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半導体業界の今後が不安になる複数のニュースについて

半導体業界 今後 将来 将来像 不安

投資をされている方から、「半導体業界の将来は明るいに違いない」といった意見(分析)をお聞きする事があります。

確かに、半導体業界についての明るいニュースを耳にする事は少なくありません。

その一方、「半導体業界に属する既存企業の今後は、必ずしも明るいとは限らない」と考えている人もいます。

そのような方に根拠をお伺いすると、半導体業界の暗いニュースによるインパクトを重視されている為であったりします。

日本では、半導体業界に関する暗いニュースがあまり報道されていないように思いますので、半導体業界を取り巻く話題をいくつかご紹介させて頂きます。


まずは、大手CPU(中央処理装置)メーカーの製品不良に関する報道について。

パソコンに搭載されるCPUについては、現在、「Intel」と「AMD」の2社で世界シェアのほとんどが占められている状態です。

しかし、実は、この2社の製品については、「深刻な問題があるのではないか」という報道があるのです。


まず、Intelについて。

Intel社の製品について報道されているのは、「第13世代および第14世代と呼ばれるIntel社のCPUには、使い続けていると早い段階で壊れてしまう技術的な問題(不良)がある」というもの。

技術的な細かい説明は避けますが、「誤った電圧要求が送信されるソフトウェア的な問題があり、動作電圧が異常になる」という問題があると報道されています。

既に、Intel社の関係者が「自社のマイクロコードに原因があった」とリリースを出していますので、製品に不都合があった事は間違いないのでしょう。

そして、この問題の嫌らしい所は、「一度、この不良によって痛んでしまったCPUを、後から復活させる事は出来ない」という点です(ハードウェア的な損傷である為)。

これまでに発売され、世界中で使われてきた膨大な量のCPUは、既に随分と痛んでしまっており、それは(ハードウェア的に交換しない限り)修復は出来ない可能性があるのです。

実際、高負荷で利用されてきたCPUについては、2024年に入ってから次々と壊れ始めているそうで、それが今回の問題発覚の発端となっています。

問題を抱えたCPUに関して、今後、Intel社がどのような対応をしないといけなくなるのかは読めない所があります。

更に、「そのような問題が製品にある事を発売前に(そして、長い間)、Intel社が見つけられなかった」という点も気になります。

技術的な難易度が上がっているのかもしれませんが、今後の製品について、Intel社は問題なくリリースできるのかどうか、と懸念する声もあるのです。


次は、もう一社の大手CPUメーカーであるAMDについて。

こちらの製品にも問題が報告されています。

こちらの製品に報告されている問題は、「ハードウェアが乗っ取られるセキュリティ上の問題がある」というもの。

こちらも、メーカーが問題を認めていますので、問題があった事は間違いないのでしょう。

この問題がいやらしいのは、「(通常のソフトウェアレベルではなく)もっとハードウェアに近い階層で乗っ取りが行われてしまう」という点です(技術的には、BIOSと呼ばれるレベルでの問題となります)。

通常、パソコンが何らかのマルウェアに汚染されてしまった場合、ソフトウェアを全てインストールし直せば、マルウェアを排除する事が出来ます。

しかし、この問題を突かれてマルウェアに感染してしまった場合、ソフトウェアとは違うレベルで感染が起きている為、そのようなやり方では元に戻す事は出来ません。

そして、この問題が恐ろしいのは、既に侵入されてしまっていた場合には、「侵入されているかどうかを調査する事すら出来ない可能性が高い」と、報道されています。

パソコンにとっては、あらゆる動作を行う基本的な動作ともいえる部分が乗っ取られてしまっているので、自分自身の異常を調査する事すら出来ない、という理由です。

対応としては、マルウェアに感染する前に、問題を修正するパッチを導入すれば、このセキュリティの穴は防げる事になっています。

しかし、上記の通り、既にマルウェアに感染しているかどうかをユーザーはチェックする事が出来ず、既に感染していた場合、パッチを導入してもマルウェアを除去できない可能性があります。

結果、ユーザーは、「自分が使っているパソコンが安全かどうか判断できない」という状態に置かれる事になるのです。

※セキュリティ関連企業IOActiveの関係者によって発見され、「Sinkclose」と名付けられたAMD製CPU(RYZEN CPU)についての脆弱性。対象となるCPUはAMD RYZEN 3000シリーズ以降の製品。システムマネジメントモード(SMM、コンピューターの基本的な処理を行う事ができる部分)への不正アクセスおよび設定の書き換えが可能となるというもの。なお、この脆弱性を突いた攻撃が成功する為には、事前にOSへの攻撃が成功している必要がある、との報道もあります。


次に、GPUについてのニュースを。

近年、AIとの関係もあってGPUという種類の半導体が注目されています。

しかし、「今後も、GPUが大量に必要となるのか」という点について、懸念を抱かせるようなニュースが発表されているのです。

以前より、「AIの将来性は過度に明るく見積もられている」や「新規企業(特に利用者側)による独自開発が更に進む」などと考える人達からは、「特定のメーカーが製造するGPUについては、(将来的には)期待されている程のニーズはないのではないか」という声が挙がっていました。

しかし、これに加え、「これまでAIが必要とすると考えられてきた作業に、(予想されてきたほどは)GPUが必要なくなるかもしれない」というニュースが発表され始めているのです。

まず、従来は大量の処理パワーを必要とする「AIの新しいモデルの構築」という作業に関し、「モデルマージ」という手法が提案されました。

この手法をうまく活用できるようになると、「既存のモデルから新しいモデルを構築する際、GPUが不要になる可能性がある」と報道されています。

また、マイクロソフト社の研究チームが「BitNet(通称、1bit LLM)」というテーマについての論文を発表しました。

この論文は「AIに必要となる演算処理を軽くできる可能性」を示唆しており、これを受け、「これまで必須と考えられてきたGPUは不要になる(CPUのみでも動作するようになる)」という可能性に触れた報道も出て来ています。

※2024年に書かれた「The Era of 1-bit LLMs: All Large Language Models are in 1.58 Bits」という論文。
https://gigazine.net/news/20240229-microsoft-1bit-llm/


ご紹介するニュースは以上です。

これらのニュースが、今後、どのようなインパクトを半導体業界や各社に実際に与えていく事になるのかは、もちろん、解りません。

しかし、少なくとも、「半導体業界の将来は間違いなく明るい(暗いニュースはない)」と理解されている方には、これらのニュースについても知っておいて頂いた方が良いのではないか、と思い、ここで紹介させて頂く事にしました。

よろしければ、参考になさって下さい。


※既存企業にとって、対応しないといけない問題(リスク)があるのは当然の事であり、ここで取り上げている業界や企業だけが問題(リスク)を抱えている訳ではありません。この記事は、特定の業界や企業の評価を意図しているものではありません。あくまで、いくつかの情報を提供しているのみです。この情報だけをもとに業界判断や企業評価を行う事はお控え下さい。また、投資の参考にされる場合には、ご自身の責任でお願いします。