組織が一緒になり、片方の組織名が消える」という事は、営利企業だけに発生する出来事ではありません。

身近な事例だと、学校でも起きています。

例えば、慶應義塾大学と共立薬科大学は2008年に一緒になりました。

そして、共立薬科という学校名は消えました。

学校は企業とはまた違った意味で。多くの人のバックグラウンドになるものです。

共立薬科の関係者は寂しい思いをしたはずだと思います。

しかし、報道で確認する限り、共立薬科の学生側から強い反対意見は出なかった模様です。

恐らく、相手に飲み込まれる事によるデメリットよりも、「相手と一緒になる必要性」や「相手と一緒になる事によるメリット」が理解されたのでしょう。

実際、発表後、共立薬科側の入試の志願者数は発表前の2倍強になり、偏差値も跳ね上がったそうです。

企業に当てはめると、「合併による規模拡大を大幅に上回る売上増加」や「就職ランキングの大幅アップ」が実現された、といったところでしょうか。

この「自分の学校名が消える事に反対意見が少なかった」という事を、夫婦別姓の問題に当てはめて考えると、「相手の姓にするメリットが小さい(ない)」と考える人が多いからこそ、「自分の姓を変えたくない」という意見がある、とも考えられます。

もし、「自分の姓を相手の姓に変える事で、大きなメリットがある」という事情があれば、また、違う意見を持つ人もいるのかもしれません。


更に、もう一つ。

ここまでは会社名の話ばかりしてきましたが、実は、会社名以外にも、企業は「対外的な名前」を持つ事が出来ます。

それがブランドです。

皆さまもご存じの通り、ブランドを育ててきた会社の場合、消費者は商品やサービスをブランドで認知している事が多いのです。

そして、合併で会社名がどうなっても、その「ブランド」は残す事ができます。

むしろ、相手が持っている「ブランド」が欲しくて買収するケースすらあります。

この考え方を夫婦の姓の問題に当てはめると、そもそも、様々な活動において、「戸籍の名前とは違う名前で活動しておけば問題ない」という考え方もできるように思います。

実際、芸名を持っている人は多く存在しますし、その芸名は結婚しても変わらないのが一般的でしょう。

芸名というと特殊な人だけの話のように聞こえるかもしれませんが、SNS活動などにおいて、ニックネームのようなものを使っている人は多いはずです。

実は、私達は、「自分の本当の名前以外で活動する」という事に、そこまで違和感はないのかもしれません。


さて、ここまで長々と検討を続けてきました。

「夫婦別姓の問題をどうすべきか?」という事について意見を述べたり、結論を導いたりしたい訳で検討を続けてきた訳ではありませんが、「興味深い視点」と感じて頂ける方がいらっしゃれば幸いです。